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「…………」
ゼノが作ってくれた可愛いミシンたちに早く触れ合いたくて、一人でさっさと食べてしまおうと決心したはずが。結局美しいボディことスタンリー・スナイダーを目の前にしてお肉をほおばる私。
ラボを出た瞬間に捕まってしまったのだ。彼の視界はおそらく鷹と同じくらい広い。
「ゼノ、なんだって?」
「ミシンが完成したの」
「お、ようやく?じゃあそろそろこの服ともオサラバ?」
彼は自分の胸倉を掴んで仰いだ。私が手縫いで繋ぎ合わせた、縫い目だらけの皮の服だ。ちゃんとしたパターンを用意して縫製したものじゃないから、ところどころ肌が見え隠れしていて目のやりどころに困る。
そして、その上に乗っかっている端正な顔。中央にしっかりと刻まれた溝が全く邪魔をしないくらいの端正な顔。
意味が分からない。これはこれで完成されているけど、線がなかった頃の顔をもっとよく見ておけばよかったかも……と、思わなくもない。
「ねぇ、ナマエ?」
黙りこくった私に、スタンが笑う。
「キスしてもいい?」
「…………な、なに」
「視線が熱くってさ」
ここで目を逸らしたら負けだ。
「スタン、今まで視線を集めた人に対して、片っ端からそんなことしてたの?」
「俺そんなクソに見える?」
別に見えないけど、スタンってヤンキーなとこあるじゃない。学校は違くても一応ハイスクールの頃からの知り合いで、当時から人の目を引いていたのを知ってる。
だけど私は卒業後の彼を知らないから、その間に取っかえ引っ変え女の子を作っていたとしてもなんら不思議はない。そういうの困らなさそうだし。
過去の話をすると懐かしくなって止まらなくなりそうだから、早々に話を変えた。
「……そろそろデザイン考えた?」
「なんの話だ?」
「服の話に決まってんでしょ。なるべく早く考えてこいって言ったよね」
「あー」
明らかに考えてないみたいな顔して。せっかくミシンが完成したのにデザインが決まらないと何もできないじゃない。
「もちろん考えてきたよ。僕の分はね」
「ゼノ」
後ろからさっき別れたばかりのゼノが顔を出した。私がラボを出たあとも作業を進めていた様子だったが、今の彼は片手に食事、片手に科学道具を持っている。
なんて器用な人……彼にとってはブレイクなどあってないようなものだ。
「ただ、ちょうど紙を切らしてしまってね。すぐに新調してそこに書きおこすから、それまで待ってくれないかい?」
「なんとなく言葉で伝えてくれたら、あとは私が補完するでもいいけど」
「何事もディテールは大事だろう?」
性格がでている。
それなのにこっちの男ときたら。
「なんで俺に考えさせんだ。デザイナーさんがなんとかしてよ」
「スタン、これ何度も言ってるけど私はデザイナーじゃなくてパターンメーカー!」
「あんま変わんねぇだろ」
「ぜんぜん違う!私はデザインをしないの、デザインから型紙をおこすのが私の仕事なんだから!」
「一緒にやるんじゃだめなのかよ?」
「あーだめだめ。これだから一般人は」
ここにいる人間の比率で言ったら私はよく一般人扱いされてしまうが、逆に私以外の人間はファッション業界においては一般人。業界のことを知らないのは仕方がないけど、服作りはそれぞれの工程でちゃんと仕事が分かれているのだ。
デザイン、パターン作り、縫製。他にももっと色々な種類がある。私はパターンを作ってから実際に布を裁断してミシンで縫うところまでやっていた珍しい人だけど。
単に私がこのパタンナーという仕事に誇りを持っているから、ぜんぜん別物の仕事を当たり前のように一緒くたにされてしまったのが少し気に食わなかった。
「スタンだって海兵隊と海軍一緒にされたら嫌でしょ?」
「え、ぜんぜん別物じゃんそれ。なんでわざわざ一緒にすんよ」
「…………」
会話するのが面倒になってきた。
「考えないんだったらそれでいいの。あなたの服ができないだけだから」
「あー、さすがにこのままはな。……ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど。あんたの服は誰が考えんだ?」
「私に決まってるでしょ」
「そうじゃん、ほら、あんただってデザイン出来ねぇわけじゃないんじゃん」
「…………」
ビシッと指をさされる。
何が言いたいの。
「俺と一緒に考えてよ。それくらいなら付き合ってくれてもいいだろ?」
なんでそうなる。まあ確かに、いつまでも催促し続けるのも疲れるし・・・普段からデザインに縁がない人に強制するのも変な話だし。
断る理由はないけど、彼がそれが当たり前みたいな顔をして話を進めるから、素直に頷きたくないというか。
「私、ミシンの点検があるの」
「それ終わったあと」
「布も作らなきゃ」
「口はヒマだろ?」
「集中できないじゃん」
「俺が一緒だと集中できねぇ?ウブかよ」
ちがいますう〜〜〜。
「ま、俺も日中は土木作業あっかんな。お互い手が空いたら集合ってことで」
「…………」
私の拒否権はどこへ家出してしまったの。