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「じゃーん!これなんでしょう」
突然、彼女が得体の知れない物体を持ち出してきた。さっき用意していたマグカップから姿を現したのは、何かで濡れたハンカチのようなもの。親指と人差し指で摘まれて持ち上げられたそれを見て、一秒もせずに察した。あれはローションまみれのガーゼだ。ちょっと手の込んだセックスでよく使われるやつ。
「それ……飲み物じゃねぇのかよ」
「騙された?あんまり騙そうとしたつもりはなかったけど……これもある意味ドッキリって言えるかも」
ゼノから貰ったあの道具たちを使わない代わりに用意したというそれ。簡単なものからトライ……とかなんとか言っていたが、選ばれたのがこれらしい。つまり、このガーゼを使って俺を扱こうとする魂胆なのだろうが、存在は知っていても経験がなくあまりピンと来なかった。
マンネリ防止とかで使われるくらいだから、相当気持ちいいんだろう。ちょっと不安だけど、しかし何故か彼女の方が不安そうな顔をするからそのせいでさらに不安になる。
「なんて顔してんよ」
「スタンがめちゃくちゃになったら、私止められるかな……」
これはもしや煽られているのか?ふーん、なら乗ってやろうじゃん。なんでもいいけど俺のディックはさっきから焦らされてるせいで待ちくたびれてる。
すんなら早く。そんな気持ちを込めて手招きしたら、彼女はさっきみたいに足の間に座り込んで、両手でピンと張ったガーゼをそそり立つ上に押し当てた。
「ん」
「え、痛かった?」
「いや痛てぇわけ」
そうじゃない。痛くはない。粘度の高いローションに浸されたガーゼなんて、痛みを感じる隙もない。今のはローションの冷たい感覚にただ口が驚いただけだ。気にしなければ気にはならない。
「スタン……?」
「いいよ、続けて」
「う、うん」
俺の言葉に頷くと、再びガーゼで先を覆って恐る恐るといった様子でゆっくり左右に動かし始めた。が、少しずれ動いたところで俺はすぐに彼女の手首を掴んだ。
「ぁ、待て」
「なに?やっぱり痛いの?」
「これ、やばい」
今の一瞬だけで悟った。なんか分かんねぇがやばい。なんか分かんないけど……これはやばい。言葉で表現できない上に、根拠も何も無いただの直感。それを端的に彼女に伝えると、様子からして痛がっているわけではないと判断したのか、特に焦ることはなく。それどころか急にニコニコと笑い始めた。
「へぇ、やばいんだ」
俺の顔を見上げながら首を傾げる彼女。
「へへへ」
不穏な笑い声が聞こえてきたかと思ったら、ソファーに片膝をついて下からキスを寄越してきた。まるで、俺が普段やっていることを真似しているかのようだ。
行為の前のキスは俺が好きでやっていたことだが、やられる側はこんなにも安心できるものなのか。と、一瞬でも思えただけ幸せだったのかもしれない。
「今日は、いっぱいイかせてあげるね」
+
可愛い顔で宣言をすると同時に、彼女の手が再び同じように動き出す。右に、左に。ガーゼが動くのに合わせて先端も一緒に連れてかれそうになった途端、さっき感じた得体の知れない感覚が急激に俺を襲った。
「ァ、……やっ、ば」
亀頭を少しガーゼで擦られるだけで、身をよじるほどの衝撃に見舞われる。ローションのお陰で痛くない。でもローションのせいで滑りがいい。こちらの感覚など知りようもない彼女は、なんの抵抗もなくガーゼを何度も往復させていく。
「んっ、……ん、っはぁ、……」
なんだこれ。さっきのフェラも相当気持ちよかったけど、そんなのとは全く比べ物にならない。これは、やばい。意識なんてしていないのに、自然と喉から声が出てきた。それも普段とはまるで違う、自分の声とは思えないような声。
そのことに俺が一番驚いているが、彼女もきちんと驚いたようで、嬉しそうに楽しそうにこちらを見上げてきた。しっかり手を動かしたまま。
「気持ちいいの?」
「わ、分かんね……っなんか」
「わかんないの?」
「っあぁ……やっば、これしぬ……!」
「しぬの?」
