03
目が覚めた時、壁に掛けてある時計は午前十時を回っていた。
どうやら寝過ごしてしまったようだ。
既に目を覚ましていたロコンとスイクンだったが、私が熟睡していたのに気を使って静かに私が目覚めるまで待っていてくれたらしい。
お腹もすいているだろうに、私は昨日買い置きしておいたおいしい水をスイクンに飲ませて寝起き特有のだるさを訴える身体を叱咤して仕度を始める。
腰まである長い黒髪は切ろうとしてもスイクンが嫌な顔をするのでそのまま伸ばし続けている。どうやら自身の鬣と同じ長い方が好みらしい。
今日は散策がメインなので後ろに一つに結いあげると最低限の身だしなみを整えて鏡でチェックする。

「よし、じゃあ朝ご飯……というには遅いし、少し早目のブランチと行きますか」

二匹はクォンと鳴くと自らボールの中へと入っていった。
昨日到着した時は既に夜だったから人通りもまばらだったがやはり日中は娯楽の街と言われるだけあって人通りはとても賑やかだ。大判のシティマップが描かれているボードの前に立つと、街の中にどのような施設があるのかを確認する。スポーツ観戦の為のドームやショッピングモール、遊園地にバトル施設など数々のアミューズメントパークが揃っている。これは確かに楽しそうだ。ただし、お金があるに人に限る。

「……」

こっそりと財布を覗きこめば全財産は一万三千円といったところか。
暫くこの街に滞在するとして、ポケモンセンターに一週間宿泊するだけでこの半分は消えてしまう。更に自分と二匹の食事代も考えればどう考えても足りない。

「……狩るか」

取りあえず、ブランチを取ってからバトルと言う名の狩りをしなければと思い、視界に入ったカフェに入ることにした。
昼前と言う事もありまだ人の数は少ないが、アンティークな雰囲気が好みだ。

「いらっしゃいませ、一名様ですか?」

「はい」

「当店はお連れのポケモンもご一緒にお食事が出来ますがいかがなさいますか?」

そう言われて少し考える。ロコンはイッシュ地方では珍しい程度で済むが、スイクンはそうもいかない。

「あの、身体が大きいのでお邪魔になるかと……」

「他のお客様を気に掛けるようでしたら、個室もございます」

「あ、じゃあお願いしても良いですか?」

流石にスイクンハブにするのは心が痛む。
通された奥の個室は四畳半程だが天井も高い為ドラゴンタイプ一匹くらいならいけそうな気がする。
私はボールから二匹を出すと、メニューを眺めながら何を食べようか考えていた。

「コンッ!コンッ!」

「スイクン、ロコンは何て言ってるの?」

『ポケモンフーズ以外にもポケモン専用のランチがあると言っている』

ロコンが六本の尾をブンブンと振りながら見ているのは固形のポケモンフーズも勿論あるが、それ以外にもポケモン専用の味付けをしてある料理があった。キラキラとした視線を向けて来たロコンに料金も人間のそれと変わらない事に考えるもこの視線に負けた。
代わりに私は安めのランチを選び、ロコンとスイクンにはポケモンランチを注文した。
普段はあまり良いものを食べさせてあげられないから、今回くらいは良いかと思い注文の品が来るまで二匹の毛並みを堪能しながら待っていた。
料理が運ばれてくる際、ロコンは勿論、本来ならばお目にかかる事すら難しいスイクンは某スイクンのストーカーのようなタイプの男か、熱心な研究者もしくは歴史学者でなければ名前も知らない人間が多い。

「わあ、私こんなポケモン初めて見ました!
イッシュにはいないポケモンですよね?」

「はい。私はジョウトから来たので」

「ジョウトってとても遠い所からいらしたんですね!
イッシュもとてもいい所なので、是非楽しんで行って下さいね!」

笑顔で良い所アピールをしてきた女性店員が「ごゆっくり」と下がったのを確認してから二匹は食事を始める。
食事が終わって少ししたらバトルするから、ちゃんとエネルギーチャージしておくように言えば二匹は頷いた。
私も料理が冷めてしまう前にスプーンを手に取った。
あっという間にぺろりと平らげてしまった二匹はとても満足そうで皿の中はきれいになくなっていた。残すようなことはしないうえ、食べ方も綺麗なのでこちらとしてもとても嬉しい。

「よし、じゃあ行くか」

街の中ではボールに入れるが、散歩がてら一歩街の外に出ればそこにはバトルする相手を探しているトレーナーがちらほらと見えた。

「バトルしようぜ!」

正直短パン小僧は賞金額も大したことないのでロコン一匹でなんとかなった。そもそも相手がフシデという虫ポケモンだったから相性抜群だしな!
他にもバックパッカーやサイクリング、ポケモンレンジャー等を相手にし続け夕方頃には賞金で三万程荒稼ぎした。朝の約二倍に膨れ上がった事で少しだけ余裕が出来た事にホッとしつつも、頭の中ではやはり計算は続けられていた。

「明日もこの調子で稼ぐぞー!」

「コォン!」

『やれやれ』

呆れつつも現実的な事を知っているからかスイクンは嫌がる素振りは見せない。
こうしてバトルすれば賞金も入るし、ロコンはレベルはそこそこだが着実に強くなり始めている。
スイクンは元から高レベルなのでそこまで徹底的なレベル上げは必要ないのだが、やはりバトルを続けていればインスピレーション的なものが上がるうえ、怠ける事を良しとはしない真面目な性格だからかしなやかな身体を綺麗に魅せてバトルでも圧倒する。流石伝説。
その日はそのままポケモンセンターへと戻ると昨日同様二匹を窓口に預けてリフレッシュさせ、その間に私は夕刊を眺める。
情報社会というのはそれなりに何かしら動きがあれば逐一テレビなり何なりで知らせてくれるが新聞もそれなりにマイナーな情報なんかも載ったりするので見る機会があれば見るようにしている。
明日は別の道路で稼ぐか、と考えながら夕飯はポケモンセンターのルームサービスで済ませようかと思いながらソファにもたれかかった。
A→Z