06

『失踪から2週間、依然としてチャンピオンななせは行方不明です。前チャンピオンダンデは捜索願いを出し──最後に目撃されたのは──』

ひっきりなしに流れてくる不快なニュースをどれだけ見ても肝心の新しい情報は増えなかった。
最後にあの子を目撃しているのはブラッシータウンのホテル前監視カメラだなんてそんなことキバナが一番知っている。
『チャンピオンと連絡が取れない』と苦情が出たのはその翌日の仕事で、なんならそれも火消しツアーとしてキバナは共に行く予定だったのだ。

「火消しィ?ガソリン追加の間違いだろ」

例のホテルに遅れてやってきた刺々しいあくタイプの声に返す言葉もなく、キバナはチャンピオンの仕事量について訳知り顔で分析し始めたバラエティを消した。
最後会った時何もおかしいところはなかった。
ななせはたまに笑える奇声を発し始めること以外は普通の子供だし、仕事が辛くて失踪なんて馬鹿なことを考える程ツラの皮が厚い奴でもない。

目を離すんじゃなかった?いやそもそも、あんな夜更けに未成年を連れ回した挙句1人で帰したキバナが悪いのだ。

「ワイルドエリアを捜索中だがキャンプの形跡もないようだ」

眉間にシワを刻みながら入ってきたダンデはキバナ達を一瞥すると、「これを見てくれ」と長机の上に一枚の大きな紙を広げた。

「ここ周辺の地図だ。そらとぶタクシーが使えない上駅でも見かけられていないとすると、普通に考えればまだ近くにいると推測できないだろうか」
「だけど実家にはいなかったと?」
「あぁ……誰かに誘拐されて閉じ込められているのかもしれない」

金を持ってそうなチャンピオンを2週も誘拐しているのに未だに身代金の要求も無いのは変な話だった。しかも、

「大体誘拐とか相棒が黙ってないでしょーに」

そう、あの子には相棒がいる。
キバナがふざけてアレをお持ち帰りしようとした時ですらワザを打ってきたガラル最強のポケモンが、そこらのトレーナーに負けるだろうか?「あり得ねー」と苦笑するネズの言葉は正しいのだ。 

何か覚えていないかと聞かれてキバナはもう数えられないくらい繰り返したはずの記憶整理をまた始めた。
ぶつ切りの酔っ払いの記憶にかろうじて残っていたものと言えば、酔った自分が強制的にチャンピオンに肩を貸させた場面とか──そういえば部屋についた途端力技でベッドに投げ飛ばしてきたんだっけ。

(……その、後は)

何か憎たらしいと思いながら眠りについたのは何故だったろう。
いつもここで彼の思考は止まっていた。
にくたらしい、腹が立つ。
扱いの雑さに?それだけじゃなくて、たとえば子どもの嫉妬のような、オレさまより『そっち』優先かよと拗ねるような──

「……いや、それは……ねぇだろ」
「キバナ?」

唐突に頭のなかに浮かび上がった容疑者は疑うのもバカバカしい名前だった。
確かに『そっち』であればななせの相棒も攻撃しないだろう。身代金なんて要求されるはずもないし、ななせも信頼している相手だから2週間泊まることもあり得るかもしれない。
だがキバナの知る限りななせに最も仕事を放棄させなさそうな男だ──そんな奴まで疑うとか──疑心暗鬼になってきたらしい己に嫌気がさして無理やり話題を変える。

「なぁネズ、お前の妹はワイルドエリアで探しまくってんだっけ」
「?ええまぁ、あの子達は仲が良いですし。ダンデの弟もそうですよね?」
「いや、アイツは今忙しいからな……ななせのことはわからないと言ってたぞ。かなり心配していた」
「ふーん……は、?え、なに、なんて?」

彼は衝動のままに椅子を倒しながら立ち上がっていた。今ダンデがとてもあり得ないことを言わなかっただろうか。いや絶対言った。
声が震える。

「わからない、っつったの?お前の弟」
「ああそうだが……それがなんだ?」
「なんだじゃねぇよ、おかしいだろ……」

まるで独り言のように呟くキバナを怪訝そうに見た2人に、マスコミだらけの正門をどうにか食い止めておけと言付けして最短距離を地図で測る。
わからない、訳がなかった。
よりにもよって『ソイツ』がわからないだけは言えるはずがなかったのだ。

だってキバナは聞いている。
……正確には、思い出していて。

『……え、ホップ!?』

閉まっていくドアの隙間から聞こえた驚きと喜色が混ざったななせの声が、脳内で繰り返し響いていた。

『久しぶり……!』

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