悟空さん、悟浄さん、八戒さんを前に私は苦笑した。
「この際、洗い浚い全てお話しましょうか」
今迄追求されなかった方が奇跡に近かったのだ。
彼は未だベッドで眠っている。
「私は、この桃源郷の外側から来ました。
私は仙界と呼ばれる仙人の住む場所の妖怪仙人でした」
「仙人って、道教などで言われている仙人のことですか?」
「はい。
ですがそれは私がある事情でそうせざるを得なくなってしまったから私は妖怪仙人として過ごしていました。
……まずはそこからお話しなければいけませんね」
この人達だって妖怪なんだから、一匹増えた所で変わらないだろう。
そして私は語り始めた。
私はもともとはただの人間だった。
ただ、他の普通の人間と変わらない生活をしていたのだが、とある事件に巻き込まれて命を落とした。
死んだと思った時、私は【妲己】と呼ぶ妖怪仙人に出会った。妲己は千五百年以上生きる程の強大な力を持つおかげで魂の身で動く事の出来る存在だった。妲己というのもこの肉体の娘の名前で、本当の名前は知らない。
妲己は人間の肉体を奪う事で人間の世界に潜り込み、贅沢三昧をするような奴だった。お互いが魂同士だった時、私は彼女が【妲己】となった時一つの肉体に二つの魂が入る形で彼女と共に存在していた。
とは言っても元は只の人間だった私が大妖怪とも言える彼女に勝てる要素など欠片もなく、私は彼女を止める事も出来ずに彼女のする事を見ている事しか出来なかった。
妲己には目的があった。それは世界の真の支配者となる事───彼女は世界そのものと融合することでその目的を果たし、彼女が棄てた【妲己】の肉体は私のものとなった。
長年私も存在したこの肉体は良く馴染み、妲己に主導権を握られていた時とは嘘のように自分の思う様に動かす事が出来た。
彼女が使っていた力も、道具もそのまま扱えた。だから私は漸く妲己から解放されて紅して存在している。何かの拍子でこの桃源郷へ来たのだが、その原因が解らないので今はこうして旅に同行する形で手掛かりを探している。
「───と言ったところでしょうか」
「なんつーか、スケールデカ過ぎて頭追いつかねえわ……」
「紫苑さんは元は人間で、妖怪の肉体を得た事で妖怪となった……
ということでしょうか。ですが、元はその、妖怪に肉体を乗っ取られる前の女性は人間と言う事ですし、妖怪化した人間の身体に人間の魂の紫苑さんがいるということでしょうか……」
「その通りです。私も妖怪である事が長くなりましたので、最早諦めていますしね。
これはこれで活用させてもらっていますし」
「ま、妖怪だろーが人間だろーが良いオンナには変わりねーから俺としては全然オッケーだけど」
「何か良く解んねーけど、紫苑は紫苑ってことには変わりねーんだろ?
だったらいーじゃん」
呆気からん様子でそう言った二人に思わず拍子抜けした。
てっきりもっと何か言われるかと思っていたが、悟空さんと悟浄さんは身を乗り出してきた。
「なあ、そーゆーこと気にしてたんだったらもう全然気ィ使わなくって良いんだぜ?
あ、それならさ、俺の事悟空って呼んでよ!さん付けされるとなんかもームズ痒くって仕方ねーんだよ」
「なんだったら俺も悟浄♥って呼んでくれても良いんだぜ?」
「それは謹んでお断りします」
「ははは、今までみたいに変に畏まらなくても構いませんよ。
どうせ僕達は外れ者の集まりみたいなものですから、気にする必要も畏まる必要もありません。
これからはもっと気軽に接してもらえた方が僕としては嬉しいです」
案外ウェルカムな状態にホッとしたような気がした。
これで追いだされたら又放浪の旅に出なければならない。まあ、今もそう変わらないのだろうけれど。
「あんたが妖怪ってこと、三蔵は知ってて連れて来たんだよな?」
「さあ?私ははっきりと公言した事はありませんから。
多分忘れてるんじゃないですか」
「ふーん、三蔵もハクジョーなやつだな」
「おい悟空お前【薄情】なんて難しい言葉良く知ってたなァ」
「は?バカにしてんのかこのエロ河童!」
「あァン?バカにバカっつって何が悪い!」
いつものように口論になり始めた二人を脇目に八戒さんがこそ理と耳打ちする。
「多分、僕が貴女と一番状況が近いものだと思います。
こんな僕でもこうして迎えてくれているのが彼らですから、もう肩の力を抜かれても大丈夫ですよ。
あ、僕のこともさん付けしなくても結構ですよ」
にっこりと笑みを浮かべてそう言う八戒さん……否、八戒の笑みに僅かに威圧感を感じた。
「さて、そろそろ怪我人のはずなのに勝手に病床抜けだした不良僧を迎えに行かないといけませんね」
窓の外を見れば既に雨は上がって空からは光が差し込んでいた。
出発寸前に必要物資を購入し、荷物を乗せたジープに乗って森の出口で彼らと共に一人の帰りを待つ。
森から出て来た足取りはどこかぎこちなかったが、無事に見えた金色に思わず目尻が下がった。
「お客さん何処までー?」
「初乗りいちまんえんだよン」
こうなる事を解っていたから、彼らは変わらない態度でそう言った。
彼は呆れたように持っていた銃を悟空に放り投げ、助手席へとドカリと乗り込んだ。
「西に決まってンだろ。
───俺は寝る!起こした奴は殺すぞ」
「───はいはい」
「おやすみなさい」
せめて、眠っている時だけは安息を───
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