Training camp - in Irupinet Hotel -:Come out



「おー!たっくさんあるー!」
「思った以上に品揃え良いねー!うん、アイスも売り切れてないな。」
「良かったですね。それに日陰で、ちょっと涼しいです。」

ここは元々居た、フリスビー遊びをしていた広場から少し離れた自販機コーナー。
入口のない簡易の建物の中に、各種自販機がずらり。

「・・・・」
「紀伊梨ちゃん?」
「ねーねー、紀伊梨ちゃんあっちでアイス食べてきて良いー?」
「え?でもフロートは、」
「それも食べたいけど、もう一個食べたいのー!ね、ね、急ぐからー!」
「い、急がなくても良いですけれど・・・」

フロートにするのならやっぱりバニラアイスが鉄板だが、紀伊梨はチョコも食べたくなったのだった。でも、バニラと違ってチョコアイスはソーダと混じって美味しいとは思えない。

「お腹を壊さないですか・・・?」
「だいじょびだいじょび!紀伊梨ちゃんのお腹は、じょーぶ!です!」
「そうwじゃあ先に食べる?紫希ちゃんはどうする?」
「あ、私は大丈夫です!フロートが入らなくなりそうですし・・・」
「そう。じゃあ紀伊梨ちゃん、先にこのお金で選んで買いなよ。」
「ほーい!」

意気揚々とチョコ味のアイスバーを買って、その場で袋を開ける紀伊梨。
小口は紫希のスカートが無事かどうかちょっとひやひやしているが、紫希はもう、その辺は貸した時点で覚悟している。

「アイス、アイスー♪・・・・ん?」
「どしたの?」

紀伊梨の目がきり、と真剣になる。

「・・・・走ってる音がする。沢山。」
「え?」
「沢山・・・沢山って、どのくらいですか?」
「うーん、沢山!体育のマラソンと同じくらいかなー。」

体育のマラソン。
今はクラスで男女別に分かれていて、2クラス合同なので実質1クラス分。つまり、40人くらいの足音。

「・・・テニス部、かも・・・」
「かもねえ。ランニングでもしてるかな、ここ公園だし・・・」
「紀伊梨ちゃん見て来よっかー?」
「え!」
「で、でも危ないのでは、」
「だいじょびだいじょび!沢山のほーには行かないよーにして、見てくればOKっしょー?」

要は、一方的に見てくれば良いのだ。見通しの良い所から視認して、正体だけ見れば良し。丁度良いというか、あの目立つ黄色ジャージだろうし、左程難しくないだろう。

「ってわけで、いてきま!」
「あ、ああ・・・」
「ああ・・・まあ、近づかなければ平気じゃないかな?転んだり叫んだりしても、ある程度離れてれば気のせいで通るだろうし。」

一抹の不安に見ないふりをしつつ、小口と紫希は多少急ぎ気味に買い物を始めた。




「えーとー?こっちかな・・・お!あ、居た居たー!」

黄色のジャージの集団が走っている。
小口の推測通り、どうやらランニング中らしい。

「でも、ちょーっと少ないよねー?半分くらい?」

後の半分どこに居るんだろうか。
マラソンとかでいうと、所謂真ん中集団という奴で、先頭と最後尾集団はここじゃないどこかにとかそういう感じだろうか。

なんて事を考えつつ、チョコアイスをペロペロ。夏は溶けやすい。

とか思って、完全に目がそっちにしか行ってなかった。


「・・・となると、交換はネットが優先になるな?」
「はい。幸村と柳の意見も聞いてみたいところではありますが、少なくとも俺はそうするべきかと。」
「成程。そうなると必要数が、えー・・・」


「・・・・ひょー。」


紀伊梨は小声で呟いた。

向こうからやってくるのは真田だ。
それから知らない部員。

紀伊梨は預かり知らぬ事だが、実は紀伊梨が見ていたのは真ん中集団ではない。
最初から半分に分かれて、ランニングとクールダウンを交互に繰り返しているのである。

だから今走っていない半分は、思い思いの場所で軽く歩いたりストレッチしたり、ちょっと雑務をしていたりするのだ。
ちょうどこの、会計担当の先輩部員と真田の様に。

「ボールの経費が、えーと今月は・・・」
「ボールについては、プレッシャータイプ、のものが・・・!」
「・・・真田?」

気づいたらしい。
千百合には気づかない真田だが、紀伊梨は目立つのでやはりなかなか無視しづらいのだった。いっそ知らなければ、ただアイスを食べている女子が居るなで済んだものを、なまじ気づくから今度は挙動不審になってしまうのだ。

「おい、真田。どうした?」
「ああ、いえ・・・な、何でもありません!」
「そうか?・・・お、悪い。」
「は?」
「ちょっと待って、マネジからだ。もしもし?」

立ち止まってしまった。
自然、真田も立ち止まる事になる。紀伊梨がアイスペロっている、この場で。

「うん。うん・・・え、待て待て。もっかい言って。ちょ・・・真田、俺ちょっとあっちで書いてくるわ。悪い、待ってて。」
「・・・はい。」

近場のベンチに座り込んで、何事か書き始める部員。

急に腹痛になってとでも言って、さっさと去ればいいものを、律儀な真田はその場で待ち続ける。

「・・・・・・」

ちろ、と横目で真田を見上げる紀伊梨。
紀伊梨は別に離席してはいけない理由などないので、行ってしまっても良いといえば良いのだが。

「・・・・・・」

じいっ・・・っと見上げていると、真田はやっぱり紀伊梨だとわかっているのか、居心地悪そうにしている反面絶対にこっちを見ようとしない。
こっち見ないかなー、と思いながら視線を刺し続けていると、とうとう終いに真田の目線がちろり・・・とこっちを向いた。

「!・・・・・」
「・・・・ぷっ!」

おかしい。
日頃から目と目を合わせまくって人と話すくせのある真田が、今必死になって自分から目をそらそうとしているのが、すごく面白い。

「・・・・!〜〜〜〜〜〜!」
「ふくっ!ふ・・・・・ぷふ!」

笑うんじゃない、と言わんばかりに真田は怒った表情で、一瞬顔ごとこっちを向いた。
しかしまずいと思ったのだろう、また前を向いて・・・でも気になってしょうがないので、さっきから目だけで怒って何事か訴えている。

いけない。超面白い。

いかにも何か言いたそうに口がぎりぎりと歯噛みしてるけど、何にも言えないのだ。今は。
それは紀伊梨もそうなんだけど、こんな真田は初めて見た。

今後いつ見られるかわからないから、もうちょっと見ていようかと思っていたが、紀伊梨の良い耳は微かな足音を捉えた。

残念。時間切れだ。
「よっ!」

紀伊梨は真田のポケットに、今しがた食べきったアイスの棒を突っ込んでその場を走り去った。

「なっ・・・おい、貴様!」
「悪い悪い、え、何!?何怒ってるんだ真田・・・」
「!すみません、その・・・ええ、先程ここに居た女子が、俺にゴミを押し付けて去ってしまったもので、つい・・・」
「ゴミ。そりゃまた随分だな・・・ん?」
「何ですか?」
「・・・真田、どうやら意地悪されたわけじゃなさそうだぞ?」
「は?」
「ほら。」

棒に書いてある「あたり」の文字を見た時、真田の脳裏には帽子の下で笑っていた紀伊梨の顔が蘇った。

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