03
「ホップ、あなたにプレゼントがあるの!」
それは、幾度めかの何の変哲もない夜のことだった。
1日仕事と学業を両立して疲れ果てていたホップにいたずらをしかけるようにソニアがニコニコ笑っていて、何事かと思った矢先目の前に一冊の古い本が突き出される。
「なに?」
「いーから見てって!」
何か課題に使えそうな資料でもくれるのだろうか。怪訝な顔をしながらホップは適当なページをめくり、内容を理解した瞬間取り落としそうになって慌てて受け止める。
「こ、これって!え!?」
「ふふん、驚いた?手に入れるの苦労したんだから」
それはどこかの地方で完成したらしいポケモン図鑑だった。
今時アナログの図鑑なんてあり得ないから相当古いものに違いなく、見たことないポケモンがかなり精巧に描かれていてそこら辺のポケモンオタクに見せたら感極まって数日家から出てこない程度には珍しい逸品だ。
これでも研究者の端くれのホップもそれはそれはもう一度は解読してみたいと思うものだった。こんな貴重なものを見習いに渡していいのだろうか。
顔を上げると楽しそうなソニアと目が合った。
尊敬しちゃってもいいのよ?なんて彼女の笑みに、ここ最近の何も進歩のない現実に光明が差した気がしてまるで昔のように心が沸き立つ。
──あぁ、これがあれば。
これがあれば、古代語と古代ポケモンの研究が同時に出来るかもしれない。
更にこれがあれば自分がよりすごい博士になる一歩になれるかもしれないし、これがあれば、幼馴染とまた会った時も会話のタネに困らない──ここまで考えて急に恥ずかしくなる。
本当に自分はななせのことばかりだ。
「元気出た?最近テンション低かったじゃない?」
「!……おう、元気100倍だぞ!ありがとう!」
早速家に帰って読んでみよう。久々に手にした希望のせいで足取りがひどく軽かったのがいけなかった。
普段通らない近道を使おうなんてらしくないことをする自分は本当に浮かれていたのだ。
ホップはすごくないけれど、こんな『すごい本』の話題だったらななせもメッセージに反応してくれるだろう。なんとなくアプリを開いて文字を打ち込む。
(なんて言えばいいんだ?久しぶり、すごい図鑑を手に入れたから報告するぞ!とか?)
一緒に解読しないか、なんてことは流石に無理なことはわかっている。今度こっちに来た時にこれを話題に食事でもしないか、ああ、これが妥当だ、これにしよう。
明かりが少ない夜道、時折むしポケモンの鳴き声だけが響く静かな空間でふと人の声が聞こえて顔を上げた。
誰だろう──認識した瞬間半ば本能的に息を呑み、顔を俯け、身体を影に隠す。
「……なんで……」
どうして、ななせがいるのだろう。
人から隠れる為にあるようなその場所には幼なじみと何故かキバナがいた。どうしてブラッシータウンにいるのかはわからないしホップに連絡なんか来ていない。
ただ、ただ、彼は楽しそうに笑っていた。
テレビ用じゃないいつもの笑顔で、久々に見た彼の素顔に元気そうでよかったという安心となんで笑えるんだという不満が交差する。
ホップがあんなに鬱々した日々を送っていたのに元凶の彼は何も気にしていなかった。気にするわけもなかった。
故郷に戻っても連絡一つよこさず違う男と肩を組んで笑って、そんなの、あぁこれは八つ当たりすぎるのかもしれない。
すごくないホップはやっぱりとっくのとうに忘れられていたというだけの話なのに──
「はは……ばかだな、オレ」
キバナとななせの影がホテルに入って行ったところで彼は先ほど打ったメッセージを消した。
書き直した文面は普段の自分なら呆れてしまうような内容だったが、笑って送信ボタンを押した。
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