First RAINBOW FESTA:Idea

「zzzzz・・・・・」
「健やかですねえ。」
「電池が切れたみたい、ちゅうのはこういう事を言うんじゃろうな。」

賞に輝いた全てのグループがアンコールを終え、閉会式が終わる頃には、紀伊梨はもう疲れて疲れて疲れ果てて夢の中だった。
衣装も脱いでないし、楽器の片付けも全部他の者任せになったが、ビードロズ的には予想の範囲内なのでまあ良い。

「しかし、これからどうするのだ?夕食もまだ食べとらん上に、そもそもこのまま帰るつもりか?」
「大丈夫大丈夫wこういう時は大概、深夜に起きて飯食って風呂入って、また寝るからw打ち上げはまた後日ねw」
「帰りも、車が来てくれますから。どっちみち楽器の搬送もありますし・・・」
「千百合、誰が後どのくらいで来るんだい?」
「えーと、今日の帰りは紀伊梨んとこのおじさんとおばさんが夫婦で空いてるって・・・あ。ちょっと、テニス部。」
「「「「「「「?」」」」」」」
「誰か車乗って帰りたい奴、挙手。」
「えーと・・・どういう事だ?」
「もう遅いから、希望者多かったらワゴン出すって。私らだけなら1人で良いけど、あんたら送迎用に夫婦で動いても良いって話。」
「マジ?良いわけ?」
「良いって言ってんだし、良いんじゃない。」

それを聞いて、テニス部勢の何人かが揃って時間の確認をした。

「確かに、もう時間としては遅すぎる。電車も混雑していて乗車に時間がかかるようだし、親を安心させるためにも甘えられるなら甘えておいた方が、こちらとしては助かるな。」
「んじゃあ、俺頼む。ジャッカルは?」
「俺も今回は甘えるかな。」
「じゃあ逆に誰か、自力で帰るっていう人は?・・・居ないね。」
「おっけ、じゃあそう言っとく。」
「仁王君、お家の場所は大丈夫なんですか・・・?」
「別に家の正面で下して貰わんといかん決まりはないじゃろ。適当に近い場所で下りるダニ、心配しなさんな。」
「ぶれねえなお前もw・・・ととと、」
「む。替わろう、黒崎棗。お前も、車が到着するまでずっとそうしているのは無理があるだろう。」
「マジか、サンキュwぶっちゃけ腕が痛いw」

紀伊梨はずーっと棗におぶわれていた。
フェス会場がまだ人でごった返しているので、ベンチが空いてないのだ。
流石に地べたにそのまま寝かせるのはあまりにも可哀想なので、棗がおぶっていたのだが、迎えが来るまでずっとって厳しいなと思っていたところだった。

「来年は、パイプ椅子を持ってきましょうか。あの、小さい簡易のものを・・・」
「え、要らない要らない。兄貴におぶわせときゃ良いんだって。」
「お前ふざけんなしw」
「あはは。まあ、来年はもう少し持つんじゃないかな?次も今年と同じような目に遭うとは、流石に考えにくいしね。」

「まあ・・・今日は確かに、色々ありすぎたかもな。」
「普通に演奏するだけでも、疲労なさるでしょうからね。それに加えて、他所の観賞と、スカウトに、賞の授与に、アンコールに。」
「ま、大体は嬉しい悲鳴って奴じゃん?スカウトの時に色々ごたごたしてたのが、今回結構大きいだろい。」
「随分泣いていたからな。泣くと体力を使うものだ。」
「逆にようアンコールが出来たもんじゃの。」

そう。
賞に輝いた結果、アンコールをする事になったビードロズは、結構皆へろへろの状態だったがアンコールを立派に乗り切った。
正直千百合と棗はマジかよこのコンディションでするのか・・・とか思うレベルで疲弊していたが、不思議な話、ステージに立つとやれちゃうのだ。自分達のどこにこんなエネルギーが残ってたのか自分でわからないけど。

まあ代わりに、終わったらもうしんどすぎて、今は電車で帰るなんてとてもやってられないくらいなのだが。

「ああ、来たね。皆、あの白い車が五十嵐の所のワゴンだよ。」
「じゃあチーム配分しないとなw住所の近い人同士でw」
「それなら俺がやろう。全員分の住所は分かっているからな、そう難しい作業じゃない。」
「すいません、いつもこういう事を任せてしまって・・・」
「それは俺も感じていた。いつもいつも柳に押し付けるような真似をして、」
「そう難しくない、と俺が今言ったのを聞いていたか?」

「住所近いって話なら、俺とジャッカルは一緒だろい?後は?」
「真田君と幸村君ではないですか?」
「いや、私ら真田とは家遠いよ。精市と真田は幼馴染だけど、繋がりはスクールの方だし。」
「柳生は第四だったよな?だから比較的俺達と近くて・・・仁王はどうだ?」
「ピヨ。」
「あのなあ・・・・」

