Training camp - in Irupinet Hotel -:Come out

朝。
借りたホールに集まったビードロズ達は練習の準備をしていた。

今日の午前中で、合宿中の練習はもう最後になる。
後は昼食を摂ったら帰宅する。それで合宿のスケジュールは終了だ。

なので今日の午前練習は、もう兎に角通し!通し!通し!で行くと前もって決定していたのだが。

「はい皆さんちゅうもーくw」

棗が言った。
その隣で、紫希はものすごく緊張した顔をしている。

「お?何々?」
「何、急に。」
「いや実は、重大発表がありましてw俺の独断で言うタイミング見計らってたんだけど、今日が良いかなと思ってねw」
「おー!何かわかんないけど楽しそー!」
「もったいぶってないで言えや。」
「はい、じゃあ発表しますねwとは言っても、本題は俺じゃないので、本人からどうぞw」
「「本人?」」

視線が集まって、紫希は心臓が口から出そうになった。
深呼吸しようと思っても出来ない。何らかの理由で反対されるかもしれない。
というか、そもそもまだ技術的には下手くそでしかない。堂々と頼めるほどの物を自分は持っていない。

でも言わないと。
自分が始めた事だもん、自分でやらないと。

「・・・棗君には、話したんですけど・・・」
「ほうほう!」
「うん。」
「紀伊梨ちゃんと千百合ちゃんに・・・というか、リーダーとベーシストに、お願いが、あって・・・」
「お?」
「あ、そっち。」

ぎゅ、と握った手に力が入る。


「・・・こ、んどの海原祭、私・・・キーボードで、一緒に演奏がしたいです!」


は。
の字に口を開けて紀伊梨が固まった。
千百合も目を見開いて固まった。

なんて?
キーボード?
演奏?

「それで、あの、棗君にずっと教えて頂いていて・・・取り敢えず、「夢の飛行船」だけ練習していて、一曲だけさせて頂こうかと思ってるんですけれど・・・」
「・・・え、それって紫希が弾くんでしょ?」
「ま、まだ下手なんですけど・・・はい・・・」
「ステージに立つって事?本番で一緒するって意味で良いんだよね。」
「ゆ、許して頂けるんでしたら・・・・」


「・・・・ぃ、やったあああああああああー!!!!」


ホール中に響くような大声が鼓膜をつんざいたと思うと、紫希はもう次の瞬間にはタックルをもろに受けて倒れていた。

「あうっ!紀伊梨ちゃーーーー」
「やったーーーー!やったやったやったやった・・・やったー!ひゃあっっほおおーーーーー!」

尻もちをついた紫希の両手を引っ掴んで、今度は無理やり立たせてそのままくるくる回り始める紀伊梨。

「ハイパー嬉しそうねw」
「当たり前じゃん!そんなの当たり前じゃん!やっと皆で演奏できるんだよ!?嬉しいに決まってるよそんなの!」
「で、でも、さっきも言いましたけど、私まだ下手くそでーーーー」
「そんなのどーだって良いよ!紫希ぴょんと4人でステージに立てるんだから、もーそれで良いよ!わーい、やったー!」

「凄い喜びようだなwまあ昔からやりたいやりたいって言ってたもんね・・・あれ?お前はどうしたの、呆けちゃってw」
「いや、何か聞いても信じらんなくて。紫希が大勢の前に立って発表とか、あり得なくない。」
「まあねwあれだけ粘ってNoって言い続けてたもんねw」

ビードロズ結成当時、当然といえば当然だが、紀伊梨は4人全員でステージに立ちたがった。
でも紫希はそれを断り続けた。どんなに宥めすかされて、手を変え品を変え誘われても、断固自分はステージには立たないと言い続けた。

千百合と棗は、まあ紫希はそう言うだろうなという事で納得が早かったが、紀伊梨は本当に2人がいい加減にしろと止めるくらい、しつこく食い下がった。
結局一番前で必ず見ているからということで落ち着いたし、暫く現体制で活動していたら言わなくなったけど。

「あ、あの、千百合ちゃん・・・」
「あ、え?何?」
「千百合ちゃんは、どうですか?あの・・・私が、一緒で、良いでしょうか・・・」
「え、良いけど。何で?私が嫌って言うと思ってたわけ?」
「嫌というか、その・・・千百合ちゃんは優しいですから、許してくれるとは思ってました。でも・・・私、下手で・・・千百合ちゃんはグループのためにスキルアップして頑張っているのに、私みたいなのが入って足を引っ張るのは失礼じゃないか、っていう考えがあって・・・」
「えー!そんなのないよ、大丈ーーーむぐ!」
「お前はちょっと黙ってなさいw」
「・・・・・・」

