First RAINBOW FESTA:Without worrying
「千歳・・・おい!千歳、どこ行くんだ!」
「うっさいわね、ついて来ないでよ!」
「来ないでよってお前、あれ放置していくつもりかよ!?」
スタスタと速足で歩く木崎を、笛寺が後ろから追いかける。
木崎は今、歩きスマホをしていて人の荷物を蹴飛ばしたのだ。
鞄の中身がそこらに散らばって怒る持ち主に対して、木崎は一瞬困った顔をした後、キッと睨んで「そっちが悪い」と一言。
いつものパターンだ。
いつものパターンだけど、今日はまずい。
何せこの会場から原則離れられないのだ。木崎がいつもやってる、その場を逃げ出す戦法は結局逃げ出せていないという事になる。
おまけに、会場に来てからまだ幾らも経っていないのだ。
こんな調子じゃあ、帰るまでの間に何度こんな事が起きるかわかったものじゃない。
「最悪出禁になるぞ!」
そう言うと、やっと木崎は足を止めた。
流石にそれはまずいと思っているのだろう。同時に、有り得ない話じゃないとも思っているに違いなかった。
「・・・・・・・」
「なあ、戻ろうぜ?一緒に謝るからさ。」
足を止めてくれた。
良かった。
・・・と、一瞬笛寺は希望を抱いたけど。
謝罪。
その単語を聞いただけで。
「・・・嫌。」
「えええ・・・・」
「兎に角嫌!なら純平が代わりに謝ってよね、私は嫌よ!」
そう言って、さっきそれで失敗したのに、木崎はまた前を見ないで走りかける。
馬鹿、またぶつかる。
そう思っている端から、本当に誰かにーーー集団にぶつかった。
「きゃ!」
「!」
相手の男はよろめいたくらいで済んだが、木崎は思いきり尻もちをついた。
「大丈夫かーーー」
「あんたねえ!ぼけぼけ歩いてんじゃないわよ!」
「千歳・・・・」
だから。
どうしてそこで、すみませんが出てこないんだよ。
ぶつかられた側なのに先ずこっちを気遣ってくれるような人なのに。
ごめんなさい急いでたんです、と言えばそれで済むのに何故。
気を悪くされるぞ、と笛寺が思った瞬間、気を悪くするどころではない怒号が飛んだ。
「おい!そもそもはお前がぶつかってきたのだろうが!」
「真田ーーーー」
「止めるな柳!女だろうと許しておけん、こういう物の道理を通さん奴と言うのはだなーーー」
「お、おい真田・・・・」
「桑原、お前まで!」
「そうじゃのうてな。」
「彼奴逃げてっけど?」
「・・・・は?」
木崎は威勢が良いが、威勢が良い以上に逃げ足が早い。
単なるスピードと言うより、逃げる隙を探すのが上手なのだ。ずっとそうやってきたから。
他の人と会話してる相手の前からとんずらするなんて、造作もない。
ただ、それは木崎一人ならの話だが。
「ちと・・・せっ!」
「!ちょっと、何ーーーー」
「何じゃないんだよ、謝れよ!」
「いや!」
「〜〜〜〜ならせめて、俺が謝るからそこでじっとしてろ!一人で行くな、また同じことになるぞ!」
「・・・・・・・」
「おい、そういうわけにはーーーー」
「真田君、ここはそれで良しとしましょう。」
「しかし、」
「弦一郎、無理に謝らせようとしても逃げる人は逃げるよ。代わりに謝ってくれると言ってるんだからそれで良しとしておかないと。」
「俺もそう思う。元より気にしていないが、それ以上の謝罪を求めても返ってはこないだろう。」
真田は筋の通らない女だと思ったが、はっきり言って他のメンバーにとっては筋が通らない女というより、面倒そうな女である。
正に野良犬に噛まれたようなものというか、何だ彼奴?で流せるもんなら流した方が良いと思う。関わったら関わっただけ、トラブルになるようにしか思えない。
だが、幸村と柳、柳生はある事に気づいた。
「「「・・・・・」」」
「本当に、悪かった。ごめんなさい。怪我とか・・・」
「いや、それは平気だ。荷物なども損傷していない。今こうして謝ってくれたのだから、それ以上はもう良い。」
「・・・本当に、有難うな。もうこんな事がないように、気を付けるよ。フェスの方、楽しんでいってくれ・・・あ!千歳、行くなって言ってるだろ!ご、ごめん!それじゃ!」
笛寺は慌ただしく駆けていき、その背を立海一同テニス部は見送った。
「・・・なんだったのだ、あいつ等ーーーいや、彼奴は!」
「あそこまで横暴じゃと、人生逆に思い通りにいかんじゃろうな。」
「どう育ったらああなんのかね。」
「そうだね、良い人とは言い難いけどーーーでも逆に、少し納得はしたかな。」
「納得?」
「ネームカードにバンド名が書いてあった。つまり、参加者という事だ。グループ名は、ツクヨミ。」
「ツクヨミ・・・・って、」
「下見の時に会ったと言っていたのは、彼らなんだよ。その中でも春日に向かって作詞を馬鹿にしたっていうのは、彼女の事だろうね。」
マジかよ、という気持ちと。
それからもう一つ、ああ・・・みたいな納得の気持ちが同時に各々の心に生まれる。
「・・・つまりあれなわけ?彼奴、今は虫の居所が悪いとかじゃなくてーーー」
「常時、ああなのでしょうね。つまり、素なんですよ。」
「たるんどる!本人もさる事ながら、周りは何をやっているのだ何を!あの男と良い、肩代わりして謝罪などするから本人がますます増長するのだ!」
「・・・まあでも、ちょっとわかる気もしない、でもないというか・・・」
「無理に矯正するより、放っておいた方が周りも楽じゃからな。」
ある意味、木崎は見捨てられているのだ。
あのまま年を取ればまず間違いなく苦労する(というかもうしているけど)だろうに、そこまで頑張って矯正してやるほど、誰も木崎を思っちゃいない。
立海勢は知る由もない事だが、木崎の親も可哀想だからと言って娘をこのままにしておいているし。
「まあ。」
幸村の声音は区切りをつけるように響いた。
「今日の本題は、あっちじゃないからね。幸い誰も怪我なんかはなかったし、気分を切り替えて楽しむ姿勢で居よう。愉快じゃないけれど、引きずったまま見るのは失礼だし。」
「だな。とっとと忘れようぜ。」
「ええ、それが良いでしょうね。」
「・・・わかった。」
顔に釈然としません、と書いてあるような真田に、一同は苦笑しつつ。
でもまあ前向きにそうしようとしてくれているので、昼には治っているだろう。
大丈夫、まだ時間はある。
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