ホテルジャック事件

 ホテルジャック事件。日本解放戦線の一部の者が展開した事件である。特派も人質救出作戦の参加を申請しているが、コーネリア殿下からの許可が下りなければ動けない。ナンバーズに頼らないという殿下の考えがそれを許さないのだ。

「(まあ、それも時間の問題だろうな)」

 ランスロットの外装を磨きながらそんな事を思う。世界中のナイトメアフレームと比べたとしても我らがランスロットは確実にスペックで優位を取れる。だからこその最新第七世代なのだから。それをデヴァイサーがナンバーズだからと言う一点のみの理由で捨て置くには足りないほどのアドバンテージだ。
 偏見ほど面倒な感情は無い。それが無ければ争いの大半が無くなるだろうが、引き換えに人間らしさが無くなってしまう。人間とは面倒な生き物だ。自分も人間であるから他人の事は言えないが。

「サラさん、何か手伝える事あるかな?」

 下のほうから聞こえた声に暇潰しの物思いから現実に引き戻される。視線を向ければスザク君がこちらを見上げていた。少し考えた後、棚の上に置かれている一つのケースを指差した。

「……パイロットスーツ?」

 入っていたのは以前からランスロット機乗時にスザク君が着るスーツ。ランスロットから飛び降りて端末に文字を打ち込んで見せた。

『準備してて 貴方はランスロットのパイロットなんだから』
「え? でも……」

 何か言いたげにする所を無視してまた文字を打ち込む。

『作戦参加の申請はした あとは上からの返事を待つだけ それとも命令が出てから準備するの?』

 端末の文字を目で追った後、スザク君は驚いたようにこちらを見た。そして一度目を伏せて微笑んだ。

「そうですね、サラさんの言う通りだ……僕、着替えてきます」

 スザク君はパタパタと別室に移動した。素直でよろしい。


 ◆ ◆ ◆


 囮、だそうだ。ランスロットが囮だなんて、世界で唯一の第七世代ナイトメアフレームを。殿下からの命令のため表立って主張はできないが、腸が煮えくり返る錯覚を感じてしまうほど憤りを覚える。

「なぁに、彼も馬鹿じゃないよ。みすみすランスロットを壊す真似はしないさ、多分」

 私の思う所を悟ったのだろう。ロイドが私の肩を軽く叩きながらそう言った。

「まあ、もしランスロットを壊そうものなら、その時はボクやキミが黙っちゃいないけれどね」

 質の悪い笑みだ。ただし私も同じ表情をしている。

「ランスロット、発進!」

 カウントダウンを終えたランスロット。いきなりフルスロットルで発進するのは彼の癖なのだろうか。できれば控えてほしい。動力への負担とタイヤの摩耗が半端無い。
 一分と経たずして轟音と共に大きな地響きが発生する。瓦礫が落ちて来るもんだから頭を低くして腕で覆った。

「だから言ったじゃないですか!」
「うん、囮じゃなくてやりきっちゃうつもりだね!」

 嬉しそうだなぁロイド。それに比べてセシルさんはご立腹の様子。スザク君が無理をするだろうと分かっていながら送り出したからだろう。

「っ、第五車突破! 凄いわスザク君……!」

 その心配は杞憂に終わっている。

『セシルさん、ここでバリスを使います!』
「え! 待って! それは危険よ!」
『滑走領域が狭まりました。爆風は覚悟の上ですっ!』

 大馬鹿者が。ランスロット傷つけたら本気でただじゃ置かない。そんな事でランスロットが壊れるとは思わないけど。
 水飛沫と共に再び地上に現れたランスロット。スザク君はそのままバリスを連射する。ホテルの基礎ブロック破壊成功。つまりは作戦遂行の成功、なのに彼はそこで止まらなかった。目の前で起こった爆発にスザク君が我を忘れて、あろう事かその中に突っ込んでいったのだ。

「よせ! 枢木准尉!」

 ロイドが叫ぶ。もしも声が出るのならば私も叫んでいただろう。それでも私の喉からは引き攣ったような空気が通る音しかしなかった。声が出ない代わりに思わず拳を握る。
 何考えているんだ彼は。きっと何も考えちゃいないのだろう。煙が晴れて無傷のランスロットを確認しても、憎しみとも例えられるその感情が収まる気配は無かった。


 ◆ ◆ ◆


(スザク視点)
「最後のは感心しないよ、枢木准尉」

 只今ロイドさんから説教中。当然だ。我を忘れたとは言え爆発の中に進んで入ったのだ。一兵士がそんな事をしても命を捨てるだけで何の役にも立たない。

「ランスロットに課せられた任務は基礎ブロックの破壊までだ。出過ぎた真似をするには時と場合を考えなきゃね」
「……すみませんでした」

 素直に謝るとロイドさんは溜息をついた。

「反省してるなら良いよ。あと、今日明日はサラには話しかけない事だ。喋れないのもあって外に出す事は無いけど、あの子内心はかなり怒ってるだろうからね」
「え?」
「勿論キミだけの所為ではないんだけど、決定打になったのはキミの最後の行動だ。穏便に済ませたいなら少し時間を置きなさい」

 そのままロイドさんはランスロットを整備しているサラさんの元へ行ってしまった。
 長くサラさんと過ごしてきたロイドさんが言うのだからそうなのだろう。今度謝るべきだろうか。その前に何に怒っているか把握しなければ。
(スザク視点 終)