確かに。
バンドとしての完成度をあげるべく、一条にも練習を見てもらって尽力してきたのに、ここで下手くそを入れることによって折角上げた完成度が下がる。それは事実だ。

「・・・聞きたいんだけど。」
「はい・・・」
「なんで急にこんな事しようと思い立ったの?」

あんなに一緒にやろうやろうと言い尽くしても嫌と言い切ったのに、何故今になってやりたいとか言い出したんだろう。
千百合にはそれがわからなかった。

「・・・・あの、覚えてらっしゃるかわからないんですけれど、GWの時・・・」
「GW・・・下見の話?」
「はい。私あの時、千歳ちゃんに舞台に立つのが怖い腰抜けだって言われて・・・」
「ああ、そういやそんな事・・・え?まさかそれで腰抜けじゃないもんアピをするの?」
「あ、いえ!えとその、アピールがしたいわけじゃなくて・・・私、作詞が好きで。それは、好きだからやってるんだって思ってました。今でも、思ってます。舞台が怖いから妥協して作詞してるわけじゃない、って・・・胸を張って、作詞したいからしてるんだ、って証明したいんです。」
「・・・それが演奏なの?」
「はい。もし皆と楽しくステージで演奏出来たら・・・その上で作詞を選べたら、私、今度はちゃんと返事が出来ると思うんです。舞台に立つのは好きです、でも作詞がもっと好きだから作詞してるんです、って。」
「・・・・・・」

その目的で取る手段がそれか。マジか。

「本気かよ・・・」
「す、すいません、我儘を言って・・・」
「いやそういう意味じゃなくて。考えついても普通それやるか?って言いたいの。人三倍くらい人前に弱いのにさ。」
「そ、そうなんですけど・・・でも、他に思いつかなくて・・・」
「そ。いや、別に反対してるわけじゃないよ。私的には普通に面白そうと思うし。下手でも良いんじゃない?元々私らそんなストイックな方向でやってないでしょ。」
「そう言って貰えると・・・本当に、有難うございます。」
「ねー!」

紀伊梨が割り込んできた。
なんだか嫌そうな顔で。

「何あんた、急に機嫌悪くして。さっきまでテンション高かったのに。」
「紫希ぴょん!」
「は、はい・・・」
「文化祭終わったら、その次は!」
「え?」
「もーキーボードやらないんですかっ!」
「・・・ええと・・・一応、そのつもりで、」
「それは駄目ー!」
「いや、無理でしょ目的的にw」
「諦めろよ。っていうか、作詞とキーボードどっちもやれっていうのは無理があるでしょ。あんただって紫希の詩で歌いたいんでしょ?」
「なっちんは作曲とドラムと編曲やってるじゃーん!」
「アイツは馬車馬以上に働かせてもくたばらないけど、紫希はそうはいかないでしょ。」
「や、やっぱり棗君みたいには・・・私、そんなに器用じゃないので、」
「むー・・・」
「っていうか、くたばる前提で話しないでよw」

なんて笑いながら話しているが、千百合とても棗のタスクの引き受けぶりは、棗だから出来ていることはわかっている。
棗と紀伊梨がそれぞれ三足のわらじを履いているからといって、紫希や千百合にそうしろと言っても無理がある。
それぞれをなあなあにして良いというのなら出来なくもないかもしれないが、そんな事は誰も望んでいないだろうし。

「まあそういうわけでねw纏めると、紫希の演奏するのは海原祭で、「夢の飛行船」一曲だけw一回こっきりでよろしくねw」
「まあ目的がそれなら一回で十分だし、良いんじゃない。そんなにいきなりいくつも練習しろっていっても無理あると思うし。」
「えー!フェスにも出ようよ、出ようよー!」
「ちょ、ちょっとそれは・・・フェスはやっぱり、完成度をより優先するべき場だと思いますし、そもそも本当に私飛行船しか練習していないので、」
「それ以前に出場メンバーもう提出してるでしょw今更変更出来ないよ、こんなギリギリになってw」
「そうだけど・・・そうだけどー!」
「さあ、それより練習だ練習だwもう今日は紫希混ぜてやっちゃおうぜw」
「!そーだそーだ、れんしゅーは何回だって出来るよね!よっしゃ、やっちゃおやっちゃおー!もー今日はずーっと飛行船のれんしゅーだけで良いじゃん!」
「そ、それはダメですよ!」
「えー!」
「ほら、ぐだぐだ言ってないでさっさとアンプ繋げよ。」

この日ホールでは、グループ結成以来初めて4つの音が混じる演奏になった。

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