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エマージェンシーが発令され緊急停止した車両。
その混乱に乗じて乗り込んできたプラズマ弾がお客様のポケモンを奪うと言う会ってはならない事件が起きてしまいマルチトレインに待機中だったわたくし達は緊急事態によりマルチトレインを臨時停止させ事件の起こっている現場へと急行しました。

「ノボリ、カズマサから連絡あった!
襲われたトレイン、ソウリュウシティ行のローカル線!」

「解りました、すぐさま非常用の線路で追いましょう!」

普段なら関係者以外立ち入り禁止の整備用の線路を使い襲撃されたという線路へと向かいます。従業員用の通路はセキュリティ上、コードはサブウェイ関係者の中でも整備に携わるかわたくし達の様に責任のある立場の人間しか知られていない為こちらを利用されて逃げると言う事はないでしょう。
ライモンシティから襲撃のあった地点付近に着くとそこからは通常のトレインの走る通路へと出てまずはお客様の安全を確保。殆どのお客様は無事でしたが、持っていたポケモンを全て奪われ悲痛な面持ちはとても居た堪れません……。

「おねえちゃんが、おねえちゃんが!」

「いかがなされましたか」

ぼろぼろと涙を零しながら訴えてくる園児の女の子が必死にわたくし達に訴えるようにコートを引っ張ってくるので何が合ったのかと思い先されるままに向かえば、トレインの外に出て停車している場所から五十メートル程離れた場所で一人の女性が倒れている事に一瞬さっと血の気が引くのを感じ取りました。
細い体躯にポケモンのものと思われる切り傷に見た目で毒液と解るものを浴びせられ、その中に混じる赤い液体は出血が多い事を示していました。

「ックダリ!すぐさま無線で地上にいる駅員に大至急連絡を!怪我人、それも重傷の方がいらっしゃいます!」

「わかった!!」

すぐさま非常線で連絡を取るクダリに、わたくしは人間でも効くかは解りませんが持っていた毒消しを気休め程度にしかならないと解っていても使わずにはいられませんでした。
生身の人間に、ポケモンの技を容赦なく使うプラズマ団……赦せません。
すぐさま止血の応急処置を済ませるとオノノクスを出し彼女を運んでもらうように背に乗せました。
他の怪我のないお客様は後から来た駅員に任せ、わたくし達は此処から一番近い停車駅へと向かい再び走りだしました。

「ノボリ、その子どうするの」

「此処からだと一番近いバトルサブウェイ用の停車駅があります。取りあえず、そこで待機している鉄道員に預けます」

「りょーかい」

此処からならば三百メートルほどで次の駅に到着できる距離……それならば一度ライモンへ戻るあの車両に乗せるよりも遥かに早い。
そう思っていた時、空気の篭り易い地下では考えられないような清廉でまるで凍えるような風を感じました。
停車駅は、このような状況でなければ見入ってしまう程の氷の世界に覆われていました。

「クソッ!こんな強いポケモン聞いた事ねえぞ!」

「馬鹿ッ!折角奪ったってのに言う事聞かないんじゃ話にならないじゃない!
このままじゃアタシ達まで氷漬けにされちゃうわ!」

「ボールに戻せよ!」

「それが出来ればしてる!!」

おや、仲間割れをしているようですが、彼らの良い争いの原因となっているのが一匹のポケモンであるらしいのはすぐ解りました。
氷の世界の中心でまるで己と言う存在だけがその中で動く事を許されているかのように水色の肢体に深い青色をした鬣と羽衣を纏う見た事もない美しいポケモンがおりました。ですが、見るからに怒り、暴走している様子。奪った、と言う言葉からどなたかから奪ったポケモンで使役しようとして失敗したようです。
クオォォン!と高く鳴くと氷に覆われていた地面がピキピキと音を立ててプラズマ団の男女の足を霜で覆い、床一面に張り巡らされた氷へと氷漬けにして身動きを封じてしまいました。

『かえせ、我が娘のもとへ』

信じられない事に、そのポケモンは人の言葉を発したように聞こえましたがそれがテレパシーによるものだと感じ取れました。
プラズマ団は悲鳴を上げながら逃げようとするも動けない事にパニックを起こしている様子でした。

「すごい……」

思わずわたくしもクダリも圧倒的な様子に呆然としていましたが、ハッとするとすぐにシャンデラのボールを取り出しました。
いくら犯罪者とはいえ、このサブウェイで死人を出す事は避けたいのでございます。罪人はあるべき罰を受けてこそ、と言うべきでしょうか。この様子からあのポケモンは氷タイプ。ならばシャンデラとの相性ならばとボールを投げると、わたくしに続く様にクダリもシビルドンを出しました。

「シャーン!」

「いくらお客様のポケモンとはいえ、些か暴れ過ぎですよ!シャンデラ、めいそうからのはじけるほのお!」

「シャーン!」

「シビルドン、じゅうでんからのでんきショック!」

「シビビ!」

『邪魔するな!』

「うわあ!?」

容赦なくわたくし達の元へれいとうビームが放たれそれを避けるように指示を出す。

「シャンデラ、めいそうです!」

相当強い、と察したわたくしはとりあえず積む事でダメージを増加させなければ一撃だけではいたでにはならないだろうと更にめいそうを積ませ、そこからシャドーボールをシャンデラに指示致しました。しかし回避率を上げているのか、あの青いポケモンはシャンデラのシャドーボールを避けてしまいました。

「シビルドン、かみなり!」

シャドーボールを避ける事を狙っていたようにクダリのシビルドンがかみなりを落とす。
それは直撃し、悲鳴を上げると流石にやり過ぎだと思いましたがそうでなければこちらがやられていたところでしょう……。
ですが、それでもなお己を叱咤するようにして立ち上がろうとするポケモンからは、また同じ言葉が聞こえてきました。

『かえ……せ……』

「わたくし達は貴方を奪ったプラズマ団ではありません。貴方のパートナーの方の元へきちんとお返しします。ですから、もう落ち着いてくださいまし」

『エニシ……』

わたくしが傍によってそう声をかけると、美しいポケモンは傷付いた身体のままふらふらとした足取りで歩き始めました。その先には、オノノクス乗せに乗せた一人の少女。
その口が紡いだ名前が彼女のものだと何となく察すると視線でオノノクスに示すと、背負っていた少女をス、と差し出しました。美しいポケモンは傍によると傷口に顔を近付けるとほのかに光を発する。それはタブンネの使うリフレッシュに似ている様な気がしました。

『毒の心配は無くなった……が……私もこれ、以上は……』

ズ、と崩れ落ちそうになった美しいポケモンが入っていたであろうボールを拾いあげ、開閉スイッチを押すと赤い光とともにボールへと戻っていきました。
この現状を作りだしたにしては呆気ないような気もしますが今はそんな事を気にしている暇はありません。
動きのとれないプラズマ団をクダリのデンチュラの糸で拘束し、連絡したジュンサー様に引き渡した後、彼女のポケモンと一緒に運ばれて行く様子を見送りました。
治療費などはギアステーションに請求して頂くように伝え、わたくしはやらなければいけない事を済ませる為にとりあえず医療の専門家に彼女は任せることに致しました。
この氷漬けの駅をどうやって元に戻しましょうか……。
きっと今回の始末書で徹夜と言う事は解っていましたが、お客様にあれほどの怪我を負わせてしまったことに大変申し訳なく思う気持ちが重くなるばかりでした。
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