THE STONE WORLD


繋げるファスナー

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「今日は何故目を瞑っているんだい?」
「単純に寝不足……」

ミシンを使えるようになったのが嬉しくて、早く縫いたい気持ちが先行して何日も機織り機の前にいたら、こうなった。好きなものに夢中になれるっていいな……ということを実感した徹夜(未遂)明け。
とはいっても、もう夕方だ。今日も今日とて布作りに励んでいた。

「ナマエ、なにも君まで僕の真似をしなくてもいいのに」
「それスタンにも言われた。ていうかゼノ、自分が寝不足っていう自覚あったんだ」
「体調管理などお手の物さ。そういえば確かに、スタンが愚痴をもらしていたな」
「……なんて?」
「君がいくら話しかけても一向に構ってくれないと。まあこれは彼がいつも言っていることだが」
「だって早く仕上げたかったんだもん。それにスタンってところ構わずしつこいから、ついムキになっちゃって」

日中も、皆が就寝した後も作業に明け暮れていた私だが、数日を越したらさすがに心配されてしまったようで、総司令官さまから軽く説教を受けた。それでも「ほっといてくれ」と首を振り続けたら、何故かスタンは居座る方向にシフトチェンジして。

「あんた何日か徹夜してんだろ。倒れたら運んでやっから今すぐ倒れな」

その言葉と真剣な顔で私の意見は倒されてしまった。本当に倒れたら本当に運ばれるところだったし。そもそも一晩中彼と同じ部屋にいるなんて、心臓が持たなくて無理だ。
もう徹夜はやめよう。日中に集中して作業することに決めた。私にそう思わせられたという意味では、彼の行動は正しかったな……。

「しつこいのは、君が彼に対してドライだからだろう。いつもいつも愚痴を投げかけられる僕の身にもなって欲しいところだ」

急にゼノの機嫌が悪くなった。最近寝不足な私より寝不足なのだから、ストレスが溜まっているに違いない。

「二人の間に挟まれると身が持たないな。そうだ、次からのスタン対策のために君の意見をもらっても?近頃の心境を是非とも包み隠さず教えて欲しい」
「恋愛相談?」
「そうとも言えるな。ほら、答えて。君は何故スタンに冷たく接してしまうんだい?昔はもっとマイルドだったろう」

それ、スタンにも言われたっけ。距離が遠くなったって。客観的に私たちを見ていたゼノが言うならそうなのかも。

「……本当の私じゃないの。スタンの前だと偽物の私が勝手に出てきちゃう」
「素直になれないということだね。とてもよく分かるよ」
「ゼノにもそんな経験が?」
「僕も昔はよく上の人間に対して猫を被ったものだ。本当の自分をさらけ出せないことが苦で苦で仕方がなかった」

それはなんか違う気が。

「似たようなものだ。愛情も憎悪も人間を狂わせる。それに、感情の向く対象が少し違うだけじゃあないか」
「ふ〜ん。それで、ゼノはどうやってそれを乗り越えたの?」
「憎い衆愚が皆まとめて石になった」
「なるほど〜」

参考にならない。



「さて。プレゼンテーションを始めてもいいかい?そのために君を呼んだんだ」
「え?プレゼン?」
「いやまあ、そんな堅苦しいものではない。単なる解説だ、僕のデザインのね」

まず最初にスタンのデザインを決めたあと。あれから私はここにいる全員に着たい服のデザインを聞いてまわった。こだわりがある人もいれば、ただのTシャツ短パンでも構わない人もいれば。
そして最後がゼノ。紙に書いてまで準備してくれたのだから、これは相当のこだわりがあると見える。今建設中のお城のデザインもゼノが考えたものだしね。恋愛相談もほどほどに、彼は丸めてあった紙を広げながらこちらに差し出してきた。

