THE STONE WORLD


08?

ホテルの外には出ない方がいいだろう。スタンに渡された時から、なんとなく勘づいていた。私の首の『コレ』が本当に『そう』なら、最低限私が行動出来る範囲はこの建物の中くらい。それを越したら、多分すぐに気づかれる。
少し触ってみたけど、本体そのものがややこしい機械仕掛けで私にはとても扱えそうになかった。おそらくブロディのお手製だ。私は挑戦して一秒で外すのを諦めた。



私はある程度の変装をして、建物の中を歩き回っていた。
都心のホテルとだけあって、それと複合したショッピングモールが思っていたより大きくて、昼頃には満足してしまった。色々と手に入れちゃったもんね。
これだけ回れば充分だ。それよりも、歩きっぱなしだったから喉が乾いてしまった。私は荷物をフロントに預けてからエレベーターで上の階に上がり、外の景色が望めるバーに入った。・・・ホントはお酒ダメだけど。

「ねえ、これよかったら使って」
中で弱めのカクテルを飲んでいたら、ある男性が別の客にぶつかられたところを目撃してしまった。素敵なスーツがワインで台無し。
慌ててハンカチを渡すと、彼はそれを受け取って微笑んだ。
「ありがと。君、話し相手なってよ」
ツートンの髪と少し高めの声が特徴的な彼は、お礼にとどこかから一輪の花を手品のように登場させて、私に差し出してくる。
わあ!そういえば屋敷の人以外とちゃんと話すのは久しぶりだ。なんだか面白そう。一人でいるのも飽きたし、私はそれを受け取った。
「どんな話をしてくれるの?」
「いいね、そう言ってくれると思った!じゃあ僕についてきて。あっちの方が景色が綺麗だから」
彼は私の手を取ると、人を滑らかに避けながら店の奥に移動する。彼に促されて窓際の席に座ると、ウェイトレスに適当なワインを注文した。彼はワインのかかったジャケットを脱いでイスにかける。
「ゲン、俺の名前ね。君はなんて呼べばいい?」
「ナマエって言うの」
「ナマエちゃんね」
全面ガラスからは街が一望できる。これが夜だったらもっと素敵なんだろうな。でも今日の夜はディナーだし!そのレストランは最上階らしいから、もっともっと綺麗な景色のはずだ。
彼・・・ゲンは色々なお話をしてくれた。私は相槌を打ったり尋ね返してみたり。そうしていると、彼はふとこんなことを言う。
「君さ、もしかしてどこかのお嬢さんだったりしない?」
「どうして?」
「と〜っても素敵なドレスコード。ナマエちゃんが可愛いから、より一層引き立ててる感じ」
このワンピース可愛いよね!褒めてくれるなんて嬉しい。お世辞かもしれないけれど。ありがとうと言うと、ゲンは落ち着いた様子でしとやかに笑う。
私より年上っぽいし、女の子に慣れてる感じがするなあ。でも紳士っぽいから気にならない。彼は運ばれてきた二度目のワイングラスを、やっぱり慣れている様子で受け取った。
「それで、ナマエちゃん。今日は何か特別な用事でこのホテルに?」
「うーん、特別なのかな?食事をしにきただけ。これ私服なの。外出する時はいつもこんな服装だよ」
「そう?それならやっぱりお嬢さんじゃない。こんな結構な大金持ちが泊まるような高級ホテル、一泊できるだけで特別なのに」
へえ〜。確かにいつも使うようなホテルより、豪華で煌びやかでキラキラしてるなあと思っていた。
「お金の事情とか、何も知らないの。私はいつも連れてこられるだけだから」
「その連れの方は・・・今どこに?」
「さあ?お仕事行っちゃった。私は置いてけぼり」
スタンとのやりとりを思い出して頬を膨らませると、ゲンは手の平を差し出して顔を少し傾けた。
「それなら・・・俺が慰めてあげようか。あともう少しの時間、俺と一緒に過ごさない?」
彼の言葉に時計を見ると、とっくに昼が過ぎていてそろそろ日が傾く頃。スタンは夜まで帰りそうにないけれど、夕方までには部屋にいた方がいいよね。
「ごめんなさい、そろそろ戻らなきゃ」
「残念。なら途中まで付き添うよ」
彼に連れられてバーを出た。けれどゲンは駐車場に向かうという。そっちの方が通り道ということで、流れで私の方がお見送りをすることに。
別れ際、向こうへ歩いていく彼の懐から小さなくまのぬいぐるみが落下した。

彼が落としたそれを拾い上げると、その瞬間、私の顔面に目がけて何らかの気体が噴霧された。ぬいぐるみから、何かが飛び出てきた。見た目の雰囲気より全然固い感触のぬいぐるみ。中に何かが仕込まれていたようだ。
あぁ、触るまで気づかなかった。息を止める暇もなく、その物質は私の目や口からあっという間に体内に侵入してくる。
あーあ、やっちゃった。
さっきボディーガードさんにやったのと同じことを、自分がされてしまった。そう気づいた頃には私の体は前のめりになって、地面に激突しそうなところを誰かの腕に受け止められた。
「さんきゅ、これ俺らの落し物」
その声の主は私の手からぬいぐるみを抜き取り、向こうへ行ったはずの男に投げ渡す。
「ゲン、これあとで処分な。あと龍水呼べ。場所は伝えてあるから秒で来る。そしたら女担いでそこまで運べ」
「待って待って〜!人遣い荒すぎ!俺が徹夜明けだってこと忘れてない?」
「んなの知るか。いちから早くしろ、スピード勝負なんだよ」
「まったく!しょうがないなあ。・・・、あ、龍水ちゃん今平気?千空ちゃんからお呼び出し〜!」
冷たい地面に寝かされ、男がインカムに陽気に喋り出したところでぷっつり意識が途切れた。



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