THE STONE WORLD


戦う女王

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「ナマエ」

ゼノはおもむろに右手の手袋を外した。なんだろう、まだ作業は終わっていなさそうなのに。

「どうしたの?」
「いやね、少し思いついたんだ。まあ、これはあまり君のような人には響かないだろうが」
「?」
「僕がこの世界を総べる王ならば・・・」

キング。独裁者だから、王様か。
お似合いだけれど、いきなり出てきた大層な言葉に驚いてしまった。
ゼノは滑らかな動作で私の左手を取った。そこにはめられた指輪に、触れるだけのキスを落とす。

「・・・君は必然、この世界の女王ということになるな」

今度はクイーン。
また大層な言葉が出てきた。

「そんな、私は女王って器じゃないよ。あんまり興味ないし」
「否定したって事実じゃあないか。銃を手に戦う女王・・・おおエレガント!なんて美しいのだろう」
「美しい要素どこにあるの?」
「そんなものは決まっているだろう。ナマエ、君が美しいんだ」

当たり前のようにそんなことを。ゼノはそのまま大事そうに指輪を撫でた。
この婚約指輪は、石化後にゼノが作り直してくれたもの。元々はめていたプラチナの指輪は、カルロスがルーナに贈ったものと同じようにプラントの餌食となってしまった。
あの時あの光に包まれた瞬間、回避行動を取りながらも祈るように手を握りしめたおかげで、大した劣化は進まなかった。それくらい大事なものだったが目的のためならしょうがない。もっとも、私よりもゼノの方が名残惜しそうにしていたが。

「ゼノ。美しさで言ったら、この指輪には敵わないよ。こんなに綺麗で素敵な指輪、眩しくて直視できないもの」
「ナマエ、逆だ。君の輝きに僕の拙い手作りのそれが負けてしまっている」

拙くなんかない。本当に美しくて綺麗で素敵な指輪なの。・・・そう何度言っても、ゼノは否定してくる。
たとえば、ゼノは代わりの指輪ができるまで、その辺の毒性の無い植物のツタを寄越してきたくらいだ。可愛い花も一緒にプラスして。そのくらい見た目にこだわる人なのだ。
彼はそうやって愛を全て言葉や形にしてくれる。そして私はそのおかげで・・・彼から伝わる大きな愛を、丸ごと全部抱きしめられる。

「ゼノ、ありがとう」

肩に手を置いて頬にキスをすると、ゼノは微笑みながら私の腕に右手を添えた。そこに刻まれた石化の名残りを、上から下になぞっていく。夜はともかく、この忙しい時間帯に素肌で触れてくるのは珍しい。旧世界では当たり前のことだったけれど。
なんとなく、彼の左手を取って手袋を爪ごとスポッと外した。薬指には私のものと姿かたちの似た婚約指輪がはめられている。これもまた彼の手作りだ。
不思議そうな顔をするゼノに、ふとした疑問をぶつけてみた。

「そういえば・・・今まで聞きそびれてたけど、結婚ってどうなったの?」

私たちは3700年もの間、婚約者のままで居続けている。今更結婚したところで何かが変わるわけでもないけど、ゼノはたまに私のことをフィアンセと呼ぶ。
こういうことはあまり聞かない方がいいのかもしれないが・・・でも、なんとなく気になってしまった。

「結婚か。まずは役所を建ててマリッジライセンスを取得しなければ」
「・・・役所たてるの?」
「ジョークさ」

いや。ゼノならやりかねないと思った。

「ゼノが王様なら、なんだって自由に決めちゃえばいいよ。何をもって結婚とするのか」
「式はあげるだろう?」
「別にいいよ、忙しいでしょ?」
「君のドレスは・・・さすがに本職の人間でないとな。都合よくブライダルの服飾関係者が現れてはくれないだろうか」
「・・・ゼノ」
「グルームズマン(花婿の付き添い人)はとっくの昔に決めてあるんだ。偶然彼も僕らと同時に目覚めてくれたことだしね。今から彼のスピーチが楽しみだ」
「・・・」

ゼノは結婚式をあげる気満々らしい。そうだと思った。だって結婚式ほど形式的なものはない。

「まあ、現状どうしても小規模な式になるだろうね。それだけが残念だ」

そこまで言うと、ゼノは私の手から手袋を抜き取って両方ともはめ直した。作業を再開するらしい。
結局いつになるのか分からずじまいになってしまった。彼はやりかねないジョークを言ってごまかしたが・・・確かに今のこの状況では、結婚式などという自惚れたイベントをやっている暇はない。
少なくともあと数年はお預けになりそう。仕方がないことだ。これ以降この質問はやめよう。

「さて、そろそろ・・・。仕事を溜めるわけにはいかないからね」
「ゼノ、待って」

思わず腕を掴んだ。彼が本当に作業に戻ってしまう前に、最後に一度だけ。

「何か言い忘れたことでも?」
「そうじゃないよ」

首を振ってやんわりと否定すると、さっそく彼に手を伸ばした。少し高いところにある頭の裏をぐいっと引き寄せると、ゼノは予想通り困った顔をする。

「ナマエ、何度も言うように・・・」
「お願いゼノ。少しだけ」

世界がこんなことになってから、私の方が積極的になってしまった。
なぜなら、ゼノがあまりキスをしなくなったから。夜も滅多に寝てくれない。理由はただ一つ。彼がなによりも私の体を心配してくれているから。
当たり前の話。こんな世の中だと、私たちはいつ感染症にかかってもおかしくない。科学者である彼の手にかかれば、薬や治療などはある程度なら期待できるものの・・・そもそも病気なんてかからない方がいいに決まっている。

それでも私は触れ合いたいの。

ゼノは不要な接触はなるべく避けようとするが、私が聞き分けがないからその度に何回も同じ説明をしてくれる。
でもやっぱり私は聞き分けがないから、離れるどころかさらに彼に近づいた。

「少しだけと言ったって、結局何度も欲しがるじゃないか」
「・・・ダメ?」
Oh,hun・・・駄目だなんて」

私のおねだりに、彼は眉を下げて苦笑いした。説得する方法でも考えているのだろうか。「困ったな」と言いながら、背を丸めてコツンと額を合わせてくる。
ねえゼノ、わざとやってるの?そんなに近づかれたら、少し背伸びをしただけで簡単に届いてしまうじゃない。隙を突いて彼の唇を奪う。ほら届いた。イタズラっぽく笑うと、ゼノはあっという間に折れた。

「君は本当に・・・僕をその気にさせるのが得意だね」

彼は私の体を優しく包んだ。
一度唇が触れると、先程まで渋っていたのが嘘のように、ゼノは深い深い口付けをして・・・私の脳みそを溶かしてしまった。



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