- 仙女VS天女 -
02:あれからン年  


この世界が私がかーなーり昔に見た事のある某放送協会の子供向けアニメの世界だと知ったのはそれから暫く経っての事だった。
私が引き取る事となった子の名前が【きり丸】と言ったが、なんとなく聞いた事があった程度で気にも留めていなかったが、その面影が成長するにつれて見覚えのあるものになったことと、成長するにつれて金にがめつくなっていった事、そして忍術学園なる名称を耳にしてからだった。

「きり丸」

「何、かあちゃん」

あれからきり丸は私の事を母と思ってそう呼ぶようになった。
無理してそう呼ぶ必要はない、とは言ったが、きり丸は産みの母も育ての母も自分にとっては大切な母親なのだと言ったのでそれを受け入れる事にした。とはいっても私は元は人間だったとはいえ、身体は化け狐が奪い取った事で人間ではなくなってしまった娘の身体を使っているので老いる事もない為精々二十歳前後と言った姿だ。この時代、十代で結婚して子供を産むのが一般的な為突っ込まれることはないとはいえ、殷王朝を操る為に紂王に嫁いだ妲己はともかく【紫苑】は未婚だ。……精神的に。
きり丸は今年数えで十になる。今でも子供ながらにアルバイトをしたりして日銭を稼いでくるようになったとはいえまだまだ子供だ。と言う過去の時代にアルバイトという外来語が流通しているのが謎だが通っているのでもう突っ込むのはやめた。アルバイトって確かドイツ語だよな……どうでも良いけど。

「学校に通ってみたいと思わない?」

「……へ?」

突然の事に目を丸くして言葉になっていない声を返した。

「貴方ももう十になることだし、良い機会だと思ったから……」

「かあちゃんは、おれのこと邪魔だと思うのか……?」

その返答に思わず言葉が途切れた。

「確かに、おれはまだ子供で、まだまだアルバイトでもあんまり稼いでくることは出来ないけど、でも、頑張るから……だから……」

この子の言わんとしている事に気付いて思わず苦笑してしまった。
手を伸ばして安心させるように頭を撫でてやると、俯き気味だった顔を上げてこちらを見上げてくる。

「きり丸が邪魔になるなんて、とんでもない。
私はね、きり丸が頑張っている事もよおく知っているし、我慢強い子だってことも知っている。でもね、こうも毎日アルバイトばかりしていたら、関わるのは大人の人達ばかりでしょう?だから、きり丸には歳の近い子のお友達も作って欲しいと思っているし、何より色んな事を知ってもらいたいと思っているの。
学がないから、なんて理由で将来の幅が狭まってしまう事の方が私は悲しいし、私はきり丸に出来る限りの事をしてあげたいっていうのが親心なの。だから、決して貴方の事が邪魔になったなんて事は絶対にありえないから安心しなさい」

きちんと思っている事を口にして順序立てて説明すればきり丸はその意味を咀嚼して理解したように頷いた。

「でも、おれが学校なんて行ったら学費とか……すごくかかるだろう……?」

「子供がそんな心配をするもんじゃあない。
何の為のへそくりだと思っているの」

私は決してがめつい訳ではないがこの子に合わせて同じような価値観を持っていると思わせるには少しばかりお金に関してはしっかりしているというところを見せてあげた方が安心するのだとこの数年で理解している。
尼の格好をしていれば、お布施を貰ったりも出来るし、きり丸が寝静まった頃にいかにも野盗ですと言わんばかりの男をスーパー宝貝パオペエの傾世元禳で完成させた誘惑の術テンプテーションを使って貢がせたりした事で生活費を稼いできた。下種?いいえ、生きる為に必要な事です。そのうえ今私は養い子までいるのだから、人様に迷惑を掛けるような輩の持つ物だったら私達親子の生活の役に立てるのだから構わないだろうと開き直る事で正当化してきた。
だからきり丸の知らない所で箪笥預金ならぬ床下預金をしていた私は質素な暮らしをしているようでそれなりに蓄えはあるのだ。だからたまに、今日は良い事があったから、と言っては普段は食べないような物(少し高い甘味とか)を一月か二月に一回は準備したりする事もある。
今回の入学だって私の預金があれば十分に余裕を持って賄えるだけの金額だったので、殆ど記憶にはないとはいえきり丸が主要人物の三人組に組み込まれている事もあり入学ルートを選択したのだ。

「その代り、ちゃんと学んでくる事。そして一人前になったら、どうするかを決める事。それが私の望み」

「……解ったよ、おれ、学校に行く!」

このままフリータールートに行く事を回避して忍術学園への入学を決める事が出来た。あ、土井先生と同居しているという話だった気がするが、まあ良いか。
そしてこの春、めでたくきり丸は忍術学園の門を叩く事となった。


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