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何ヶ月か経過。
ゼノが設計したお城の建設が進み、ようやくその形が目に見えて分かるまでになった。まだ基盤が整っただけで完成までは程遠いけれど。たぶん、ここにいる全員がこの建物の完成を待ち望んでいる。
理由は単純、これができたらようやく個人の部屋が手に入るから。複数で寝泊まりするのも最初はそれどころじゃなかったから許容していたけど、いい加減に一人の時間が欲しくなってきたのも事実。
とはいえ、もともと女性は数が少ないから、男女を分けたらこっちはほぼルームシェアをしているようなものだ。広い部屋なのに片手で数えられる人数しかいないから、余計に距離が縮まっていき、今では色恋の話するくらいには仲良くなった。たいていルーナが一方的に話してくれるだけだけど。
「ねえナマエ!そろそろ教えてくれてもいいじゃない、いいでしょ?」
私たちよりも少し遅れて石が解けた女の子、名前はルーナ。彼女は今夜も飽きずにキラキラ目を輝かせている。
今は動物の骨を削って形成した針で、ちくちく服の補修をしているところ。金属の針も既に作ってもらってはいるが、今までずっとこれを使ってきたからなんだか愛着が湧いてしまった。
一度顔をあげ、納得させるように言い聞かせた。今日も元気なんだから。
「話すことなんて何もないよ」
「そんなこと言わずに!せっかく仲良くなれたんだから、あなたのことをもっと良く知りたいの。ダメ?」
「だめ、って言われても……」
「ナマエの恋愛経験をぜひとも参考にさせていただくわ!」
「……そんな、勝手なこと言って……」
彼女の家は以前から仕事を通してそれなりに関わりがあって、この子とも少し面識があった。簡単に言えば、デザイナーの友人が持っていたブランドのお客様。よくパーティーで使うようなドレスを注文してくれていて、私はそれらの製作に携わっていた。
以前は仕事の度に少し彼女のお買い物なんかに付き合ったりしたくらいで、交わした会話は世間話程度。だがこうやって毎日同じ部屋で夜を過ごしていたら、必然的にこういう話にもなる。なおさら彼女は人の恋愛トークが大好物みたいだし。
「ナマエっていかにもできる女って感じがするじゃない!だから、これまでどんな人と付き合ったのかとっても気になるの」
「話すようなことじゃないから……」
たしかに私たちは体力担当ではないから、一緒に過ごす時間も必然的に多くなる。彼女の目が私に向くのも無理はない。
こんな非現実的な世界ではそんな話もしたくなるよね。ルーナ、元気で可愛いから気が抜けちゃって頭を撫でたりしてしまうけれど、そんなことを聞かれても話せることなど何もない。だって話したくないから。
「あらぁ、ルーナ。飽きないわねぇ」
そうやっていつもはぐらかしていたら、今日は早くに解散したらしい体力担当の二人も話に加わってきた。女性でも立派な軍人だ。特にマヤは元アスリートでもある。男性たちに混ざって、今はお城の建築を頑張って貰っている。
「当然じゃない!今日こそは聞き出してやるわよ!」
「てかぁ、割ともう有名だよね〜」
「それな。聞くまでもないよ」
しかしこの二人が戻ってくると、嫌な予感しかしないというか。なぜならさっきも言った通り二人はどちらとも軍人で、彼女らの上官は、そう、彼なのだ。
「だって初日からあんなこと言われちゃったらさぁ。見たことない距離感だったわね」
「な。ボクもアレはマジでビビった。何千年も石にされて頭やられたのかと」
…………。
「大丈夫ぅ?それ本人に言ったら殺されちゃうかもよ。そんなの面白そぉだけど」
「だっていつも仏頂面で仕事以外の話なんて全然しないし、笑ってるとこも滅多に見たことなかったし」
「まぁそういう男ほどプライベートは甘々って感じするよねぇ」
服に視線を戻し、ちくちく針を動かす。
「ちょっとちょっと!さっきから私が分からない話ばっか……。初日?それって、私がいなかった頃の話じゃない!どういうこと?」
