THE STONE WORLD


ただの針山

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「……なんで裸なの?」
「俺だけじゃねぇよ、皆の服が消えた」
「さいあく、なんで裸見られないといけないの」
「あーそれ普通の反応」
「ていうか裸でそんなに近づいてこないで!なんでこんなに距離近いの!裸なのに距離間おかしい!」

それは、俺がキスしたからだ。

そのおかげでって言うと勘違いにも程があるが、そのおかげとしか考えられないくらいタイミングばっちりで彼女の眠りは解けた。
でもいつになったら呪いが解ける?彼女が自分で自分にかけた呪いだ。ゼノ曰く、俺にはどうすることも出来ないいばらの檻。
攻撃的な態度を取るやつは、たいていの場合それで自分の身を守ってる。人としてはいただけねぇけど、彼女の場合は棘が向かうのが俺一人だけだから、むしろ優越感に浸っていたってもんだけど。いやマゾじゃねぇから、勘違いすんな。
でもあんなに頑なに拒否られたらさすがに傷つくっていうか。しかも俺泣かせたし。俺が泣きたいわ。そんなにキモかった?うっせぇこの期に及んでウジウジすんな。

何を守っているのだろうか。そういう言葉を使って。ゼノが檻とかいう言葉を使ったくらいだから彼女は何かに閉じ込められているのだろうか。……いくら考えても分からないものは分からない。本人に聞くしか。ていうかたばこ吸いてぇ。



そこまで考えたところで、背後から手が伸びてきた。ゼノの手際のいい介抱のおかげで久しぶりにぐっすりと眠ることができた俺は、それでもまだ冴えない頭で作業に明け暮れ、またあの切り株に座っていた。
そんな時、背後から手がのびてきた。それは俺の膝の上に黒い布の塊を置き去りにして、すぐに視界から消えていく。そして耳に届いたのはここしばらく聞かなかった声。

「……これあなたの」

光の速さで振り返った。けれどその時には既に彼女はこちらに背を向けて去っていくところで。何も考えずに席を立つ。これ、もしかしなくても俺の服だ。もしかしてこの一週間これを作っていたのか?どうせ後回しにされると思っていたのに。
ていうかこいつ、いつの間に外に出ていた?俺はもしかして虚無を見張っていたのか?確かにいつまで経っても音が聞こえてこないと思っていた。いや、今はそんなことはどうでもいい。服を手にしたまますぐにあとを追いかけた。

「おい、ナマエ」

名前を呼んでも立ち止まってくれない。でも走らないからすぐに追いついた。

「……ナマエ、ちょっと話聞いて」
「なに?」

返事はくれたが振り返らない。ああ、俺は今久しぶりに彼女と会話している。俺は単純だからそれだけで少し気分が安らいだ。
今はほとんどの奴らが寝静まっていて、聞こえてくるのは森の木々が風で擦れ合う音くらい。土と草を踏み分けて進む彼女。行先はやはりあの小屋。一週間前、俺がやらかした場所だ。とりあえず言いたいことを告げる。

「全面的に俺が悪かった。謝っから許して」
「別に怒ってない」
「怒ってんだろ」
「怒ってない」

怒ってんだろ、その口調は。急に無理やり迫るようなマネをして悪かった。ずっとそれを言いたかったのに、姿すら見かけなかったんだ。

「……ついてこないで」
「話させろって」
「話すことない」
「大ありだ。俺はあんたと和解したい。だから話がしたい、今すぐ」
「私怒ってない」
「怒ってんだろ。だってずっと顔合わせてくんねぇじゃん。今も、ほら」
「スタン、嫌い」

彼女はその言葉と共に振り返って顔を合わせてくれた。今日はその言葉が出てくるのがいつもより早いな。やはり彼女はお怒りだ。それはそうと、胸のど真ん中に針が刺さった。いや、そんな真正面から言わねぇでも。また死んだ。
でも俺は単純だから、久しぶりに彼女と目を合わせただけで少し心が安らいだ。いつもと同じツンとした表情。ああ可愛い。惚れた。目を逸らせずにじっと見つめていると、早々に彼女に目を逸らされた。

「安心して、たいして変わらないから。少し嫌いになっただけ」
「……少し?」
「もともと99くらい嫌いだったのが100になっただけ」
「……」

それはだいぶ嫌われてね?

「嫌いが一個増えたから、前より避けるのは普通でしょう」
「ナマエ……」
「ごめんね。面倒な女で」

なに今の。聞いた?嫌い100だって。んなの嫌いっつーか大嫌いじゃん。
てことは、俺は今まで99嫌われてたやつに抱きついたりキス要求したりしてたのか?
いや、俺気持ち悪。

「ねぇ、一個増えたついでに一個だけ教えてあげる」
「……なに?」
「私、ゼノのことは100くらい好きなんだけど」

しょっぱな地獄か?速攻で言葉を遮った。

「待て。あんた、俺を殺す気か。もう俺何回か死んでんだけど。さすがにこれ以上は勘弁して」
「……何言ってんの?」
「俺になんか恨みある?確かにさんざ、あんたのこと面白おかしくちょっかい出してたけど、違うから、それ全部からかってやってんじゃねぇ」

止まらない。
あの時バールでこじ開けたから。

「全部本気。お願い分かって。どう考えても伝わってねぇみてぇだから言うが、俺、本気であんたのこと好きだかんな」

どさくさに紛れて真面目に告白してしまう俺の口。おい何やってんだ俺の口。もっと空気読めよ。クソ、自分から話遮ってどうする。
伝えちまったもんは仕方がない。おそるおそる彼女の顔を見れば、心底驚いたような顔をしていて。時間差で耳に届いたような、遅れた反応で息を飲み、

彼女はゆっくりと耳を塞いだ。

「いきなりそういうこと言わないで。不快」

これまでの比ではないくらいのどデカい針が俺の体を串刺しにした。今度のはまるで毒針だ。禍々しい毒が容赦なく侵食していく感覚に、全身が痺れて動かなくなった。ああ、また死んだ。俺の中にある残基はあとどのくらい残っているのだろう。これはエグい。立ちくらみしそうだ。
だが、今の俺は思考放棄してるわけじゃないから、まだゲームオーバーではないらしい。あと一基しか残ってなかったらどうする?そんなんオーバーキルされても何とかして生き延びるしかねぇだろ。

もう何も言うことはないみたいな面して、再度踵を返す彼女。あっという間に足を動かして俺から遠ざかっていく。あー俺は言いたいことたくさんあるんだけど。……こいつ、いつからそうだった?ゼノ、あいつ冗談だとか言っておきながら、本当のことを教えてくれていたんだな。なんて親切なやつだ。
ここで追いかけなきゃ全部終わる。プライドとかそういうのは何もかも考えないようにして後に続いた。

「ナマエ、これで会話終わらせんな。ちゃんと話させて」
「……私皆の服作らなきゃ」
「邪魔しねぇから」

普通に考えたら嫌いなやつと一緒にいたくなんかねぇよな。でも今の俺にはそんなことを気遣う余裕などなかった。だって俺は死ぬほどあんたのことが好きなんだよ、何度刺されて殺されても、死んでも好きな気持ちは変わらない。
このまま理由も聞かずに嫌われたまんまで終われるかよ。同じ人間なんだし、好き嫌いはしょうがないとして、いや、ごめん、そんなスッパリ割り切れねぇわ。
とにかく理由を聞きたい。俺のどこがいけない?俺のどこが悪い?そういうの全部教えて欲しい。ほら、棘を食らわすのは得意だろ?俺の心、もうあんたの棘が何個刺さってっか分かんねぇよ。



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