THE STONE WORLD


だって本当に、本当に

原作捏造。ハイスクール時代の話。ヒロインの特殊嗜好注意。

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いくつも花を咲かせている花壇の前で、やけに一点だけジロジロと見つめているなと思った。なんとなく、ただなんとなく目についただけでそれ以上の感情はない。・・・ないのだが、同じ時間、同じ曜日に同じ場所で何度も見かける度に、嫌でも記憶に残ってしまう。一ヶ月が過ぎる頃には、むしろ見かけない日に驚くほどだ。
そんな時、彼女がそこで一体何をしているのか、一人の男が現れたことで呆気なく真相が分かってしまった。彼女はただ単に待ち合わせをしていたらしい。そこに現れた見知った顔が、嬉しそうに名前を呼んでいた。

「やあfirst name、待たせて済まない。じゃあ帰ろうか」

おーい、あんただったのかよ。



「ゼノ、いつから女つくってたんよ」
「それは・・・一体何の話だ?」

翌日、ゼノのクラスに顔を出してさっそく昨日のことを話題に出してみる。隣の机に座ってポケットに両手を突っ込む俺。
ゼノはなにやらそっち系統のややこい本を、まるで絵本でも読むかのように楽しそうに眺めていた。こういう時、何を話しかけてもなかなか本から目を離さないのに、今日の俺の言葉はさすがに予想外だったらしく、珍しく顔をあげる。

「毎週水曜日、待ち合わせてんだろ」
「おお?スタン、何故君がそれを知っているんだ?」
「なんでって、見かけたから」

ここのところ毎週、彼女が同じ場所で花壇の花だったり近くの銅像だったりをじっと眺めていることをゼノに伝える。
すると、ゼノは気が抜けたように「なんだfirst nameのことか」と言って、再び本に視線を戻す。おーい。

「君には言っていなかったが、実は僕にはまさに生まれた時からの幼なじみがいるんだよ。出会いはスタンよりずっとずっと前だ」
「ふうん」

初耳だった。ゼノとは知り合ってからそれなりに一緒に過ごしてきたが、まさかこいつにそんな人がいるとは。
少なからず驚く俺に、ゼノは簡単に説明してくれた。ゼノによると、幼なじみとはいえ同じ学校に通うのはこれが初めて。家にはよく行き来するが、学校ではすれ違わない限り話をするのは滅多にないらしい。
最近は予定が合うので、せっかくだからと待ち合わせて帰るようになったと。それならまあ俺が知らなくても無理はないのかもな。

「あ」

ふと教室の入口に顔を向けると、そこには丁度話題に出ている彼女がいた。いつもの場所、花壇の前じゃないところで見かけるのは初めてだ。彼女は開きっぱなしになっているドアの端から控えめに顔を出して、誰かを探すようにきょろきょろと頭を動かしている。
そしてすぐに目当ての人(たぶんゼノ)を探し当てたと思ったら、隣にいた俺とかっちりと目があった。その瞬間、彼女は驚いてどこかに走り去って行ってしまう。
・・・無表情の時は人相が悪いと言われることがあるので、彼女のことも同様に怯ませてしまったか?言っておくが、この顔は決してわざとではない。

「おい、今そこで噂の彼女がお前のこと探してたぜ。俺の顔見た瞬間どっか行っちまったけど」
「本当かい?first nameはそこそこの人見知りなんだ。まあ、用があるならまたそのうち訪ねてくるだろう」

そう言って、本を眺め続けるゼノ。

「そんなんでいいのかよ」
「いつもこうだ。first nameはこれくらいのことで怒ったりはしないよ」
「ふーん?そんなもんか」
「・・・?そんなに気になるなら紹介しようか。人見知りとは言っても、美味しそうなものにはところ構わず突っかかっていくから」

いや気になるわけじゃねえけど・・・美味しそうなもの?突然食べ物の話が出てきたことに一人で首を傾げると、ゼノは俺のことを上から下までじっと観察して、楽しそうに人差し指を立てた。

「すぐに仲良くなれるんじゃあないか?君も割と・・・タイプだと思うが、どうだろうな」

よく分からないが、ゼノは今彼女が俺を好きになるかどうかを判断したらしい。本人がそんなことを言うくらいだから・・・本当にゼノの恋人というわけではないのか。



「は、はじめまして」

次の水曜日、俺たちは何故か三人で帰ることになった。初対面の俺のことを、この前ゼノがそうしたように上から下まで一通り眺めると、すぐにゼノの後ろに隠れる彼女。
どちらかというと彼女もゼノと同じ、スポーツより勉強という感じの雰囲気を醸し出していた。あのとんでもない秀才の幼なじみというくらいだから、まあ勉強できて当たり前か。その時はそんなことを思ったが・・・あとから分かった。彼女の成績は別に良くも悪くもない、びっくりするくらい普通だった。
ただ、普通じゃないところが少し。変わった特徴が別のところにあると判明したのは、知り合ってからしばらく経ってのこと。移動教室に向かう途中、廊下でばったり遭遇したので、別れるところまで一緒に並んで歩いていた時のことだ。

向こうから歩いてくる男子生徒を見た途端、あからさまに反応する彼女。彼が横を通り過ぎても、頭ごと振り返って目で追い続けるもんだから、さすがに俺でも気づく。その時。

「美味しそう」

と、呟いたのが聞こえた。本当に小さい声で、もう少し周りの騒音がうるさければ聞こえていなかったかもしれない。

「今の奴、狙ってんの?」
「う、えっと、その・・・」
「美味しそうって、あれか」
「き、聞こえてた・・・!?」
「もしかして、それ目的か?」

片手で裏ピースを作って軽く舌を出す。言わずもがなソレのことだが、彼女はそのハンドサインを見た途端見たこともないくらい顔を真っ赤にして、さっきと遜色ないくらい小さな小さな声で「そ、それもちょっとは・・・あるかもしれない」と、言う。
これにはさすがに驚いた。少なくとも俺が見ているところでは、ゼノ以外の奴と話しているのを見たことがなかったから。彼女にはそういう興味はないと勝手に思っていた。
ノートで思いっきり顔を隠す彼女を見ていると、心の中がむず痒くなる。冗談で聞いてしまったが、さすがにやり過ぎただろうか。

「でも、ちょっと違うの」
「違う?」
「言っても嫌いにならない?」
「そりゃ聞かないと分かんねえな。ま、でも半端なことじゃ驚かねえよ」
「うーん、じゃあ話すけど・・・ゼノのお友だちだし」

それは関係あるのか知らないが。

「その、本当に美味しそうなの」

彼女は恥ずかしそうに口を開いた。
彼の指とか、目とか、何から何まで、一旦全部、バラして焼いて、食べてみたいなと思ったの。

「だって本当に美味しそうで」

彼女の美味しそうは物理的にだった。



だって本当に、本当に
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