- 序章 -
04:朱泱という男  


ここ数日の間で江流を見かけては話しかけ、多少弄ってやれば面白いくらいの反応が返ってくるので中々楽しんでいる。性悪と言うなかれ。
その日も江流を甘やかすように弄っていたのだが、そこを初めて見る僧の男に見られた。男は驚いたように瞠目していたが、江流が「朱泱!」と呼んだので仲は良い男らしい。

「あ、貴女様は確か光明様の元へ説法をお受けになられる為に来られた方という……」

「どうぞ私のことは西刹院、と。
名をお伺いしても」

「はい。私は光明三蔵法師様の門下で朱泱と申します」

「朱泱殿。私は説法を受けに来ているとはいえ同じ仏の道を悟ろうとする者同士。どうぞ、そんな堅くならずとも構いません」

仏道なんて知らんけどな。
べ、と心の中では舌を出しているが表では聖女の面を崩さないようにしなければいけない。
光明からボロを出すなと言われているしね。

「いや、まるで母子のように仲睦まじいように見えまして、お声を掛けて良いものかと」

朱泱の言葉にほほほ、と上品に笑って見せる。

「こんなに大きな子供を持った覚えはないんですけれどねえ」

「そうだぞ朱泱、こんなババアが俺の母親なものか」

「ババアとは何ですか私はまだ十八(希望年齢)です」

「えッ!?」

多分、それくらいの年齢のはず。
自称セブンティーンと言っていたから一応一年くらい歳喰ってても左程変わりないだろうが。
そして驚く事なのだろうか。

「何を驚きましょう。朱泱殿も私と歳も左程変わりないように思いますが」

「え、いや、確かにそうですが……。
にょ、女人で仏道に帰依するにはまだお若いと思いまして……」

「人にはそれぞれあるのですよ」

まあ、ぶっちゃけこれも光明の発案なんだけどねー。もう本当あの人何考えてるんだか解らないわ。

「朱泱は札使いの師範代なんだ。だからこいつにそんなに畏まる必要なんてねえだろ」

「馬鹿ッ!
お前だって院号持つ尼僧つったら上位のお方だって解ってるだろ!
すみません、コイツ口が悪くて……」

「お気になさらず。
それに私も西刹院と名を賜ってはおりますがまだまだ日の浅い若造です。
皆様方のご鞭撻を教授していきたいと思っております故、この寺院に滞在する間だけでも宜しくお願い致します」

「こちらこそ、宜しくお願い致しますッ!」

若いねえ。青臭いというか、真面目というか、堅物なところは私の好みではないけれどまっすぐな所はなかなかに好い。
態度から見るに江流も彼には良く懐いているようだし、言うなれば好青年といったところか。

「っと、江流、お前の事光明様がお呼びだったぞ。
早く行っとけ」

「ん、解った」

光明の名前を聞いた江流はすたすたと言われた通り光明の自室へと向かう為に行ってしまった。おかげで残されたのは私と朱泱なのだが、些か会話を探すのに迷った。

「西刹院殿はまだこちらにいらしてから日が浅いのですよね」

「ええ、三日ほど前にこちらへ」

正確にはそれより前からいるのだが光明の計らいのおかげで介抱されている期間中は江流以外に存在を知られていないのが幸いだった。

「そんな短期間であの江流があのような口を利けると言うのはなかなかないことなのです。
口ではああ言ってはいますが、西刹院殿に少なからず気を許していると思いますので見逃してやってください」

「まあ、そうなのですか」

へえ、あのお坊ちゃんがねえ……。
それなら嬉しいわ。
そのうちあのツンケンしている子供を甘やかしまくって子供っぽくなるところを見てやろう。
ひょーほほほと心の中で笑っていたが、これ完全に妲己の笑い方移ってるわーやだわー。


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