Family moments 2:My dream 2
などと言って半分以上衝動的に飛び出した紀伊梨と付き添いの乾は、乾の滞在するホテルーーーつまり、リラの居るホテルへと向かっていた。
「リラちん居るかなー?」
「その心配はあまり要らない。俺もあまり部屋から出ないからわかるが、彼女は多くの場合部屋に居る。そうでなければ東の方向のビーチか、どちらかだ。」
因みに、何故部屋に居るとはっきりわかるのかと言うと、部屋にいる間は大抵歌いにくそうに歌っているか、家族と言い争っているかどっちかだからである。
特にデータを取ろうなどと思っていなくても、音で簡単に所在は分かる。
「東・・・?ってどっち?」
「東はあっちの方向だ。」
「へー!でもなんでそっちなんだろ?」
「それについてはおそらくーーー」
「あ!」
「・・・・!」
この場合はラッキーと言えるだろう。
そろそろホテルの入り口が視認できるくらいの距離まで来た時、2人は向こうから近づいてきたリラと鉢合わせた。
(・・・・・・)
リラは一瞬どうしようか迷った。
乾に対しては、リラは昨日自分の話を打ち明けた事で親近感のような物を覚えていた。
自分の事を全く知らない、異国の年下の男子。
その距離の遠さが、逆にリラの口を開かせたのだった。
ただ、紀伊梨に対してはどうしたら良いのかわからない。
なんだかやたらにぐいぐい距離を詰めてきて正直迷惑と最初は思ったが、昨日の夕方は逆に自分が我を忘れて詰め寄ってしまって、苦手意識と罪悪感が両方ない交ぜになり、対応に迷う。
しかし、その迷った一瞬で紀伊梨はさくっと距離を詰める。
「リラちん!」
「!?(な・・・何!?)」
「駄目だよ!歌手を辞めるなんて、そんなの絶対絶対駄目だよ!って、あれ?これ英語だとどう言うの?」
「俺が通訳しようか。」
「あ、お願いお願いー!」
「(ねえ、なんて言ってるの?)」
「(ああ、実は君の昨日の話を俺が話してしまってね。君に歌手を辞めないで欲しいと言ってるんだ。)」
「・・・・!」
歌手を辞めるな。
いや。紀伊梨に言われるまでもなく、そもそもリラは辞めないというスタンスなのだけど。
でも。
「(・・・・彼女は、歌手なの?)」
「にゃんて?」
「君に聞いている。貴方は歌手ではないのか?だそうだ。」
「あ、紀伊梨ちゃん?紀伊梨ちゃんは、バンドやってます!頑張ってます!プロじゃないけど!こないだ。プロダクションのしゃちょーになれませんって言われたけれど!」
「!?」
これには乾の方が驚いた。プロじゃないけど、の所まではそうなのか、くらいの気持ちだったが、この間プロダクションの社長になれないと言われたって。
「乾っち言ってー!」
「あ、ああ。」
「(なんて?バンド?プロダクション?やっぱりプロなの?)」
「(いや、そうは言っていない。彼女は日本でバンドを組んでいる。が、プロではないんだそうだ。それから・・・よくは俺にも分からないが、プロダクションの社長に、君はプロにはなれないという様な事を言われたらしい。)」
「・・・・・・!!」
リラは大きな目を更に大きく見開いた。
片や現歌手でありながらオーディションで不合格を言い渡されたリラ。
片やそもそもプロになれないと雇う側から言われた紀伊梨。
どっちが。どっちも。
「・・・・」
「あれ?リラちん?Yes?No?」
「(歌手を辞めるな、と君に言っているが。)」
「(・・・・・・ごめん、上手く返事できない)」
「何て?」
「上手く返事が出来ない、だそうだ。」
「・・・?え、結局どゆ事?」
「(・・・貴方は歌うのが怖くはないの?)」
「歌うのが怖くはないのか、と聞いている。」
「怖い?なんで?」
「(何故怖いのか、と聞き返している。)」
「(・・・私、自分の歌には自信があるわ。これでもプロの歌手ですからね。)」
「・・・・・・」
「(でも、自信があればあるほど駄目と言われるのが怖いわ。傷つくもの。何が駄目なのかもわからないし、どうすれば良いのかもわからない。プライドが折れるって、そういう事でしょ?今の状況から抜け出したいけれど、その為に何が必要なのかさえわからないのよ。)」
「何て?」
「・・・・歌には自信があるが、自信があるからこそ、誰かに認められないのが怖い。傷つく。どうすれば良いのかわからなくなる、そういう恐怖がある。君にはないのか・・・と聞いている。」
リラの言葉は紀伊梨に響いた。
自信がある事を否定されるのは辛い。
それは分かる。
どうすれば良いのかわからない。
それもよく分かる。
分かるけど。
「・・・・分かるよ。」
「(分かるそうだ。)」
「(それならーーー)」
「でも、止められないよ!紀伊梨ちゃん、音楽が好きだもん!
するなって言われたら辛いもん!
ずっとずっと音楽やりたいからーーー止めろって言われても出来ないよ!
皆違うの?するなって言われたら止められるの?」
「・・・・・!」
乾は小さく息を呑んだ。
「(・・・好きだから。)」
「(え?)」
「(止めろと言われても出来ないから、続けていく。君は違うのか?・・・だそうだ。)」
リラが大きく息を吞んだのが乾に聞こえた。
「(・・・・頼みがあるの。)」
「君に頼みがあるらしい。」
「お!何々?それが出来たら止めない?止めない?」
「まあ、聞いてからにした方が良い。それで?」
「(・・・・今日の夜
ビーチの東でちょっとしたライブイベントがある。飛び入りOKだから・・・貴女、私と一緒に歌って欲しい。)」
勿論紀伊梨は首を縦に振った。
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