07


森谷教授に話を聞くため、彼の家を訪問する。「おや安室さん」 朗らかに僕を迎え入れたが、その後ろに引き連れられた風見たちを見て、少し眉をしかめたように見えた。

「僕の友人です、警察ですがね…」
「警察がなぜ?」
「少し確認したいことが」

森谷教授はしばらく押し黙る。何かしらの思惑があるのか。にっこりと微笑むと、しばらくして人当たりのいい笑顔とともに「どうぞ」と家の中に招かれた。





「なるほど、確かに偶然にしちゃ出来すぎてますな……」

一連の爆弾騒ぎ、そして放火の流れ、その場所から、その目的が恐らく森谷教授に関係しているという僕の見解を伝える。「何か心当たりは?」そう聞き返すと森谷教授は「うーん…」と考え始める。向かい合うソファーに勧められるがまま座る。風見たちはソファーの後ろで待機しているがその瞳は鋭かった。
僕たちはもう1つの仮説も立てていた。それは、目の前の彼――森谷帝二本人が、犯人の場合。だか、それにしての決定的な証拠はもちろん、根拠もない。風見に目線をやる。「すみません、少しお手洗いに」風見が席をはずす。同意のない家宅捜索――まではいかないが。公安お得意の違法捜査だ。

目の前の森谷教授がマッチでパイプに火をつける。鼻を掠める香り。…………どうやら、僕の推測は正しいらしいな。となると、それにも関わらず僕たちを家の中に招いたのは、きっと。別の捜査員に目線を送る。静かに応接室を出ていく。有能な彼らに、この後の捜索は任せよう。

「お待たせしました。安室さん」
それからしばらくして、風見が応接室に戻ってくる。先ほど出ていった捜査官も一緒だ。彼らが僕に対して一つ頷きを返したとき、僕は立ち上がる。「すいません、少し場所を移しても構いませんか?」

「犯人について、お話ししたいことがあります」





「ご説明したいのでギャラリーの方に移動させていただきたいのですが」

少し固い表情をした教授が、僕の顔を睨むように一瞬見た。しかしそれもすぐに人の良さそうな顔に変わる。
「構いませんが、少し書斎に寄ってもよろしいですか?」
「もちろんですよ」
彼が書斎に入った一瞬、「降谷さん」捜査を依頼した男にあるものを受け取る。……なるほど。口には笑みを浮かべていた。

ギャラリーに入ると、そこには布が取り払われたショーケースが飛び込んできた。恐らくこれらは風見によるもの。その瞬間、全てが繋がった。パネルに撮られた今回狙われた建物の数々。それらの共通点。そしてショーケースの中にある模型――『我が幻のニュータウン西多摩市』の文字。そこに飾られてるガス灯。面白いくらいに、全てが繋がっていった。「犯人は誰なんですか」風見が僕にそう問う。

「森谷教授」

その背中を見やる。「若い頃はまだ未熟でねぇ…あまり見ないでくれ」あの時の彼の言葉、これが全てなのだ。

「犯人は、あなたですね?」

「……どういうことかね?」挑発的なその言葉に、僕は自分の推理を話始める。彼が犯行に至った経緯、その動機を、明かしていく。

幼い頃から建築家として父親の才能を受け継いだ森谷教授は、三十代始めという異例の若さで建築界にデビューした。そして環状線の橋の設計で、日本建築の新人賞を獲得した。輝かしいその人生。だが、そんな人生にも闇が生じたのだ。
おそらく森谷教授はあるとき、若い頃の作品の一部を抹殺したくなった。教授がティーパーティのときに口にしていたこと――「最近の若い者の多くは自覚が足りない。もっと自分の作品に責任を持たなければならない」と。つまり彼は、その言葉を実行したということだ。

「今回放火された四軒……そして爆弾が近くに設置された橋、全てあなたが若い頃設計されたものですよね。それらは恐らく、完全なシンメトリーではないのでしょう」

微妙に左右対称になっていない建物。建築主の注文、建築基準法などの関係で妥協せざるを得なかったのだろう。しかし、それは完璧主義者の教授にとっては我慢ならなかったことだった。そして、教授の順風満帆な人生に射した徹底的な闇。それが、このショーケースの中に飾られたニュータウン西多摩市。これらの計画は、確か直前の市長の逮捕により破綻になったはずだ。

「僕を狙ったのは恐らく毛利先生の弟子だったから。僕が先生に泣きついて警察に伝わるのが狙いだったのでしょう」実際は泣きつきはしなかったが、あそこまでの計画に、一人のふがいない探偵――安室透では立ち向かうことはできない。どちらにせよ、警察への協力は不可避だと踏んだのだろう。警察への復讐と、過去の作品の抹消。これらが、彼の目的だったのだ。

「そしてあの時止められたタイマーの謎…。そこにはガス灯がありました。壊したくなかったんですよね?こよなく愛したあのガス灯を…。恐らくあれは、ニュータウン西多摩市のシンボルになったはずのものですから……」

何か相違は?

そう彼に尋ねると、「……ふ」と教授は笑った。ゆっくりと振り返るその表情は、先ほどまでとはうって変わっていた。そして自身のジャケットに手を入れ、何かを取り出す。その手の中にあったのは、小さなライター。

「起爆装置………ですか」
「なぜこれが起爆装置だと気がついた?」
「教授はライターなんて使いませんよね?パイプに火をつけるのもマッチですし」

「女の子が言っていた甘い匂いとはそのパイプの匂いですよね?」
最後にそれを言うと、被せるように「動くな!動くとこの屋敷にしかけた爆弾を爆発させる!」と教授が叫ぶ。やはりこの屋敷にも爆弾は仕掛けられていたか。僕たちにいつ真実を見抜かれてもいいように。だからこそ彼は、僕らを屋敷の中に招いたのだろう。しかし、僕らだってそこまで考えていなかった訳ではない。

「爆発はしませんよ……残念ながら」
「何?!」
「それが爆弾のスイッチだと気がついたとき、抜いておきましたから。電池」

手の中にある電池を彼に見せつける。これは先ほど捜査官に渡されたもの。公安を…日本の警察をあまり見くびらないでいただきたい。



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