THE STONE WORLD


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無性になにか苦労を押し付けたくなって、頼む必要のないことまで次々に仕事を割り振ったのに、彼は素知らぬ顔をしてあっという間に始末していく。
そういえば彼には何千年も前からずっと私の作業を手伝わせていたから、このくらい余裕なんだった。まあ押し付けたのは雑用がほとんどだけど。おかげで日付が変わる前には区切りのいいところまで進めることができた。

「ナマエ」

窓から差し込む月の光と、部屋の天井のオレンジランプ。それらに照らされながら、作業を終えて一息ついたスタンがわざわざ私の隣に椅子を持ってきて腰掛けた。心の中でさりげなく距離を取る。

ここは優先的に私が使わせてもらえることになった小屋だ。もともとはゼノが一つ目に建てた簡易的なラボだったのだが、物が増えるにつれ物置と化したので、今は私の作業部屋として都合よく使わせてもらっている。
機織り機は別のところにあるけど、もう布はある程度揃ったし、広いテーブルが一つあるだけで作業はできる。その間スタンには物の整理をお願いした。つまり雑用。とてもプリンスのやることじゃない。

「一個聞いていい?」

相変わらず口寂しそうに口元を指で触れながら、長い足を組んだ。体は向こうを向いて、けれど顔はしっかりと私の方を向いて。

「いつになったらちゃんと好きになってくれんの?」

ま〜〜〜たすぐそうやって!
当然のようにしらばっくれる私。

「……何を?」
「俺のこと」
「私たちってできてるらしいけど」

あなたの部下がそう言ってた。すると、変な顔をするスタン。変な顔しないで!彼曰くうまく聞き取れなかったらしい。この距離で聞き取れないわけないでしょ!
仕方なく頑張って言い直す。

「スタンのこと、割と好きだよ」
「え、マジ?どの辺が?」
「体」
「その発言はな、ヤバい」

何を想像しているんだか。ストレートに言えるわけないじゃん。

「体格の話に決まってるでしょ?」
「だろうね、知ってた」
「まあ欲を言えばあと2インチ(5cm)は欲しいところだけど」

圧倒的に少ないけど、世界のどこかには男性で6フィート(180cm強)切ってるショーモデルもいるにはいるし。なによりこの男の一番の武器はその整いすぎてる顔面だから。

「足りなくても関係ない。あなたのオーラは並大抵じゃないから、ランウェイを歩くのは夢じゃなかっただろうね」

これは本当。私はてっきり彼はその道に行くのかと思っていたけど、いつのまにか軍人になっていた。ゼノからその話を聞いた時、密かにショックを受けたものだ。その綺麗な顔に傷がついてしまうんじゃないかって、気が気じゃなかった。
そしたら別の種類の線が刻まれた。でもいい感じにはまってくれたので良し。

「100回くらい聞いたな、それ。結構……いやマジで嬉しいけどさ。そういうの他のやつにも言ってんだろ」
「言わないよ」
「そんなん嘘じゃん」

正解、これは嘘。私の趣味は街を歩きながら高身長の美男美女を探すことだったもん。あまりに綺麗な人を見つけたら、服飾関係の友だちに即座にメッセージ入れてた。気分が良かった日は本人に話しかけたりしてたし。
でもあなたの綺麗は格別。

「たとえばゼノだって同じ身長だぜ。あんたの言うオーラってのもある方だと思うが」
「ゼノは白衣がお似合いだから。もちろん尊敬の意味でね。それに私はどっちかというと筋肉がある方が好きだし」
「んーまあ、あんたのために鍛えてるってのはあるね」
「そう?ならこれからも頑張ってね」
「これからも一緒にいてくれるってこと?」

顔を覗き込まれた。いちいちその綺麗な顔を近づけないでくれる?

「一緒に暮らすしかなくない?私、こんな世界じゃとても一人で生きていけないから」
「ラッキーだね。あんたが一緒に目覚めてくれて、マジで良かったと思ってんよ俺」

私も。数千年ぶりに視界が開けた時に一番最初に目に飛び込んできたのがスタンの顔じゃなかったら、発狂していたかもね。

「体以外にも好きなとこあるから」
「どこ?」
「顔」
「あんたヤバ。でも嬉しいね」

変な人。

「早くここにも惚れちまいなよ」

手を取られて、スタンの胸の真ん中に運ばれた。手のひら越しに心臓の音がかすかに伝わってくる。すきだよ、ここも。ちゃんと好き。これをあなたみたいにまっすぐ伝えられたら、どんなに楽だろう。

なんだか思うことがあって、そのままスタンの背中に腕を回した。肩甲骨あたりに手を滑らせらせて体を密着させると、上から「お」という声と共に期待の眼差しが降ってくる。正直な反応。なにやってんだろ私。

「筋肉量減ってんじゃない?石化のブランクのせいかな。これじゃあ昔の数値は宛にならないね、明日にでも測り直させて」
「あんたさぁ、ホントにそういうことしか考えてねぇの?俺以外にもこういうことしてるわけ?」
「しないよ。スタンにしか」

やば、本音。今日の私おかしい。思わず立ち上がって片付けを始めた。

「変態みたいに言わないで。ち、ちゃんとそういう線引きはしてるから」
「線引きしたうえで、俺にはすんの」

言い直すな。もうこれ以上変なことを言わないように口元を押さえると、同じように立ち上がるスタン。

「ようそろ、お互い前進もうぜ」

何事かと振り返ったら正面向きに立たされ両肩に手を置かれた。



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