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目が覚めたら、とかトンネルを抜けたら、とかそういうありきたりなスタートだったらどれだけ幸せだっただろうか。
自分を認識できる意識を持った瞬間からジョーズも吃驚な一本一本がナイフのように鋭く尖った巨大な牙がずらりと並んだ口があったら誰だって悲鳴を上げるか気絶するだろう。

「ぎゃああああああああああ!!!」

意識覚醒=死亡フラグとか何それ嫌過ぎる。
意識が飛びそうになった瞬間、首元から何かに引っ張られるような感覚がした。軽く首吊状態になっていると、先程まで視界に会った巨大な牙の並んだ口は消えていた。
正確には、私がその場からいなくなっただけで、その牙の正体の巨体はそこにいて目の前の獲物が突然いなくなったことに辺りを見回していた。

「ぅあ?」

え、ちょっとまって、なんで声が出ないの?
呂律の回らない舌が言葉を発しようとしているのにも関わらず言葉にならない声しか出せない。
そのうえ下を見下ろせばそれなりに育った乳も頑張ってダイエットして作ったなんとかくびれと見えるプロポーションも存在しない。樽とか寸胴とか言うのが正しい寧ろ幼児体型……。

「ぅああぅあー!?」

嘘だろぉぉー!?
絶叫したと同時に、自分をぶら下げているような感覚に陥った原因とも言える存在を見上げると、そこにはまるでクリスタルの結晶のような輝きを湛える角に羽衣を思わせるようなものを纏った存在……私の世界で日本だけでなく各国にも根強いファンを持つ子供を中心に(一部は大きなお姉様方にも)人気を誇るポケットモンスター通称ポケモンに登場する伝説と言われるポケモン、スイクンだった。
スイクンは私の纏っている産着の様な物を口に銜え、先程私を丸のみにしようとしていたクチートから助けてくれたようだ。
そしてそっと私を地面に下ろすと滑らかな水の様な感触のする鼻づら押し付ける。水に触れている様な感触なのに濡れないのが不思議だ。あれだ、ウォーターベッドに近い感じだ。
そのままスイクンは私の産着を再び銜えると走りだした。
おおう!?何処に連れて行くつもりだ!?
スイクンに連れられるがままに移動していくと、天然水晶と思わしき物が光り輝く洞窟に連れてこられた。キラキラと輝く一面の水晶に思わず見とれてしまった。そこでスイクンは私を漸く下ろすとまるで卵を温めるかの如く私を腹部へと寄せて身体を横たえた。え、どゆこと?
どうやらこのスイクンは母性に目覚めてしまったようだ。
いや、伝説ポケって性別不明じゃなかったっけ?
とはいっても私はこのままでは何も出来ないので成り行きでスイクン
に育てられることとなった。
どうしてこうなった。
A→Z