滑りをよくされているはずなのに、ごりごり擦られていると言ったほうが感覚的には近いかもしれない。とにかく今までに感じたことのない刺激に、それでも本当に最初の一瞬は耐えようと意気込んでいた浅はかな自分の脳味噌も、もう既に快楽に支配されてやめてほしい一色に塗り替えられようとしていた。
「あっ、……っや、はぁ……ッ」
ソファーの縫い目を引っ掻きながら刺激に耐えた。これはダメだ。こんなの自分が変になる。なんでこんな一瞬で。こんなガーゼ如きに擦られただけで。
回らない頭で一生懸命回避方法を考えるも、自然と逃げようとした腰はこの謎にふかふかなソファーせいで為す術もない。こんなあからさまに彼女が喜ぶようなスプリングのある踏ん張りの効かないソファーを買ったのは誰だ?俺だ……。
全く関係ないことまで恨んでしまう、そんな果てしない快感を前に、俺はもう耐えきれなくて思わず背を丸めて彼女の腕を掴んだ。必死に頼み込んだ。恥などは今はゼノらへんに預けている。
「んっ、は、ナマエッ……もうだめ、もうムリ……っはあ、タンマ……!」
「ええ?私……もっと見てたいな。こんなに真っ赤なスタン初めて見るもん」
「だ、からッ……っんん、っ、」
「あ。顔逸らしちゃダメ。スタンが気持ちよくなるとこ、ちゃんと見ててあげるからね」
予想はしていたが、彼女はやっぱりやめてくれない。さっきまであんなに怖気付いていたくせに、分かってる、彼女のことは俺が一番分かってる。こいつは一度始めてしまったら遠慮を忘れてしまうタイプの人間だ。特に俺に対しては。
そういうところを可愛いと思って長所だと捉えていた自分の甘さを、今に限ってはただただ呪うことしかできない。
「クソ、……一旦ッ……止めろ!」
「んふふ、聞こえな〜い」
違う。これ、違う。彼女は真っ白な天使ではなく、真っ白な悪魔だ。悪気がない分タチが悪い。遠慮がないのもそうだし、俺の反応が珍しくて面白がっているというか、好奇心から動いているように思える。
確かに、普段下に敷かれている自分が上に立つのは良い気味だろう。気持ちは分かるが、マジでタンマ。そろそろ本当に逝っちまいそうだ。どんどん鼓動が早くなり、頭が熱くなってくる。生理的な涙がじわりと表に出てきてしまう。相変わらず声も止まらない。そんな快楽地獄をしばらくの間ずっとずっとさまよっていると、待ち望んだ頃にようやく希望に溢れた言葉が聞こえてきた。
「ん〜……私も手が疲れてきちゃった。だから、そろそろ気持ちよくしてあげるね」
「っあ、……んあ、っ、く……」
それは良い知らせだ。足の爪先をピンと張りながら、少しでも声が押さえられるように片手で口元を覆いながら、自分でも訳わかんないほどその言葉に安堵してしまう。
彼女の前でこんなに乱れる姿を晒すのは初めてだ。いや、そもそもこんな状態になること自体初めてと言っても過言ではない。自分でやる時と比べてしまったら、圧倒的にこっちのがやばいに決まってる。
だからこそ、だからこそ……彼女も彼女で力加減が分からない。それはやられる側にとっては物凄く都合の悪い事態だ。
「あれ……?スタン、なんでイけないの?」
もう何分経ったかも分からないが、でも確かにかなりの時間やられているはずが、俺はいつまで経っても最後まで進むことが出来ないでいた。それもそのはず、彼女は延々と先端を擦り続けているだけで、全く棒に触れてこない。男性器の都合上先端を弄られるだけじゃいつまで経ってもイくことはないということを、彼女の手と口はちゃんと分かっているだろうに、いつもと方法が違うからか頭からすっぽり抜けているのだろうか。
「はぁ、は、っナマエ……!」
やけに冷静な思考をしていると思うが、俺はもう限界だった。もう何かが出そうな感覚はあるのに、依然として出てきてくれない。そこまでたどり着かない。それが悪い方向に彼女を勘違いさせてしまう。
「足りないの?もっと強くする?」
「ち、ちげ……あっ、あぁぁ……っ!」
ちゃんと竿を擦ってくれないと。それを伝えようと口を開くも、そこから漏れ出てくるのは普段より何段階も高い声。それが呆気なく自分の耳に入ってきてしまうことが情けなくて仕方がない。