なんて話している間に、白のワゴンは滑るように一同の目の前までやってきて停車した。

「おじさん、こんばんは。」
「おこんばんw」
「ご無沙汰しています。」
「・・・こんばんは。」

「なあ、幸村君。」
「うん?」
「あれ、五十嵐のおじさんだろい?何か怒ってる?」
「え?ううん、別に怒っていないと思うよ。いつもと同じ感じだし。どうして?怒ってるように見えるかい?」
「いやでも・・・見えるというか、予想外だったっていうか・・・」
「娘がああで、母親がああじゃったからな。」
「確かに、寡黙な方であるというのは少々意外でしたね。」
「ああ。てっきり、一家全員揃って騒がしいタイプかと俺も思っていた。」
「そうか?」
「む?柳は違うと踏んでいたのか?」
「まあ、確率の話だ。人間というものはある程度人数が揃うと、ある程度性格はバラつくのが自然だからな。」

いうほど賑やかなタイプじゃない、を通り越して人より無口、にカテゴライズされる紀伊梨の父・竣介は、黙々と楽器を自分のワゴンに詰め込んだ。

「ふう・・・で。あ・・・」
「はい?」
「その・・・娘を有難う、ええ・・・」
「おじさん、彼は真田弦一郎と言います。テニス部です。」
「!すみません、名乗るのが遅れました!改めまして、真田弦一郎です。」
「ああ・・・真田。君が真田君・・・うん・・・」

この場合、君がとかうん、とかって何なんだろうか。
別に続きを話すこともなく、娘を受け取って後部座席に座らせる竣介が何を考えてるのかわからな過ぎて、テニス部はちょっと怯えている。

ビードロズや幸村は怯えない。
この父親はただただひたすらに言葉が少ないだけで、別に取り立てて気難しいわけでも複雑な事を考えてるわけでもないのを知っているからだ。

「よし。ええと・・・それで・・・こっちに乗るのが、」
「住所の範囲から割り出すに、春日と丸井に桑原、それから柳生です。」
「分かった。ええ・・・」
「柳蓮二です。よろしくお願いします。」
「ああ、柳君は君か・・・いや・・・こちらこそ・・・」

(な・・・なんだ、なんだというのだ!絶妙に調子が狂う!)
(すげえ独特なテンポ、五十嵐の親だけあって変わってんなー。)
(何かこう・・・悪い人じゃなさそうだけど、会話に困るな・・・)

「ええと・・・じゃあ、残りの子・・・後ろに・・・あ。」
「「「「「「?」」」」」」
「・・・・ええ・・・ああ・・・・ええ・・・」
「「「「「「・・・・???」」」」」」

紀伊梨は今助手席に乗っている。
だから次はさっさと後部座席のドアを開けてくれれば良いのに、自分でやれと放っておかないどころか、後部座席の扉を見つめながらあーだのうー、だの言いながら何もしないで立ち尽くす竣介の姿に、テニス部は一抹の不安を覚えた。

(おい、あれは大丈夫なんか。)
(ふふっ!大丈夫だよ、おじさんは偶にああなるから。何かを考えてる時、よくあんな感じになるよ。)
(申し訳ありませんが幸村君、そう言われても左程安心の材料になりませんよ。)

何かを考えてるって、この場合何を考えてるんだろうか。
それは誰にもわからない。

「・・・ええと、じゃあ。先ず紫希ちゃん、一番最初にどうぞ。降りるの・・・一番遅くなってしまう、と思うから・・・」
「あ、はい!」
「で、次に・・・ええ・・・」
「「「「「「・・・・」」」」」」
「・・・・ええ・・・・」
「・・・ぷはっw」
「あはは!」

堪えきれないで吹き出す棗と幸村。
なんとなくどうしたいのかは目の動きでわかったが、それにしたってもうちょっと出来るだろうに。

「おじさん、このハーフの彼が桑原です。で、そこの赤毛が丸井。眼鏡をしているのが柳生です。」
「ああ、有難う幸村君・・・・ええ、じゃあ、丸井君・・・どうぞ。」
「はーい。」
「あ、紫希ちゃんのとな・・・違う、2列目に・・・いや、良いのか・・・紫希ちゃんの隣に、乗って。」
「??はい。」

「・・・ああ、ああ・・・そういうあれか。」
「おじさんw成り行きが分かりやすすぎでしょw」
「何がしたいんじゃと思っとったが、まさかあれがやりたかったんか。」
「確率で言うと50%程だが、他の原因である確率は全て10を下回る。おそらくそうだろうな。」

そう。実はこの父、紫希と丸井の仲に気を使っているのである。
進んで、というよりも、もしこういう事を無視すると、あの妻とか長女にえー!?信じらんない、なにやってるのよもー!という扱いを受けるのは必至だからだ。

でもそれはそれとして、こういうの上手くない。
だからぎこちない。スムーズに出来ない。ちょっと勘の良い人にはもうバレバレ。

今だって紫希ちゃんの隣に座って、と言いかけて。いやでも露骨かなと思って辞めて、いやでも逆にこっちのが自然かと思って元に戻して・・・みたいな事をえっちらおっちら考えてやってるから、こういう事になる。つまり、こういう父親なのだ。決して、悪い人じゃないけど。

「ええ・・・で。こっちの真ん中の列に、桑原君と、柳生君と・・・うん。」
「では、お邪魔します。」
「お世話になります。」
「うん。ええと・・・じゃあ、残った子はうちの妻がもう少ししたら来るから、」
「はい、もう来たみたいです。」
「「「「「え?」」」」」


「皆ー!遅くなってごめーん!」


以前聞いた時と全く変わらない、明るい声音が運転席から聞こえてくる、白いワゴンがもう一台走ってきた。


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