Family moments 2:My dream 2
その日の昼近く。
もうそろそろ昼食ですね、という時だった。

乾ともリラとも別れ、一足早くビーチに向かった家族の後を追って、ホテルで海へ行く準備をしていると、紀伊梨のスマホが鳴った。

「お?やなぎー?はいはい、もしもしー?」
『もしもし、俺だ。』
「はいはい!何でしょ!」
『昨日、勉強の続きを聞きたくなったら連絡を寄越せと言ったきりだったからな。どうんったのかと思ったんだが、出来たのか。』
「ああ、うん!教えて貰ったお!」
『そうか。家族にか?』
「ううん!あのねー、こっちで友達出来たんだー!すっごい頭良いんだよー!あ、日本人なんだけどね!乾っちっていうの!」


柳は電話の向こうで息を呑んだ。


『・・・・・』
「・・・やなぎー?」
『・・・五十嵐、一つ聞きたいんだが。』
「はいはい!」
『・・・・・・・・いや、やはり止めよう。気にしないでくれ。』
「え、何ー!?言ってよ、気になるよー!言ってよー!」
『良いんだ。本当に勘違いだ。』
「えー・・・・」
『話を戻すが、勉強は終わったんだな?』
「あ、うん!ばっちりです!あんがと!」
『それなら良いんだ。旅行を楽しむと良い。』
「うん!あ、そうだそうだ!あのねー、紀伊梨ちゃん今日の夜ライブで歌うことになってねー、」




「ふう・・・・」

紀伊梨と通話を終えた柳は、小さく息を吐いて座っていた椅子の背もたれに体重を預けた。

「・・・・・・・」

いぬいっち。
と紀伊梨は言った。

紀伊梨の性格上、おそらく「っち」の部分があだ名である可能性が高い。とすると、自然相手の友人の名前は「いぬい」という事になる。

日本全国津々浦々、いぬいという苗字の人間なんて探せばザラに居るだろう。
紀伊梨の世話をしてくれたいぬいが、柳の脳裏に浮かんでいる乾その人である可能性など、天文学的確率。

という所まで考えて、柳は思ったのだ。
そんな事どっちでも良いのだと。

(五十嵐の出会った「いぬい」とやらが、仮に貞治であったとしても・・・俺は其の事について何も触れられない。)

自分は未だに持っていない。
乾貞治に言う言葉も、合わせる顔も何もかも。

仮に乾と接触できる機会があったとしても、自分はそれを避けるだろう。
傷つくのが怖いから。
先に傷つけたのは自分の方なのに、乾の方からはっきりと「お前なんか嫌いだ」と言われるのが怖くて仕方ないのだ。

だから柳は紀伊梨に聞きかけてやめた。
聞いた所で何になろう。
フルネームを尋ねた所で、どっちにせよそうかと言って終わりにするに留まってしまうから。

「・・・どうすれば良いんだろうな。」

何が最善なのかわからない。
足を進めようにも、進める方向が決められない。
様子見と言えば聞こえは良いが、時間が解決してくれると限ったわけでもないのに。

柳は未だに答えが出せないでいる。

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