映画そっちのけで呪いの王と会話する話
『珍しい結界だ。空間の切断、世界の中にもう一つ世界を作り出すようなもの……通常の結界とは逸脱している』悠仁少年の隣でコーラを飲んでいたら聞こえてきた声に吹き出しそうになる。少し咳き込んでしまった。
「えっ、この映画今なんか笑うとこあった?」
「いや、違う、映画じゃなくて普通に気管に入りそうで」
「大丈夫?」
俺が咳き込んでも呪骸は花提灯を付けたまま。飲み込みの早さが素晴らしい子だ。そして心配そうにこちらを伺っている。良い子だなあ悠仁少年は。
『何を驚いている? 貴様の簡易領域内にいるのだ、会話する事など容易いであろう』
空耳じゃなかった。空耳と思いたかった。
めっちゃこっち見て笑ってるなあとは思っていたがそれだけで特にあちらからのコンタクトはなかった。なのにこの空間にもだいぶ慣れてきた頃に大爆弾が投下された。
「(なんで体の持ち主の悠仁飛び越えてこっちに話しかけられるんだよ!!)」
『ここの結界内では言わば貴様が創造主だ、結界内の情報は逐一把握できるのだろう?』
「(俺初めて自分の才能が憎いと思った……!)」
そこではたと気付いた、なんで普通に会話できてるんだ。
『俺の領域に穴を開けたからな。何、安心しろ。穴を開けたと言ってもこちらからの干渉は言葉を交わすくらいしかできん、忌々しいことにな』
苦虫を噛み潰したような声色。なるほど、姿は見えないがどんな様子なのか分かる。分かりたくなかった。
「(あの、不干渉協定結んだと思うのですが……)」
『貴様から干渉したら赦さんと言っただけだ、協定など結んでおらん』
「(そうでしたね!)」
『どの時代も呪術師というのは弱いくせに吠えよるから目障りでならん。が、その反面貴様は分をわきまえている。初手の平身低頭ぶりは中々愉快だったぞ』
「(お褒めに預かり光栄ですぅ!)」
半ばヤケクソで返答を続ける。暇なのか、暇なのだろう。千年前は呪術全盛の時代でブイブイ言わせていたのだ、一人の少年の中で動く事もできないとなると暇で暇で仕方ないのだろう。
『何か無礼な事を考えておるな』
「(滅相もございません!)」
ああ悲しきかな、呪術師の自分が受肉しかけた呪物のご機嫌取りをするとは。いやでも怖い物は怖いし、長い物には巻かれていたい。
『小僧が見ている芝居も退屈だ。どれ、貴様俺の話相手になれ』
拒否権などあろうはずもないので心の中で涙を流す。両面宿儺の話を聞きながら賛美賞賛時々ツッコミを入れつつ過ごした。生きた心地がしない時間だった。
◆ ◆ ◆
映画も終盤、クライマックスに差し掛かる頃、地下室の結界に大きな気配が入ってきた。別に物理的に大きいわけではなく、それくらい膨大な呪力を持っている人という事だ。珍しい、五条先輩がこんなに残穢漂わせてるなんて。残穢の方もかなり強い呪霊だ。
ちなみに両面宿儺はつい先ほど俺との会話にも飽きたのか『寝る、暫く黙っとけ(要約)』と言われてから一言も喋っていない。やっと安寧の時間を得て息をついたところだ。
チラリと視線だけで後ろを振り返ると人差し指を口に当てて静かにしているようジェスチャーされた。
「悠仁」
悠仁にとって映画に集中している最中突然呼ばれたのだ。声にならない驚き方をしてばっと振り返った。
「五条先生!? 用事は?」
「でかけるよ悠仁」
「えぇ!?」
「課外授業。呪術戦の頂点、『領域展開』について教えてあげる」
はい立った立った、呪骸は置いてってねー、なんて言いながら悠仁を急かす五条先輩。置いていかれた呪骸を持って機能を一時停止させる。ついでに映画の方も一時停止した。
「雨流も来るでしょ?」
「行きます」
両面宿儺の話相手をして精神的磨耗が激しいが、領域展開が見れるとなれば話は別だ。呪術戦の頂点は結界術の頂点でもある。できる人も少なければ見れる機会も乏しい。宿儺の相手をしていた事で膝が笑いそうなのを鞭打って五条先輩について行った。