もはや俺は既に絶頂に達しているんじゃないかと思うほど。これが俗に言うメスイキか?分かんねぇけど、今の俺にとってはそんなことはどうでもよかった。
「アッ、く、……ふあ、はあ、あッ、」
「うーん。本当はガーゼでイって欲しかったけど……しょうがないからいつものやってあげるね」
と、ようやく俺を苦しめるものが取り払われたかと思えば、すぐに彼女の口にパクリと咥えられてしまった。安息の時間はほんの一瞬で、随分と感度のよくなったそれがほんの少し舌で撫でられるだけで、全身が大きくビクついて一気に射精感が強まっていく。
もう塞き止めるものは何も無い。こっちのキスは上手い彼女の手に包まれて根元から大きく扱かれてしまえば、今までの耐えようが何だったのかと思うほど、呆気なく、けれど盛大にフィニッシュを迎えた。
+
「はあ、……っは、はあ、くっそ……」
普段は射精が終わったらスパッと気分が切り替わるもんだが、今回に限っては慣れないところを慣れない方法でしつこくこねくり回されたため、いつまで経っても感覚が残ったまま。この快感が後に長引いている感じ。これはもう、まさに女のそれだ。
こいつ、やりやがった……それにしても爽快過ぎる開放感に身を預けながら背もたれに頭を乗せて全力で息をしていたら、俺をこんなことにした戦犯がよじ登ってきた。
「ねえスタンのが顔にかかっちゃった」
俺を跨ぐように膝立ちをすると、真上から覗き込んでくる。甘えるような声でにこにこ笑いながら。
「えっと……キレイにしてくれる?」
こいつ。新たな扉を開いていないか?まだ肩で息をしているところなのに、ローションがついたままの手で俺の顔を触りながら、試すような目を向けてくる。わがままなプリンセスだ。いや、今に限ってはクイーンほどの権限があるのかもしれない。
彼女の両肩を掴んで抱き寄せると、荒い息のまま命令通り頬や鼻についた精液に舌を這わせていく。不味くて仕方がないが、何故俺は当たり前のように従っている?……なんて、考えるだけ無駄。少し目線を上に上げると、自分の言葉に従順な俺を見る目はとても愉しそうだった。こんなことで密かに興奮してしまう俺は充分マゾの素質がある。
「あ……これで満足?」
全てキレイに舐め取ったことを口を開けて示すと、彼女は「ありがと」と無邪気に笑ってキスをしてきた。彼女にはサドの素質があることが判明した。
「今のスタン、すっごいセクシーだよ。写真撮ってもいい?お宝にする」
「はぁ、……チ、いいよ好きにしな」
もう投げやりである。
「やった!ついでにゼノさんに送ろ〜っと。アドバイスくれたお礼しなきゃ」
「あ゛?オイそれはやめとけ、マジで。それやったら、マジで殺すぜ」
「あ〜でも私、手がベトベト……。ねぇスタン、暇なら自分で撮ってよ」
「誰が撮んだよ、それで……」
調子に乗ってきたな、こいつ。
疲労感から笑顔の消えた俺に対して、彼女はほんの少しだけ慌てるような素振りを見せて「冗談だから安心して?」としがみついてきた。そうじゃなきゃ神経を疑っていたところだ。ちょっとお灸を据えてやろうと、すぐそこにある首筋に噛み付いた。
「ねぇスタン、気づいている?」
「あ……?なにが」
「スタン、15分くらい頑張ってたよ」
「はぁ……?」
突然の爆弾発言に、俺は言葉を無くした。長すぎると思った……確かに長すぎやしないかと思っていた。
え何、15分?クォーターじゃん。今、心の中で割と重大なショックを受けている。俺はそんなに長い間耐え続けていたのか。それはもう褒めてくれていいんじゃね?だが彼女はそれを伝えるだけ伝えて、まだぐったりしている俺の腕を無遠慮に引っ張ってくる。
「ねーね、ベッド行こ?」
「……」
ここで唐突に緊急事態発生。
「どうしたの?」
「……た、」
立てない。……冗談抜きで。力が抜けて立てない。やばい、立ち方を忘れてしまった。どうしても腰が上がらない。その前に下半身を上手に動かせない。
まさかの事態に俺自身信じられないほど困惑していると、すぐに様子がおかしいことに気づいたのか至近距離からガン見された。
