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この世界に生まれて落ちてから初めて乗った船に揺られ、降り立ったイッシュ地方。
ヒウンシティと呼ばれるこの地方最大の大都会はまるで現代を思い起こさせる程の高層ビルや行き交う人々が歩いていた。
私がゲームをしていた当時は精々二階建だったり、シルフカンパニーのビルとラジオ塔くらいしか高い建物は無かった……気がする。
きょろきょろとしていればお上りさんかと勘違いされた(間違ってはいないが)ので親切なおじさんが地図をくれたうえ、この街の名物だったり美味しいものだったりをわざわざ地図に書いてくれた。
初めての街というのに情報があるのとないのでは違うので正直有難かった。
ヒウンシティはイッシュ地方の経済都市の様な場所で、数々の有名企業のオフィスが存在する。
街行く人々はビジネスマンやOLが多く、忙しなく動いている様子はまるでかつて生きていた世界の首都を見ているようだった。親切なおじさんのお勧めだと言うヒウンアイスの販売店を見てみれば、平日の昼間だと言うのに長蛇の列が出来ていた。そんなに人気なのだからきっとおいしいのだろうとその最後尾に並んだ。

「あ、君トレーナーさん?ヒウンシティは初めて?」

「はい。というか、イッシュ地方に初めて来ました」

前に並んでいた人に声を掛けられたので応えると、声を掛けて来た人は驚いたように続けざまに聞いてきた。

「え?もしかして違う地方から来たの?」

「まあ、そうなります。イッシュには今日到着したばかりなので、何処から廻ろうかと思っています」

「なら、ライモンシティに行く事をお勧めするよ!
あそこはイッシュで一番楽しい街だからね!
自分の実力に自信があるなら、ジムかバトルトライアル、バトルサブウェイに行くのも良いよ!」

聞いてもいないのに情報を与えてくれたのでそれにお礼を言いつつもあちらが一方的に話してくるので必要そうな情報だけを選んで聞き取り、後の雑談は聞き流しているうちに順番が回ってきた。
アイスを三つ購入し、近くに公園があったと頭の中で道を辿ればセントラルパークのような広い公園の木陰になっているベンチに腰掛けてボールからスイクンとロコンを出した。
二匹とも四足歩行のポケモンなので自分の分は口に銜えたまま二匹の為に両手は塞がってしまうが、二匹とも美味しそうに食べてくれたので私も満足だ。

『先程の男の言っていたライモンシティとやらに行くのか』

「そうだね。大きい街なら何か見つかるかも」

スイクンは私にだけ聞こえるテレパシーを使って問いかけて来た。
この地方ではスイクンを含むジョウトの三犬伝説はそこまでメジャーじゃなさそうだ。

「手伝ってくれる?」

『娘の為だ。当然のことだろう』

私が人間なのに、スイクンは私の事を【娘】だと言ってくれる。
それじゃあ行こうか、とアイスを食べ終わったロコンも擦り寄ってきたので先へ進む事にした。
このヒウンシティからライモンシティへ向かうには二通りの方法があり一つは叢のある道路を進む方法、もう一つは地下鉄を使う方法。
このイッシュ地方は交通網が充実しており、鉄道は勿論、高速道路も空路までインフラ整備が行われているのだとか。
勿論、楽する事も出来るが私はこの地方に来たばかりなのでこの地方のポケモンの把握をする為にも道路を進む事に決めた。

「ロコンもレベル上げになるしね」

「コン!」

くるくると私の足元に身体を擦りつけるロコンはとても愛らしい。うちの子マジ天使。
進んだ先の四番道路は砂嵐地区でどちらかというとスイクンの方が活躍してしまっただなんて、ちょっとロコンに悪い事をした。
ジョインアベニューのバックパッカーと呼ばれるトレーナーとのバトルではロコンにも頑張ってもらったおかげで良い経験値になったと思う。
視界の悪い砂地を越えて街の入り口に入る頃には既に日は傾いていた。

「今日はもう休んで、散策は明日にしよう」

流石にロコンも疲れたのか、へにゃりと元気なく落ちた尻尾がそれを物語っている。二匹をボールの中へと戻すとポケモンセンターへと向かう。私は生まれも解らない、スイクンに育てられた人間だから勿論戸籍なんてないし社会的に【存在しない】存在だから他のトレーナーの様にポケモンセンターも無料で利用する事は出来ない。
勿論それなりの料金を支払って利用するのだから、しょっちゅうポケモン達を回復装置でリフレッシュさせてあげられない事がとても心苦しい。おかげで私の財布はいつだって火の車なのだ。
その分、私が食費を削れば良いだけなのだが、そうするとスイクンに怒られてしまうので譲歩した結果、ポケモンセンターの利用頻度を下げると言う事で話が収まった。回復をする時は宿泊する時、若しくはその日のバトルを以降行わないと決めた時。
トレーナーカードさえあれば、スイクンとロコンにこんな思いをさせないで済むのに、と思いながらも私はポケモンセンターへと向かった。
丁度良い室温を保っている室内は明るく、ジョーイさんが「こんばんは、お疲れ様です」と声を掛けてくれる事にホッとする。

「この子達を休ませてあげたいんです」

「畏まりました。トレーナーカードはお持ちですか?」

「いえ、私は作っていないんで」

「それなら有料になりますが宜しいでしょうか」

私は頷き、二匹だから二千円、と財布から札を二枚取り出してカウンターへと置くとそれを受け取ったジョーイさんはボールを預かる証明の引換券を渡した。ついでに宿泊手続きも済ませると、更に追加料金を支払って私は一日歩き続けた事で溜まった疲労感が爆発したのか、待合室のソファに座った瞬間ぐったりとした。
自販機でおいしい水を購入するとスイクンとロコンが戻ってくるまで何もする気が起きずに特に興味があるわけでもないテレビ番組を眺めていた。
明日はこの街を少し散策するつもりだが、この疲労感が果たして一日で取れるかどうか怪しいところだ。
そう言えば貯まっていた道具もそろそろ整理しないと、と思いながらフレンドリィショップは何処かとジョーイさんに尋ねれば、ポケモンセンター内にテナント出店していると教えてもらえた。イッシュ地方パねえ。
そう思いながら私は水辺で見かけた真珠や星の砂を換金して少しでも現金を補充する。
暫くすると館内放送で引換券の番号札のナンバーが読み上げられ、二匹は一日の疲れをリフレッシュさせて戻ってきた。
私も、今日はもう寝よう。
そう決めてカードキーに書いてある部屋へと向かい、室内へと入った瞬間ベッドへとダイヴした。
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