Training camp - in Irupinet Hotel -:Come out


「はーあ、あっつ。」

千百合は日影でベンチに座っていた。
棗はフロートの準備をすると言ってどこぞへ行ったので、今は一人。

(グラサン取りてえー・・・)

怠い。
日差し除けというのは良いけど、やっぱり普段かけてないものをずっとかけ続けるのはしんどい。

とは言っても、いつどこで誰と鉢合わせるかわからないから、我慢するけど。

(・・・誰も帰ってこないな。)

特にやることもないので、意味もなくぼーっとスマホでも見ている。
音楽でも聞くか、なんて思ってイヤホンを探そうと手をポケットに突っ込んだ時だった。


「もしもし、立海大附属の幸村ですが。」


「・・・・!」

今座っているベンチ。
と、背中合わせになるように位置しているベンチに、幸村が居る。

いや、さっきから足音とかで誰かが来て座ったのは知っていたけど、わざわざ振り向いて顔を晒すリスクを負うこともないと思って放っておいたのだ。

「・・・・・・・・」
「先日お話を頂いた件なんですが、やはりお断りします。」
「・・・・・・・・」
「そういう事ではなくて、やはりこういった事は部長を通すべきであると思いますので。俺は確かにS1を任されていますが、それとこれとは話が別です。はい・・・はい。」

幸村の事だから、ここに座っているのが自分だという事には気づいているだろう。
同時に、恐らく他の誰も近くに居ないからこうして多少リスキーとも言える事をしているのであろう事も想像がつく。

(って事は、電話するからって集団から離れてんのかな。)

それなら転じて、今ここは結構安全なわけだ。
幸村が居れば、不慮の事態が起きても上手くフォローしてくれるだろうし。

千百合は逆にちょっと気が抜けて、遠慮なくベンチにもたれかかった。

「・・・はい。それでは、失礼します。」

ピ、と通話を切る音がする。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

(・・・あれ?)

立ち去る様子がない。
休憩中とかなんだろうか。

「・・・・・」

ほんのちょっとだけ期待してスマホを見るけど、別にLINEとかは来ていない。

いや、わかってる。
今部活中だし。部活中に幸村が恋愛とか友情を優先しない事なんて、ビードロズメンバーは全員知っている。例え休憩中だろうが関係ない。

わざわざここを選んで電話して、そのままそこに居てくれるだけでも、幸村的には既に公私混同に片足突っ込んでいるのだ。
周りがどう思おうと幸村がそう思ってる事はわかっている。
だからこれで良い。これで十分優先してくれてる事を感じるから、良いんだ。

・・・良いんだ。

「・・・・・・」

何考えているんだろう。
どんな顔しているんだろう。

もう昨日話をして、それで一番確かめたかった事はーーーー少なくとも自分への好意が薄くなってきたとかそういうわけではない事はちゃんとわかったから、ここ最近の中ではかなり穏やかな気分でこうして居られるけど。

でも、そうすると今度は入れ替わりに別の気持ちが沸いてくるのだ。
ただシンプルに、最近まともに合わせてなかった顔を合わせて、一言二言で良いから直接話をしたいという気持ちが。

「・・・・・・」

次会えるのは、このままだとフェスという事になる。
別にそうでなくても、無理矢理にでも会おうと思えば会えるけど。
でも、そこまでして会う理由なんてないし。それでなくても、今お互いに詰めなんだから、休めるタイミングで休みたい気持ちもあるし。

それに何より。


こういう時に恋人よりテニスを優先する、そういう男を自分は好きになったのだから。


(会いたいくせにいざ会えるように頑張られたら幻滅しそうって、我ながら矛盾しまくり・・・)

どうされたら満足なんだよと言われてもわからなくて、幸村と居るとこういう事が本当に多いと思う。
基本何事にもスパッと決めるし、そもそも物事に対してあまり深く物を思わない千百合は、こういう時つくづくらしくないなと思う。

それと同時に、もしかしたらこうやってらしくないのが恋愛というやつなのかもしれないな、とも思うけど。

「あ!幸村!」

知らない部員の声がした。
タイムリミットだ。

「お前、なんでこんな見つけにくい所に・・・東雲が呼んでるから、悪いけど戻ってくれ。」
「すみません。休憩時間内に戻れば構わないかと思っていたもので。以後気を付けます。」
「あ、いや・・・別に休憩にどこに行こうと勝手なのは勝手なんだけどな。公園内だし、休憩中なのに呼びつけてるのはこっちだし。いやでも・・・暑いだろ、こんな日の差す場所で。」

(え?)

千百合は思わず後ろを振り返った。

本当だった。
自分が今座っているベンチは日陰だが、それと背中合わせになっている幸村のベンチは、よくよく見ると確かに日陰になっていない。

「俺、絶対屋根のある所に居ると思って・・・何してたんだ、こんなカンカン照りの下でじっとして。」
「ですから、休憩を。」
「こんな所で休憩も何もないだろ・・・今日は確かに、多少風あるとは言え。」

「良いんです。俺は・・・今の俺にとって、一番心安らぐ所で、休んでいた。それだけの話です。」

ふふっ、といつものように幸村が笑う声が聞こえる。

「他の人にとってもそうだ、とは言いませんけど。」
「いや、俺は間違いなく休めない。せめて木の下に行こうぜー、もう。」

なんて談笑しながら、2人分の足音が遠のいていくのを、千百合はじっと聞いていた。

「・・・・・ふふ。」

会いたいのに会ってしまったら幻滅しそう。
自分でも我儘極まると思ってたような事に、こうやって満足いく答えをくれるから千百合は幸村が好きなのだ。

紀伊梨あたりに言ったらきっと「おしゃべりすれば良かったのにー!」とまた煩いだろう。けど、良いんだ。

自分達は、これが一番良い。


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