THE STONE WORLD


09

「千空、『彼女』がいるようだ」
目的のホテルから500Mほど離れたビルの駐車場。車内で龍水と今夜の段取りの確認をしていたら、突如としてコハクから連絡が入った。
「予定にはなかったが少し気になったのでな。報告しておくか?」
「ああ頼む」
「今夜会食することになっている組織。確か女が二人いたろう。そのうちの片方だ。それも千空、お前が目をつけている方の、名前は・・・」
「ナマエ。19歳、女。ファミリーネームは知らねぇ」
「そう、その彼女がまさに今この瞬間、ホテルのショッピングモールで買い物をしている」



まず真っ先に尋ねるべきはこれだ。
「誰といる?」
「お付きの者はいない。見たところ、ボディーガードから逃げて来たようだ」
「一人でいるってことだな?」
「ああ、周りにそれらしき人影は見られないぞ」
そうと分かれば、俺はすぐにゲンに電話を繋げた。
いい餌を見つけた。敵組織のボス級の男が大事にしている少女。まあ俺と同い年だが。歳の差がないとは言えない、日本だったらまだギリ未成年の少女を、その男は金よりも何よりも大事にしている。彼女に対する命の賭けようは並大抵の人間のそれではない。
つまり、これなら奴らを『釣れる』。
こ〜んなビッグチャンスを逃すわけがねえ!思わず口角が上がるのを我慢出来なかった。ゲンに繋がるまでの間、コハクに質問を続けた。
「間違いないのか?本当に本人か?」
「雑な変装はしているが本人だ。やや遠いが、スイカが証拠の写真を撮ってきたので今送る」
「・・・来た、写真。マジじゃねえか!お手柄だコハク!」
「私ではない。見つけたのは銀狼だ」
どちらにせよ大手柄!心の中でさりげなくガッツポーズをしていると、ゲンと通話が始まった。
「やっほ〜千空ちゃん。もしかしてもう寝ていいよって連絡?」
「違う。ゲン、今どこだ?」
「えっとね、言われた通りホテルの駐車場でコハクちゃんたち待ってるとこ」
「よし!今すぐにショッピングモールに向かえ。その前に服装整えておけよ。いかにも一般客って格好になれ」
「うっそー!ジーマーで?徹夜明けなんだけど!?潜入でもすんの?」
「潜入、つーかナンパだ。テメーの十八番だろ」
「え、なになに!何が起きてるの?ちゃんと説明してよ〜!」
「簡単だ、女を一人かっさらう!」
「いや説明簡単にしすぎ」
ゲンが呆れた声で何かを言っているうちに、インカムからまたコハクの声。新しい情報が伝わってきた。
「千空、目標が買い物袋を全てフロントに預けたぞ。どこか別の場所へ行くつもりなのか?ホテルの中からは出ないようだが・・・」
「行先に見当つかねぇか?そのホテル二つ建物あんだろ、どっち向かった?」
「西側の方だ。・・・待て、同じエレベーターにスイカが乗った。・・・千空!目標は52階を押したそうだ」
そこまで分かればもう充分だ。コハクに皆でその場を去るように伝える。そして今分かったことを即座にゲンに説明し、以前入手していた彼女が写っている写真を送った。
「ゲン。北側のビル、52階のバーだ。とりまこの女見つけて、警戒心解いて仲良くなれ」
「バーね、おけおけ。仲良くなって、隙見て飲み物になんか入れればいいの?」
「いや。眠らすのは周りに人の目がないところ。監視カメラもないところだ」
「それってどこ?」
「まあ地下の駐車場かそこ付近だな。今テメーがいる車のアタッシュケースに催眠系の色々入ってんだろ。それ使ってなんとかしろ」
「も〜なんとかって雑過ぎじゃない?」
「しょうがねぇだろ、この状況じゃなんとかしろしか言えねぇよ」
作戦を立てる暇もないのだ。いきなり実行するとなれば、現場のことは現場に任せた方がいい。
「あ、あと彼女に近づいたら何枚か写真撮れ。部分的にでも、全身分かりゃなんでもいい。とにかく至近距離からの情報が欲しい」
「わかったわかった!つまり、近づいて仲良くなって写真撮って人いないとこで眠らせればいいのね!」
「そーだ完璧だ」
奴ら、ホント情報伝達が楽でいいわ。潜入組も待機組も優秀な奴ばっか。

しばらくして、彼女と上手く接触したらしいゲンから次々に写真が送られてきた。さっそく怪しいところがないか隈無く探す。具体的には、たとえば・・・。
「『発信機』。やっぱあるわな」
「ふぅん。彼女がつけているのか?」
「ああ」
首のこれが恐らくそうだ。他は特に気になることはないが・・・あとは直接目で見るしかないだろう。
「千空どうする?貴様も向かうか?」
「あ゛ー頼む。これなんとかできんの俺だけだ」
「ハッハー!では飛ばすぞ、どこかしらに掴まっておけ!」
「いや待て、んな急がなくていい。タイミングタイミング!」
まったく、いちいち優秀すぎて困る。



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