- 幻想魔伝 -
04:川岸での出会い  


今日も今日とて三蔵一行(主に後部座席)はとても賑やかだ。
いつ妖怪が襲ってくるとも解らないのに呑気にカードゲームなんてしながら時間を潰す。そして遊びのはずがいつの間にやら本気になって勝ち負けに拘りイカサマをしただの何だので言い争うのは構わないが私を挟んで喧嘩をするのはやめてほしい。いい加減耳が痛い。

「ああっ!!やるかチビ猿!!」

「やらいでか!!」

「降りてやれ降りて!!」

「今日もまた賑やかですねぇ」

「賑やかと煩いのは別物ですよ」

八戒さんに至っては最早慣れてしまっているのか、この騒ぎも【賑やか】で済むのなら大したものだ。
いよいよ殴り合いになりそうになった瞬間だった。
悟空さんの拳を避けようとした悟浄さんの方向へ勢い余ってぶつかった悟空さんの勢いを殺せず、車体が大きく横に傾いた。

「あッバカ危……」

「うお?」

「あら?」

「あ……」

このままどうなるかは語らずとも解るだろう。

『どわあぁあ!!』

ドボンッとまるで漫画のように滑り落ちた先の川へと落ちてしまった。

「ぷはあッ」

「だああ冷てえッおいッてめーのせいだぞこのバカ猿!!」

「何でだよ!元はといえばお前が……」

互いに落ちた原因をなすりつけ合っている二人に完全に切れている影がそのままぬっと二人の間に落ちると後頭部を掴みそのまま水面へと押し付けた。

「死ね!このまま死ね!!」

「いくら頑丈でも流石にそれは本当に死ぬから……」

冷静な突っ込みを入れてとりあえず川岸に上がろうとした時、くすくすと笑う女性の声が聞こえて来た。
そこにいたのは洗濯物と思われる衣類が入った籠を持った若い女性がこちらを見ておかしそうに笑っていた。

「あ……ごめんなさい。
あんまり楽しそうだからつい……」

「俺をこいつらと一緒にしないでくれ」

「もしかして洗濯にいらしたんですか?
スミマセン水を汚しちゃって」

「……それよりどーすんだよ。
換えの服までズブ濡れじゃんか」

確かに、これでは風邪をひいてしまうかもしれない。
法衣と言うのは普段ゆったりとした作りをしているので、大量に水を吸ううえに張りつくと凄い事になるのだ。

「───あ、服を乾かすならウチの村まで来ませんか?
笑っちゃったお詫びに熱いお茶でも」

流石にこの状況で断る理由が見つからなかったのでその女性の申し出に甘える事になった。
女性の名前は旬麗と言うそうだ。

「貴女はこっち。
私の服だけど、そのまんまよりはマシなはずだわ」

男四人とはそこで別れて別室に通された。
チョーカーの形をした妖力制御装置はタートルネックの服だから見えないので、そのおかげで妖怪とばれる額の紋様は隠せているので良しとしよう。白頭巾の下からは尼僧とは思えない程の豊かな髪が現れると旬麗さんは驚くと同時に「どうせならお洒落しましょう」と言いだし普段着とは違う服を用意してきた。
いや、別にそこまでしなくても……と断ったのだが押し切られた。解せぬ。
髪を乾かす為にタオルを渡され、それで髪に含んだ水分を吸い取っている間に男性陣の方は終わったらしい。

「終わったらこっちに来てね。お茶の準備をしておくから」

旬麗さんはパタパタと部屋を出て行くと一人残された空間が嫌に静かに感じた。
現実ではありえないような桃色の髪も、こうして人前に出したのも何年ぶりだろうか。
髪を高く結い上げると用意された服にそでを通す。若干胸がきついが仕方ない。妲己の男好みで女性も羨むナイスバディを妖術と言うチートで完成させているのだから。
今までは法衣のおかげで体のラインが全くと言って良い程出なかったので、こうした洋服に袖を通したのは何年ぶりだろうか……あれ、これさっきも言ったか。

「……ま、いっか」

普段があれだからこう言う服も今回くらいだろう。
もっと前はレオタードとかプラグスーツを思わせるような肌にぴったりかつ露出度高めの衣装ばかりだったのだからこれくらいならまだ可愛いものだ。言っておくが私の趣味ではない。
ある程度髪も乾いてきたので彼らとも合流するべく部屋を出た。
するとこちらを見て目を丸くしていたり硬直していたりと言う反応が返ってきた。どういうことだ。

「どうかしました?」

「ッッッ!!有難う旬麗ちゃん!!」

「ほあー。紫苑、あの真っ黒よりずっとそっちのが良いって!」

「服装一つでここまでイメージが変わるものなんですねえ」

「…………」

無言なのは言わずもがな。
いつのまにやら年嵩を増した女性も増えており、食事まで用意されていた。

「あらあらこれまた美人さんまできたもんだ。
さあさあ、あんたもこっちきて温まりなさい」

飽いている席に通され、彼らに今まで話をしていた事を伝えられた。
旬麗さんにはかつて妖怪の恋人がいて、一年程前にこの桃源郷で起こっている異変───自我の消失を感じた事でその恋人は誰かを傷つける前に消えてしまったのだという。彼らが着ている服はその恋人の物だという。
熱いお茶を出されてそれを啜りながら話を聞いていたわけだが、その間悟浄さんの様子がいつもより大人しい事に些か違和感を感じた。
その日の夜は結局旬麗さんの家へ泊まる事となったのだが、私は彼女と同室となった。旬麗さんなりに気を利かせてくれたらしい。

「ねえ、紫苑さん」

「なんですか」

「あの中に貴女の【良い人】はいるの?」

やはり女性と言う者はこう言う類の話がいつになっても好きらしい。

「……残念ながら貴女の期待している回答ではありませんよ。
もう、何年も会っていませんから」

「そう、なの……」

「でも、それでも構いません。
いつか逢える日が来ると信じていますから」

それはいつか私の時間が止まった時……あるかも解らないあの世を期待するなんて、らしくないけれどどうやら私はあの短期間でどうやら籠絡されてしまったらしい。
少しだけ、自嘲気味に笑ってみれば「そう、そうよね、いつか逢えると信じていれば……」とまるで自分に言い聞かせるように繰り返す旬麗さんの声が聞こえた。
夜も更ける頃には寝入ってしまった旬麗さんを横目に、私は眠れないまま窓の外に見える月を見ていた。
どうか、都合のいい夢でも見れるのなら私はいつまでも眠っていたいとすら思いながらも結局夢を見る事も出来ずにいつの間にやら眠っていた。


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