- 幻想魔伝 -
02:石林の寺院  


「と言う事でこいつも一緒に連れて行く事になった」

「宜しくお願いします」

「マジか!こんな美女が旅の道連れだなんて、三蔵サマもたまには良い事言ってくれるじゃねえか!」

「わー!お前も一緒に行くのかー!」

「何かとご迷惑をおかけする事も多いかと思いますが宜しくお願いします」

反応はまさに三者三様といったところで、白竜が変身するジープに乗りこみ、一緒に旅をする事になった事を伝えた所で後部座席の中央に座らされる。なんてテンプレ。

「貴女はこの旅の目的を聞いてこの度に付いてくる事を了承されたのですよね?」

「ええ、まあ」

「危険な旅路と言う事を理解していると言う事で良いんですよね」

「勿論です」

「ま、俺達が護れば良いだけっしょ。
こんな美人な女の子血生臭い戦いに引っ張り出す必要なんてねえだろ」

一応、戦う事は出来るんだけどね。
面倒だから黙っておく事にした。

「なあ、あんた三蔵の知り合いみたいだけどこんな生臭坊主と何処でどう知り合ったわけ?」

「あ、それ俺も知りたい」

問われると解っていた質問だったので一応ちらりと彼を見れば何も言わないので妖怪と言う事がばれない程度に言っておくことにした。

「以前、彼がいた寺院を訪れた事があるんです。
その時に少々」

「あー、成程ねえ」

「でも、俺ずっと三蔵と一緒だったけど見た事ねえ」

「多分、貴方が来られる前の話でしょう」

「随分と昔からの顔なじみだったと言う事なんですねえ」

「ええ、まあ」

ジープに揺られながら何もない荒野を進み、一日野宿をした後石林へと道が変わっていった。
流石にこの石だらけの段差が多い場所をジープでは走る事は出来ないので白竜は一度変身を解いて八戒の肩へ止まった。
この道を進むのに荷物を持たなければならないのだが、その際悟空さんがジャンケンで負けた人が荷物を持って進むと言いだしたので参加したのだが何故か私は断られた。解せぬ。

「……このままだと山越える前に日が暮れちまうな」

「一晩の宿をお借りしますか」

何処を目指して進んでいるのかと思いきや、石林の中に岩を加工して作られたような門が聳えていた。

「げ。ごたいそーな寺だなオイ」

「すみませーん」

「何か用か!?」

八戒さんが門の前で声をかけると、僧の一人が顔を覗かせた。

「我々は旅の者ですが、今夜だけこちらに泊めて頂けませんか?」

「───フン。
ここは神聖なる寺院である故、素性の知れぬものを招き入れるわけにはいかん!」

「クソッ、これだから俺は坊主ってヤツが嫌いなんだよ!!」

「へー初耳」

「困りましたねェ」

「今日は諦めてこの辺で野営しましょうか?」

別段布団でなければ眠れないと言うようなデリケートな精神をしているわけでもないので私は構わないのだが、やはり断られたと言う事が彼らの機嫌を損ねているらしい。

「なー腹減ったってば、三蔵っっ!!」

空腹を訴える悟空の言葉に威圧的だった僧の表情が一変した。

「三蔵だと?」

「……まさか【玄奘三蔵法師】……!?」

「何!?」

「しっ……失礼致しました!!
今すぐお通ししますッ!!」

「へ?」

「……」

突如掌を返したかのような態度に拍子抜けされつつも、通された先はこの寺を仕切っていると思う僧正の座する本堂であった。

「───これは三蔵法師殿。このような古寺にようこそおこし下さいました」

「……歓迎いたみいる」

べにもない言葉を口にしながら今更ながら悟空さんが「三蔵って偉いのか?」と尋ねてきた。
【三蔵】とは天地開元経文という経文があり、その森人に与えられる称号こそが【三蔵】であり、仏教徒においては最高僧として最も仏に近い存在として崇められていると八戒さんが説明していた。

