08
目が覚めたら真っ白な天井……が黒い毛玉越しに見えた。

「……ゾロアーク?」

「ガウッ」

「コンッ!」

次いでキュウコンも顔を出した。
体中が痛くて視線だけで辺りを見渡すと、此処が病院だと解った。
思い出せば地下鉄のトンネルで……。

「ッスイクン!」

ガバリと起き上がろうとした時、腰辺りから頭のてっぺんまでとてつもない激痛が走り声も出せずに悶えていると二匹が案じるように鳴く。

「ガウ」

ゾロアークが私の前にハイパーボールを差し出した。
ガウガウと鳴きながら何かを伝えようとしている。

「いる、の?」

それに大きく頷いて見せると、私は一瞬にして安堵した。

「よかった……」

「コン、コン」

キュウコンが鳴きながら鼻先でベッドの横にあるナースコールをつついて見せる。どうやら押せということらしい。
言われた通りにナースコールを押すと、数分もしないうちに看護師と思わしき女性が入ってきた。

「目が覚めたんですね。
覚えていますか?貴女、三日前のプラズマ団地下鉄襲撃事件に巻き込まれたんですよ」

「プラズマ団……」

「ポケモン解放を謳っている実際テロリストみたいな組織です。
ポケモンを奪われた被害数はかなりの数ですし、今回もまだ手元にパートナーのポケモンが戻ってこない人もいるくらいですから……。
でも、今は自分の身体の方の心配をしてくださいね。
貴女のパートナーの子達もとっても心配していたんですから」

それは解る。この子達も凄くひっついて離れようとしないから相当心配をかけさせてしまった事が申し訳ない。
それでも、スイクンが無事手元に戻ってきてくれた事に本当に安心して意識を手放しそうになったがそれは寸での所で意識を引きもどした。
現実問題、今回私は巻き込まれた形とは言えほぼじり貧生活をしているうえ身元不明な存在だ。
そんな人間がこう言った施設で入院するには以前の世界では保険証というものが必要だったがこの世界でその役割を果たすトレーナーカードすら持っていない。ザッと体中から血の気が引いた。私の財布は既に三千円を切っているのだ。入院費用なんていくらかかると思っている!!

「あ、あの!私、もう退院しますから……!」

「駄目です!貴女、自分の怪我がどれ程酷いか解っているんですか!?
頭部を鈍器で殴られているうえ、ポケモンの技を生身で受けているんですよ!?全治八週間はかかる重傷なんですよ!」

「いや、ホント大丈夫なんで……」

「駄目です!」

やめて!私の財布はもうゼロよ!!
こうなったら正直に入院費用払えませんとぶちかましてやれば、看護師の女性はキョトンとした表情を見せたかと思うと「ああ、そのことですか」と告げた。

「その事に関しては問題ありませんよ。
今回の件についてはギアステーションの責任と言う事で請求はそちらに回りますので、貴女はきちんと療養してください」

「はえ?」

まさかの医療費肩代わりしてくれる企業があるとは思わず驚いていると、看護師の女性は「貴女は運ばれた時に気を失っていましたものね」と納得して一つ一つ説明してくれた。
私が巻き込まれた例のあれは近頃人の持つポケモンを「人間から解放させ、自由にする!」と大義名分を掲げては略奪していくというプラズマ団というテロリストと言っても良い組織に襲われた。つまりは事件性の高いテロであり、私はそんな渦中に巻き込まれた一般人Aというわけだ。
完璧な安全措置を取れていなかったプラス犯人による被害を被ったと言う私は完全なる被害者であり、義務を全うできなかった企業側が責任を取ると言うことらしいがどうも煮え切らない。
うんうんと考えていたが、看護師の女性は「なので完治するまでは出しませんからね」と宣言して出て行った。

「……取りあえずラッキー?って事で良いのかな……」

治療費タダというのはとても有難い。
そのうえ個室を与えられ、ポケモンも個室内と決められたスペースで鳴ら解放しても良いと言う事が書かれた室内に備え付けの案内に書いてあったので元気な二匹はそのままにしておいた。
スイクンの入っているボールに手を伸ばしてみるも、まだ反応はない。

「元気になって出てきても良いと思った時で良いから、お願い」

まるで返事をするように僅かに震えたボールをサイドテーブルのボールをセットする為の窪みにはめ込み、私はズキズキと痛む身体をゆっくりと寝かせた。
A→Z