ああ、嫌な予感がする。耳を塞ぎたくなってくる。案の定、次に聞こえてきたのはルーナの興味を惹きまくるような淡々とした言葉。
「簡単。ナマエと隊長、デキてんだよ」
あーーーー。
「えっ!?そうなの!?隊長って……スタンリーのことよね!?詳しく!」
「違うからやめて」
「違くはないだろ。隊長、あんたにだけあんな分っかりやすい笑顔振りまいてさ。もう隠す気ないみたいだよ」
「そうねぇ、普段は相変わらず口数が少ないけどぉ?ナマエのこと見つけたら空気が変わるっていうか〜」
「毎日毎日嫁のとこに通う健気な隊長見てると、もう可愛くてやってらんないよ」
「嫁!?いつ結婚したの!?」
「ルーナ、してないから真に受けないでお願い」
寝る支度をしながら、ルーナの期待に沿うように好きなように喋り続ける二人。耳を塞ぐどころか逃げ出したい気分だ。
「でも、ナマエはドライだよな。素っ気ない感じ。ここ数ヶ月で確信したけど、隊長、絶対にあんたのこと好きだし狙ってる」
「それはねぇ、満場一致。まあ、ルーナは最近起きてきたから気づかないのも無理ないわね〜」
「結構驚いてんだよ、ボク。隊長って声掛ける女全員その場で落とせそうな顔してるからさ。あーどっちかといや周囲の女が勝手に落とされてるって感じだけど」
「…………」
「その点さ、ナマエはぜんっぜんなびかないよな。昔からの知り合いみたいだし……そういう目で見てないの?」
「…………はあ、しょうがないなあ」
ルーナだけじゃなくてあなたまでそんなことを尋ねてくるなんて。
もう逃げるのは諦めよう、潔く学生時代を思い出して恋バナに参加することにする。まあ外見を褒めるだけなら簡単だ。
「スタンはね、どこからどう見ても顔が整っていると思う。あれはさすがにおかしい。今でも見慣れない」
手を動かしながら潔く話し始めると、すかさずルーナが嬉しそうに、かつ楽しそうに声を上げた。
「やっぱり?面識のあるみんなが普通に接してるから私も流されてたけど、私だってスタンリーは相当の美人だと思ってたの!」
「顔だけじゃなくて、私はなにより体つきが凄いと思ってる。昔からそうなの。でも昔より今の方が断然完成されてる」
「そうそう、雑誌に載っててもおかしくないよね!どっかでモデルとかやってそう」
「そうなの!実際スカウト何回も断ってて、本当にもったいない。でもスタンは私のモデルだからその方が独り占めできていい、っていうか、…………」
何もなかったかのように手で口を塞ぐ私。
「ふふ、今、独り占めって言ったの?」
「言ってない」
「絶対言ってた」
「言ったわねぇ〜」
「ひ、ひとりじめじゃなくて!だから、知り合いとしての特権というか、」
慌てて言い訳するが、急にニコニコし始めるみんな。特にルーナ。
「なーんだ、やっぱりそうなんだ!ナマエだってスタンリーのことが好きなのね」
「ちがう」
「ナマエみたいな大人でも、恥ずかしくなっちゃうものなのね!そんなに顔真っ赤にしてるの初めて見たわ。でも可愛い!」
「ち、ちがうから!」
全力で顔を振っても、三人はにこにこにこにこ笑顔のまんま。だから嫌だったの!やっぱりこうなった。私は昔から意図しない言葉が出てくるのがコンプレックスで……全身が熱くなってしまうのを落ち着かせたくて、深呼吸混じりに大きなため息をついた。
「だ、誰にも言わないでよね」
「言わない言わない。だって、隊長が一番よく分かってんだろ。ナマエの心の中」
「なっ、そんなわけないでしょ!」
「どーだか」
コントロールが効かない分、本人の前では全力で口を固く閉じてるんだから。それなのにバレてたら恥ずかしくって無理!
「でもあんな澄ました顔して逆にナマエのことなんも分かってなかったらさ、それはそれで……」
「ぎ、ギャップ萌えってやつ!?普段の彼ってオーラがすごいけど、もし恋に不器用だったらちょっと可愛いかも……」
「二人とも、あたしさっきも言ったけど!そういうの本人の前で言うのやめてねぇ〜?面白い以上に被害がデカそうだからぁ」
「とりあえず、隊長の弱み握れてラッキー」
勝手に話が展開されていく……。
私はちくちく服の補修に専念した。