「実は光明三蔵法師も十数年前この寺にお立ち寄り下さったのですよ。
光明様の端正で荘厳なお姿が今でも目に焼き付いております。
玄奘様は本当によく似ていらっしゃる」

「……」

「光明三蔵様が亡くなられた後を愛弟子である貴方様が【玄奘三蔵】として継がれたと聞いておりますが」

「───そんなことより、この石林を一日で越えるのは難儀ゆえ一夜の宿を借りたいのだが」

話が長くなりそうな事を予感したのか、僧正の言葉を遮り本来の目的を問えばこれだけ【三蔵】を祀り上げるだけあり否とは言わなかった。

「ええ!それはもちろん喜んで!
───ただ……」

「何か?」

「ここは神聖なる寺院でして、本来ならば部外者をお通しする訳には……
そちらのお三方は仏道に帰依する方の様にはとても……それにこの寺院は女人禁制でして……」

「坊主は良くても一般人パンピーは入れられねーッてか?
高級レストランかよここは!!」

「まあまあ」

「俺は構わんが。
一応こいつは見ての通りの尼僧なんだがな」

「うわー言うと思った。
でも姉ちゃんだけ贔屓だ」

「おい猿良くそんな言葉知ってたな」

「私は外でも構いません。
ただ、このような石林には野生の獣もいるでしょうし、仮にも三蔵様と旅を共にさせて頂いている身……もしも何かあってもわたくしの魂は明日には御仏のもとへ還るだけのこと。何も案じる事などありません」

「うわー今俺姉ちゃんがメッチャ怖いって感じた」

「安心しろ、俺もだ」

遠まわしに「これで死んだら全部テメェらのせいだからな」と脅してやった。
何せ一応は【三蔵一行】のメンバーに数えられているのが女だからという理由で間接的に死んでしまった要因になってしまっては不殺生を掲げている仏道においては最大のタブーを犯すと言う事になってしまうからだ。
結局のところそれも効いたのか、先程の口添えもあり【三蔵一行】という名目で特別に一晩だけ滞在する事を許された。
まあ、彼らの場合は【下僕】だときっぱり言われたのだが、結局それで通ってしまうのが彼らしいのかもしれない。
葉と言う名の小坊主がこの一晩の世話係に選ばれたのだがどうやら彼は【三蔵法師】に夢を見過ぎているようだ。
最高のもてなしとはいったが、量など殆どないに等しい精進料理を出された後、一部屋を借りて雑魚寝する事で話は収まり、寝るまでの間を彼らは何処から取り出したのか麻雀を始めた。その手にはこれまたどこから……と思ったが持ってきた時の食糧袋の中から大量の缶ビールやつまみを出し、それぞれが愛煙している煙草迄吸い始めた。
寺院であろうがなかろうが彼らにはそんなことは関係ないらしい。

「なあ、紫苑は麻雀やらねえの?」

「余り詳しくはないので」

「だったら俺が教えてやるよ!」

「ブァーカ、碌に役も覚えてねえ猿が何人様に教えてやるなんて言ってやがんだ。
どうせなら俺にしときなよ。そしたらやさしーく手取り足取り腰取り教えてあげるわよん」

「何なさってるんですかーッ!!」

「麻雀」

突如迫ってきた悟浄さんだったが、突然の乱入者にそれは途中で止まった。

「うあ、煙草なんか吸ってはいけません三蔵様ッ」

「あー?」

「かけつけ一杯」

「あああああ缶ビールなんか持ち込んでる〜!!
没収ですッ!!」

突如入ってきた少年僧は荷物の入った鞄を取り上げるが、きちんとしまっていなかった袋の口からドサドサと落ちて来たのは酒類だけなくこれまた定番というか、十八禁のDVDだった。

「……人妻乱舞、いけない♥放課後総集編、欲情病棟二十四時、団地妻の欲望……好きなんですか、人妻もの」

「あれ、てっきりヒくのかと思ったけど……」

「まあ、健全な男性ならこれくらいは普通かと。
まあ、そっちの免疫のない小坊主君には十分刺激が強過ぎたようですが」

顔を真っ赤にして倒れそうな小坊主は先輩と思わしき僧を連れてきて持ってきていた私物を取り上げたうえ【禁酒禁煙】【色即是空】と言った張り紙までしてきた。

「ちっ」

「……まったく。
三蔵法師ともあろうお方が何故あのような下賤な輩をお連れに……」

「喉、乾いたんだけど」

「はっ……はいっ、ただいまお茶をお持ち致します!!」

逃げるように茶の準備をしに言った坊主を端目に、再び静寂を取り戻した部屋で煙草や酒の代わりに本や新聞を読んだりする事で時間を潰す事にした。

「……ところでこの寺院は妖怪の被害に遭った事はないんですか?」

「ええ!それはもちろんですともっ。
この寺院は御仏の御加護により俗物が寄りつかないと言われております。我々の篤い信仰が通じてのことでしょう」

「じゃあ武器とかなんも置いてないの?」

「そりゃあ殺生は仏の道に反しますから」

「ちっ、めでてェ奴ら」

「……となると尚の事、僕らがここに長居する訳にはいきませんね」

彼らは妖怪に狙われる危険な旅路をしていると聞いたばかりだ。
刺客に狙われる常日頃、こういった危機感のない場所に長居すると言う事が十分危険である事を理解しての判断だ。
かく言う私も、さすがにここまで平和ボケしている事に驚いたがこれはきっと事が起きるだろうと何となく予感していた。


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