「服自体はあまり急がなくともいい。最低限身に纏えるものがあればね。とりあえず早急に手袋が欲しい。作業に必要だ」
「分かった。これ、見させてもらうね」

それはデザイン画というよりは設計図のようなものだった。こと細やかにパーツごとの説明がなされていて、しかも長さや色や素材なんかもまとめて指定されている。やっぱりこれはデザイン画ではなく、企業間でやりとりするような注文書に近い。
ゼノってやっぱり器用だよね……。私に伝わるような絵を描いてくれるだけでいいのに、作業の合間にこんなものを用意してしまうなんて。

「……ゼノ、気になるところは色々あるんだけど、とりあえずこのデザインのコンセプトを教えて貰える?」
「いいとも。ではまず僕の額に注目してほしい」
「え?はい、分かりました」

なんとなくイメージとなったものを聞ければいいと思っていたが、さすがはゼノ、彼はそういうのもしっかり考えていたらしい。
彼の人差し指が示した場所、すっかり見慣れた額の印に目をやった。

「目覚めた当初から君たちには顔を合わせる度に指摘されていたが……鏡ができて、以前のように毎朝自分で顔を見るようになってから自覚したよ」
「自覚?」
「この額の割れ目……これはもはやこの世界において僕を表すマークと言えるのではないか、とね。アイデンティティやチャームポイントとも」
「ふふ、チャームポイントね。そうかも」
「ファッションは自分を表す手段でもあると言うだろう?ならば僕も僕を表すシンボルとして、コートの目立つところに同じ印を施してみた」

自分を表すシンボル。まあ、取り留めのない発想だ。よくある構想。それにしても……以前はモノクロの服を好んで着ていたゼノらしからぬ、派手めなデザインだと思うが。ボスなのでボスらしく目立つ格好をしたいということだろうか。
私は人のデザインにケチをつけるような性格はしていないし、自由な発想があってとても素晴らしいと思う。ただ、何点か質問をしなければならないことが。

「よく分かった。で、それを踏まえていくつか質問があるんだけど。どうしてこの線を作る素材にファスナーを選んだの?」
「中央に連なって交差するデザインに金属やそれに似たものを置くことで、インパクトが出ると思ってね」
「なるほど。分かってると思うけど、構造上一部はどうしてもフェイクになるよ」
「ああ、心配はいらない」

心配はいらない?そう聞き返す前に、彼は交わっていても機能させることができるファスナーの構造について解説を始めた。よく分からなかったが論理的には不可能ではないらしい。
ファスナーの造形なんて私の専門外だ。私は完成されたものを生地に縫い合わせたことしかない。その辺はまあゼノ本人にまかせていいだろう。丸投げではない。分業、分業。

「背中の部分は荷物を背負えるようになっているのね。その延長でこの模様……。ゼノ、ちなみにこの襟のって……」
「どうだい?割と気に入っているのだが」
「素敵だけど、悪役みたい」
「おおナマエ!そうストレートに言われてしまうといっそ清々しいな!」

端的に言うとギザギザ。襟が。額のバツとも合わせてしまうと、なんというかヴィランみたいな雰囲気に……。

「……まあ、このデザインはその額から着想を得たみたいだから、雰囲気が似通うのも無理はないかもね」
「分かってくれるかい?嬉しいものだね、自分のデザインが認められるというのは」
「そりゃあデザイナーの意図を汲み取って形にするのがパタンナーのお仕事だもん。ただね……」
「何か問題が?」
「その、私の……」

私の作業量が半端ない。
それだけ。覚悟はあるのだ。どんなデザインがきても、パタンナーとしてのプライドがあるから決して投げ出したりはしない覚悟ならあるのだけれど。
道具はあっても、以前と比べてしまえばまだまだ環境が整っていないのも事実。ちゃんとこの通りに縫えるかどうか……これは一筋縄じゃあいかない。

「できないかい?」
「できるよ、そりゃ」

ゼノの問いに答えたのは私ではなかった。どこから湧いて出てきたのだろう。間違えた、素直じゃない自分が心の中にまで。



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