THE STONE WORLD


好きの香りがし始める

過去続き。

+++



「君も一度は聞いたことがあるだろう?いわゆるカニバリズムという名の嗜好だよ。first nameは物心ついた頃からそうなんだ」

当たり前のように、ゼノは彼女のそれを知っていた。

「まあ人じゃなくても食欲を唆られることはよくあるみたいだが。彼女はなんでもいける口だ」
「なあ、前に言ってた『俺は割とタイプかも』って、もしかしなくてもそういう意味か?」
「当然だろう?」
「オイ何が当然だ。どういうことよ」
「first nameの好意はそのまま食欲に直結するんだよ。もちろん、これまでに人を食べたことはないけれどね。今の時点では、単なる興味本位に過ぎない」

今の時点ではって。あと一歩進めばアウトじゃねえか。大丈夫なのかと聞く俺に、ゼノは余裕そうな顔で「まあまあ」と笑う。笑い事か?これは。

「もしfirst nameが今後、ふとした時に一線を越したとしても、僕は彼女のそれを否定することはない。むしろ証拠隠滅に加担するね。止めることも絶対にしない」
「へえ。ゼノはfirst nameのナイトだったのか」
「君はどう?彼女の行く末に興味はないかい?」

そんなことを言われても困るだけだ。俺が興味あるのは銃だけで。

「ま、でも。面白そうではあるね。これまでに見たこともないタイプの人間。あんたと同じだよ、ゼノ」
「君ならそう言うだろうと思った。スタンこそ好きな物には夢中になるだろう?そう言う意味では、僕らはなんら違わない、まったく同じ種類の人間だ」



彼女はこの間廊下ですれ違ったあの男子生徒に、告白するまでもなく振られることになった。そいつには既にお相手がいたらしい。
ま、しばらく様子を見てだんだん分かってきた彼女のタイプ・・・つまりスポーツをしていてガッシリした体格の、背の高い男。そんな男は普通にモテるので、相手がいたとしてもなんらおかしいことはない。

「スタン、君がそれを言うのかい?first nameの心情を察してやれよ、それでも彼女は一途に思い続けてきたというのに」
「あー、悪かった」

水曜日、もはや日課となった三人での帰り道。彼女は分かりやすくショックを受けている様子で、延々と泣いていた。
ゼノが背中を支えながらよしよしと頭を撫でているのを見て、俺はただあんたが付き合ってやればいいんじゃねえのと思った。

「first name、泣いていてもいずれ明日は来るんだ。辛いことばかり考えていたら、君には一生幸せが訪れないよ」
「だっ、だって・・・」
「どうしたら元気を取り戻してくれるのかな」
「あ、新しく・・・新しく好きな人ができたらっ・・・いいのかも」
「おおエレガント!それは名案だな。それなら今すぐ笑うんだ、first name。その可愛い顔が隠れていると、いい人は寄ってこないよ」

あんたが付き合えばいいんじゃねえの。

「あ、車来てんぜ」
「とりあえず、今日は僕の家に来るといいさ。落ち着くまで話をしよう」
「うん、そうする・・・ゼノ、ありがと」
「とんでもない!first nameのためだ、当然だろう」
「オイ、車!」

二人の世界に入っているところを、俺は後ろからそれぞれの手を引いて端の方へ引き寄せた。その時、よろけた彼女を地面に倒れるスレスレのところで受け止めると、彼女はしっかり俺の胴体に抱きついていつまで経っても離れない。
驚かせたか?でもこうでもしなきゃ、今頃二人は車に吹っ飛ばされていた。両腕をあげ、どうしたどうしたと彼女の様子を覗き見ると、やっぱり抱きついたまま俺の胸に額をくっつけてじっと地面を見つめている。
しばらくして、彼女が上を向いた。目が合った。分かりやすく頬を染めた。

「・・・あ、あ、かっこいい」

first nameの瞳がきらりと輝いた。
俺はその場で察した。

「スタン!ありがとう、君のお陰で轢かれなくて済んだよ」
「お、おう」
「どうかしたかい?・・・あれ?first nameの姿が見えないが」
「・・・あそこだ」

俺は少し先の街路樹を指さした。彼女のカバンがはみ出しているので、ゼノはすぐに見つけてそっちに駆け寄る。俺もあとから近づくと、二人のこんな会話が聞こえてきた。

「す、スタンリー、すごい体しっかりしてた・・・スタンリーって、何かやってるの?その・・・スポーツとか」
「うん?ああ、色々やっているようだ。気づかなかったかい?確かにスタンとは週に一回一緒に帰るだけだから無理もないな」
「その、スタンリーって・・・よく考えたら、ううんよく考えなくても、身長・・・高いよ。高いよね?」
「ああ、だいたい僕と同じくらいだな。それがどうかしたかい?」
「それに・・・スタンリーの顔、よく見たらなんだかかっこいいよ。これまでも見たことあるのに、なんで?ゼノ、どうしよう、どうしよ」
「確かにスタンは男の僕から見てもかなり美形だと思うな。それで、そんなに慌ててどうしたんだい?ほら言ってごらん?」
「あ、あのね、あのね・・・わ、わたしすきになっちゃったかもしれない。スタンリー、すきになっちゃったかもしれないの」
「おお!なんてエレガントなんだ!その男なら丁度ここにいるようだから、さっそく君の気持ちを伝えてみろよ」
「おもっくそ聞こえてんよ」

俺が声をかけると、first nameは以前のように顔を真っ赤にして俺を見た。そのあとすぐゼノの後ろに隠れて様子を伺ってくる。Oh,ゼノが言っていた通り俺は彼女に好かれてしまったようだ。
ゼノが「どうなんだ?」と聞いてくるので、俺は三秒ほど考える。

「ん、まあ、考えてやらねえこともねえけど」

首に手を当ててそう言うと、first nameは途端にとびきりの笑顔を見せた。わっかりやす。しかし、それ以上にもっと大きなリアクションをして喜ぶゼノに、もう全身がムズムズムズムズいても立ってもいられなくなる。
俺は映画のように抱きしめ合う二人に構わず、さっさと歩き出した。

「とりあえず今日はもう早く帰ろうぜ。遅くなんだろ」
「待てよスタン!曖昧な返事じゃダメだよ。ちゃんとイエスかノーで答えるんだ」
「だから言ったろ。考えさせろ」
「それなら期限を決めよう!いつまでに返事をしてくれる?」
「ゼノ、あんたナイトっつーか保護者だな」
「おいスタン!待てったら!」



好きの香りがし始める
backnext
[ toplist ]