「ええっ……!スタン、もしかして」
初見で15分ぶっ続けはいくらなんでもやりすぎだ、ということを彼女はようやく気づいてくれたらしい。俺自身タカをくくっていた分、より想像とのギャップが大きくて体がついていかないのだ。軍で死ぬほどしごかれた時もこうはならなかったのに、可愛くて仕事にならないという欠点を除けば、彼女は俺の上官に向いているかもしれない。
「もっとやって欲しいの……?」
「……ハァ?」
「今イったばっかなのに欲張りなんだから。かわいいスタン」
「ちげえ……」
前言撤回、やっぱり向いていない。飴と鞭の境目がぼんやりとし過ぎている。
確かにさっきのは信じられないほど気持ちよかったけど、それ以上に自我が吹き飛ぶくらいの衝撃があった。今までに感じたことの無い未知の感触。ただの痛みならまだ耐えようがあるが、あれはもうほとんど拷問のようなものだ。
が、彼女はどうやら今のをご褒美だと思い込んでいるらしい。そりゃ喘ぐような声しか出せなかったから仕方がない。でもそれについては俺はなんにも悪くない。まあ本音を言えばもっとやってくれてもいいけど。やんなら条件付きだ。
「……あと一分待て」
「あ、そっか。そうだよね。もうやめる?スタン疲れちゃったもんね」
「……」
「スタン、私に弱いとこたくさんイジメられて疲れちゃったんだもんね。それで立てなくなっちゃったんだ。かわい〜」
猫でも可愛がるかのように、人差し指で胸の突起を撫でてくる彼女。今、ちょっとそれはマズイが、そんなことよりも……。
「うふふ、少し触っただけなのにビクってしちゃって……かわいいスタン。よしよし、いい子いい子。よく頑張ったね」
今、口を開いたら品性のない言葉が出てきそうだ。俺は彼女より精神的にも肉体的にも大人なので、平静を装って無視した。これが大人の対応。それなのに、ますます調子に乗ってしまう幼稚なクイーン。誰がこいつを躾けた?俺か……。
「あれ?スタンリーくん、どうしたの?おなか痛いの?それはたいへん!」
「……」深呼吸だ。
「せーの、いたいのいたいのとんでけー」
「Shut the f×ck up,b××ch…… (黙れ)」
「ひぃごめんなさい許して」
気力で立った。
「……」
自分が上に立つ味を占めたら、一度分からせてあげないといつまでもこんな態度を取り続けることになるだろう。それは別にいいんだが、無意味に俺を煽るだけなのは話が違う。それは人としてなっていない。なによりムカつく。
「……スタン?怒っちゃった?」
「べつに」
彼女が少し驚いているうちに肩に腕を回し、遠慮なく体重をかけながら寝室へ向かう。ご要望通りベッドにたどり着くと、倒れ込むような勢いでナマエを押し倒した。
ぱちくりと瞬きをする彼女を、舌なめずりをしながらじっと見下ろす。さっきまでと雰囲気が異なっていることに、すぐに気づいてくれたようだ。
「よぉナマエ……」
「は、はぁいスタン……」
さっきはよくも嬲ってくれたじゃん。そう問い詰めるはずが、今の俺には自分の肉体を支える力すら残っておらず、そのままぐしゃりと倒れ込んでしまった。か弱い女を下敷きにする6フィート弱の男……。俺は俺が思うより貧弱にされてしまったらしい。
「ぐっ、お、重いい」
「だ〜〜マジで死ぬかと思った……しぬ」
「え、し、死ぬの?」
「ナマエ……見直した」
「えっ?あ、ありがと」
言動を注意するつもりが、口から出てきたのは褒め言葉だった。侮っていた。今日はオモチャを使わずに簡単なものから、という話だったはずなのに、その簡単なものが全然簡単なものじゃなかった。
彼女としてはおそらくローションとガーゼが比較的身近なものだから簡単なように思えたのだろうが、やられる身としては普通にエグかった。あれは簡単に手を出していいものではない。覚悟が必要だ。自分でやるならまだしも。
「……はあ〜、……ったく」
これもあのゼノの入れ知恵だろうか。俺の知らねぇとこで要らない知識を蓄えてきやがって。そういうのは全部俺が教えてやっから、今度からゼノとそういう話をする時は俺も混ぜろクソッタレ。