06
R9と呼ばれる総合デパートに行ってみたいと思い、私はこの世界に生まれてから初めて地下鉄と言うものを利用して見ようと決めた。
残念ながら私の手持ちには空を飛べるタイプはいないので、それなら一番手っ取り早い交通手段がこれだったと言うだけの話だ。
バトルサブウェイと呼ばれるバトル専用車両だけではなく、勿論普通の一般車両だってある。
だから少しだけお洒落して、普段は着ないようなワンピースにレギンスといった女の子っぽい格好をして出かけようと思ったわけだ。
およそ二十年ぶりくらいの施設で利用方法を忘れかけていたが周囲の人達の様子を見ながら切符を購入し、次の電車が来るのを待っていた。
利用者の少ない時間を狙ってきただけあり、座席は余裕を持って座れる程で出来るだけ邪魔にならないように座っていた。
タタン、タタンと一定のリズムを刻みながら揺れる車内で真っ暗で変わり映えのない窓の外を眺めながら目的地に到着するのを待っていた時だ。
突如急停車したトレインに慣性の法則に従って進行方向へとつんのめった。
他の乗客たちも同様でポケモンを出していた人達は転がるポケモンを助けようと慌てて立ち上がる。

「一体何が……」

柱にぶつけた方が地味に痛み、眉を顰めて狭いトンネルの先を目を細めて外で一体何が起きたのかを見極めようとした。
最新のATOとやらで安全に運行できると聞いていたのに、こんなトラブルがあると言う事は何か怒っているのかもしれない……。
その時、小さな女の子の泣き声がした。
反射的にそちらに視線をやれば、何処から現れたのか、ダサいフードのついたグレーの衣装を纏った男が女の子のモンスターボールを奪っていた。おい、大人自重しろ。

「かえして、かえして〜!」

「うるせえ!俺達はポケモンを人間から解放する為に働いているんだ!
お前がこのモンスターボールで自由を奪っているポケモン達を解放してやるんだ!」

おいおいそれって自己満足じゃねえの?前にNが似たような事言ってたけど、アンタらがやってるそれただの略奪だからな。
なんて、呑気に思っていたらいつの間にやら仲間と思わしき人間が二人乗りこんで乗客達のポケモンを次々と奪い取っていく。これは私もうかうかしていられない。

「テメェのポケモンも俺らに寄越せ!」

「だが断る」

ズァッと無駄に某ポーズを決めてみる。駄目だ、私では花京院になれない……。そもそもこの台詞は露伴先生のものだった。失敗失敗。そして使い方も間違ってる。本来は有利な条件を吐きつけられているのにそれを叩き折る様にして言うべき科白である。
私が三人に気を取られている隙にいつの間にか背後にある別の車両から乗り込んできた一人に気付けなかったせいで、背後から頭部を殴られその激痛で立っている事が出来ずに倒れ込んだ。その隙に三人は私のボールを奪っていく。
やだ……ッ!スイクンもキュウコンも、ゾロアークも、今は大事な、家族……ッ!
興奮状態が限界突破したようにアドレナリンが出たせいか、激痛に苛まれながらも自らを奮い立たせるように叱咤し、無理矢理身体を起き上がらせてあいつらが逃げようとした方向へと走り出す。

「ッ返せ!!」

「ッチしつこいアマだ!」

「やっちまいなレパルダス!」

豹のようなしなやかな体躯の猫を思わせるポケモンが直接私に襲いかかってくる鋭い爪が私を捉えるがそれでも私はがむしゃらに向かっていく。

「こいつ、生身でポケモン相手にしようとするなんて馬鹿じゃねえの!?」

あちらも私の行動に驚いたようだがそれでも攻撃をやめさせようとはせず、次いでミルホッグとヤブクロンを出し、噛みつかせ、毒を浴びせようとする。
それでも、私は一心に走り続けた。

「邪魔よ!」

掴みかかろうとした私に、女が私を振りほどくように張り倒すと狭い地下鉄内の壁に叩きつけられ今度こそ私の身体の方が悲鳴を上げた。
ズルズルと壁伝いに地面に落ちると、一気に体中の激痛と毒による眩暈、吐き気といった症状が現れ始めた。
そんな私を一瞥すると、走り去っていた四人組にただただ自分の非力さに唇が切れる程噛みしめた。
誰か、私の家族を返して……。
A→Z