ゼロ

 クロヴィス殿下による全軍撤退の命令が出た時、ロイドは瞬間的に不満そうな、詰まらなさそうな顔になった。その時の変わりようはいつになっても忘れないだろう。


 ◆ ◆ ◆


「クロヴィス殿下、誰が殺したんだろうねぇ」
「ロイドさん、不謹慎ですよ」

 コーヒーを啜りながらロイドが言った言葉にセシルさんが制止をかけた。制止こそすれどセシルさんも気になってはいるのだろう、それ以上言葉にすることはない。

「いやぁ、でも惜しかったなぁ。もうちょっとデータ取れたのに、それに……」
「スザク君、ですね」

 クロヴィス殿下殺人容疑で逮捕された枢木スザク。端的に言えば人種差別による濡れ衣だ。

「彼がディヴァイサーやってくれないと困るんだけどなぁ」

 溜息を隠すこともしないロイドに対し、取り敢えず頼まれていた調べ物を報告をするべく持っていた紙束を差し出した。遺体リストに“ルルーシュ”という男性と“謎の女性”が無いかという事だったが、結果はノーだ。

「ん? ああ、ありがとうサラ。さて、じゃあボクはこれの報告がてらスザク君の様子を見てくるよ」

 いってらっしゃい、という意味を込めて手を振る。残された私とセシルさんは同時に溜息をついた。もしかしたら一からデヴァイサーを探さなければいけないとなると、第六世代ナイトメアフレームのバージョンアップが遠のくだろう。

「一応証言として特派からも法廷に提出しているからきっと大丈夫よ」

 セシルさんと私の溜息の対象は同じ物だったようだ。セシルさんが力無く笑みを浮かべてくれた。

「さあ、私達はランスロットのメンテナンスをしましょう。スザク君の技術ならもう少し複雑な操作も難無くこなしてくれそうだからやりがいがあるわ」

 そうですね、という意思を伝えるべくこくりと頷いた。


 ◆ ◆ ◆


「まさか……」
「真犯人だね!」

 後日、ランスロットの機上で機体のメンテナンス作業をやっているこちらにも聞こえた。下方にいるロイドとセシルを見れば、何かの画面を一緒に見ていた。

「もうこの段階まで来れば俺達だけで出来ます、行っても良いですよ」

 頭上から聞こえた声。同じ特派の一員である彼は、私を見てクスクスと笑っている。

「(ではお言葉に甘えて……)」

 そう思い、立ち上がってランスロットからヒョイヒョイっと下まで降りた。

「サラも気になる? 真犯人、ゼロって言うんだってさ」

 嬉しそう、と言うより楽しそうなロイド。ゼロ、存在なしを名乗るとは物好きだなと思うが真犯人という単語は気になるため画面を覗き込む。

『此処からでは何があったのかは分かりませんが、枢木スザクの拘束が解かれるようです!』

 画面からの音声と映像。確か純血派の一人だったと記憶しているジェレミア卿がスザク君の解放を指揮しているように見えた。明日は雪でも降るかもしれない。
 あっという間にスザク君はゼロによって助け出され、次の瞬間画面は煙に覆われた。

「いやぁ、これ上手く行けばスザク君無罪放免かもしれないね」
「だと良いのですが……」

 そんな会話をした時から更に後日、スザク君が特派に戻ってこれる事になった。知らせを受けたロイドが「は〜良かったね〜これで新しいデヴァイサー探さなくて済むよ〜」と言ってセシルさんに不謹慎だと詰められたのはまた別の話である。


 ◆ ◆ ◆


 スザクを迎えに行くのを私は遠慮をしておいた。実戦登用が叶ったとはいえまだまだテストデヴァイサーのやる事はあるし、テストデヴァイサーである前に私は特派の一員だ。仕事など湧いて出てくる。
 と言う事で、今私は留守番中。ロイドも私が残る事を何とも言ってなかったし問題は無いだろう。

「ただいま〜サラーコーヒー」

 帰ってきたと同時にお茶汲みを言い渡され、一つ頷いて給湯室へ。行く途中スザク君もいる事を確認したので彼の分も用意する。
 淹れたコーヒーを持って行くと、ロイドとセシルさんはいつも通りの反応。スザクは戸惑いながらも受け取った。砂糖とミルクはご自由にという事でそれぞれテーブルの上に置いておいた。

「ありがとう、ございます」

 まだ戸惑ったままのスザク君にたどたどしく礼を言われた。別に取って食いやしないのに何をそんなに緊張しているのだろうか。

「そういえば早速明日からだっけ? アッシュフォード学園に通うの」
「あ、はい。ユーフェミア殿下のご厚意で……そういえば」

 スザクが急にこちらに顔を向けた。嫌な予感。

「サラさんは学園に通わないんですか? 見た所同い年くらいですよね」
「あーダメダメ、サラは学校とか行かせない事にしてるから」
「え?」

 私が返事をする前にロイドが答えた。この展開、ちょっとだけ懐かしい。連絡も取っていないラクシャータさんを思い出しながら目の前のやりとりを見守る。

「学校に通った事無いんですか?」
「うん、サラの祖父サマの遺言でもあるからね。声が出ないからコミュニケーションに支障あるし、通わせたとしても浮くのが目に見えてるよ」
「そんな、試しても無いのに……」
「勿論サラが行きたいって言うなら止めないけど、そこんとこ今はどうなのサラ?」

 ロイドの興味なさそうな視線とスザクの期待に満ちた視線。ギャップのある視線を受けながら端末を取り出し一言文字を打って見せた。

『行かない』

 それを見て、ロイドは「だよねぇ」と言いコーヒーを啜り、スザクは見るからに納得がいかないような、落胆したような表情になった。