引越し
「しっかしランスロットごと追い出さなくったってさぁ……」「そうですよねぇ、ナンバーズはダメだと言われても……」
珍しくロイドの疲れきった声。仕方が無い、何せ特派を丸ごと移動させられる羽目になり昨日から荷造りだ機材の移動だで休んでいないのだから。しかもその理由がスザクなのだ。ランスロットのデヴァイサーを失うわけにもいかないので移動が余儀なくされた。いつまでも泣き言は言ってられないのでさっさと物を大学の校内へ運んでいく。
「……働き者ですよねサラちゃん、誰かさんとは大違い」
「……」
こんな会話がされていたなんて知らずに積荷を荷台に乗せながら何度も往復して行った。
◆ ◆ ◆
「ね、それ食べてみて?」
「あ、ありがとうございます」
セシルさんとスザク君のその会話を聞いてすぐ止めに入ろうと思ったが時すでに遅し。
「う……!?」
「感想を聞きたいんだけど」
「……ジャム?」
分かるよスザク君、最初は何の疑いも無く食べちゃいますよね。おにぎりにブルーベリージャムが入ってるなんて常識的には思わない。私もセシルさんが味音痴と知らなかった頃食べてしまった。そして大いに後悔した。見た目で人を判断できないって身をもって実感した出来事である。と言う事で、ご愁傷様スザク。水をスザクの横に置いたのは同情からだ。
「はーい、解散解散! 今日は出番ナシ! おーめーでーとー! おしまいっ! はぁ……」
そんな中部屋に入ってきながら叫んでいるのは見るからに落胆の様子のロイド。確か新しい総督であるコーネリア殿下と謁見の場があったはず。その時ナンバーズのパイロットを否定されたのだろうか。取り敢えずコーヒーを手渡した。
「……サラがウィル博士の孫娘じゃなくて発声もできていたら、キミがランスロットのデヴァイサーだったのかね」
猫背のまま見上げられる形で言われた。その言葉が冗談である事は分かりきっている。ウィルが私の祖父でなければ私はロイド達とは出会っていないし、そもそも私がナイトメアフレームに興味を持たなかった。冗談は冗談で返すべく、端末を取り出して文字を打つ。
『言われれば今からでも私は正式ディヴァイサーになる』
「そ、ならもう少し彼で粘ってみようかな」
私の言葉に即答する所を見ると、やはり先ほどのロイドの言葉は本気では無かった。口が滑って出てしまった愚痴のような物だ。
「はぁ、今日は気が抜けちゃったし解散って言ったし、久しぶりにのんびりしようか」
疲れたような笑みでコーヒーを啜り、ロイドは立ち上がった。私はそれに頷いてロイドの後に続いた。
「セシル君ー、後片付け頼んだよー」
「はーい」
◆ ◆ ◆
(スザク視点)
「ロイドさんとサラさんって一緒に帰られるんですね、軍の寮みたいに研究者の方も宿舎があるんですか?」
セシルさんに一言言って部屋を出てしまったロイドさんと、同じくセシルさんに一礼をしてロイドさんを追っていったサラさん。それを見てふとした疑問が湧いてきた。その疑問をそのままセシルさんに聞いてみる。
「ロイドさんは腐っても伯爵ですもの、寮ではなく近場にセカンドハウスがあるわ」
セシルさんはロイドさんが使っていたマグカップやおにぎりを持ってくるのに使っていたお皿をお盆に載せながら答えてくれた。ちなみにサラさんからもらった水の入ったコップは死守した。
「そうですか……あれ、じゃあなんでサラさんも?」
「サラちゃんの後見人がロイドさんなの。サラちゃんのお祖父様からの遺産とかロイドさんが預かっているし、今は二人で一緒に住んでるのよね。まあ皆大体ここに泊まり込んでるから滅多に帰らないけれど」
さも当然のごとくそう答えられて、思わず言葉に詰まってしまった。これは日本人とブリタニア人の価値観の違いなのだろうか。もしかしたらそうかもしれないが聞かずにはいられなかった。
「そ、それは、あの……大丈夫なんですか……?」
「え? ……ああ!」
言葉を濁して聞いてしまったがセシルさんはその意味を正しく読み取ってくれた。
「大丈夫よ〜! サラちゃんのお祖父様には私たちもお世話になってるから『間違い』を起こす事は絶対にないわ」
くすくすと上品に笑いながらそう答えてくれたセシルさん。しかし俺は納得がいっていなかった。そしてきっとその気持ちが表情に出ていたのだろう、セシルさんは改めて説明してくれた。
「万が一もし『間違い』を起こす事があれば、地獄で一番討論したくない人と一番討論したくない議題でお話ししなくちゃいけないもの。サラちゃんのお祖父様の顔がチラついてそんな事にはならないはずよ」
そもそもそんな事になったら地獄に行く前に私が何発か殴ってるかもしれないわね〜、なんて言いながらセシルさんがお盆を持って出ていってしまった。この話題はここまでと言う事である。本人達が納得しての事ならこれ以上何か聞くのも野暮だろう。心のモヤッとした物を流すためにも、口の中の違和感を払拭するためにも手元に残っていた水を一気に飲み干した。ジャムの香りはまだ残っている気がするが、少なくとも気にならないくらいまでに治まった。
(スザク視点 終)