Pupil
「・・・あのー。」
「何だ?」
「私ー、なるべく紫希ぴょんに教えて、欲しい、なー、なんて・・・」
小さく片手を上げる紀伊梨の前には柳。それから隣に真田。
「却下だ。」
「なんでー!」
「簡単な話だ。春日がつくと、お前が甘えて必要以上にじっくりやってしまう確率100%。」
「うぐ!」
「五十嵐!言っておくが、俺達は容赦はせんぞ!出来る限りのスピードと密度で進め・・・おい!聞いとるのか返事をしろ!」
「嫌だー!聴きたくなーいー!」
「残念だがお前の意見は聞いていない。さて、最初は数学からだ。」
ーーーーーーー
「・・・さて、この時要るものはなんだ?」
「・・・二酸化マンガン。」
「たわけが!先程から同じ答えしか出しておらんだろうが!」
「分かんないんだもーーーん!」
うがああああ!と頭を抱える紀伊梨は、もう頭が熱くて重くて破裂寸前だ。
「もー良いよー!答え全部二酸化マンガンで良いよー!」
「真面目にやらんか!」
「真面目にやっても分かんないもーん!」
「真面目にやって出来ない事などあるか!反復練習が足りんのだ、問題を何度も解け!同じ解答を繰り返し書いて暗記しろ!」
「楽しくないー!」
「勉学に楽しみを求めるな!」
「・・・・・・」
紀伊梨の進み具合としては、数学からスタートして社会を終えて今理科。
真田と柳のコンビの教え方は流石に無駄が無く、抑えなければいけない要点だけピンポイントで教えれば、所詮まだ一番最初の中間考査。そう時間はかからない。
だから一通り教えたら次は反復練習。
即ち、問題慣れと暗記であるが、これがなかなかに難航している。
「・・・聞きたいのだが五十嵐。」
「んおー・・・?」
「お前は如何にして受験を乗り切ったのだ?」
幾ら体育特化型とはいえ、立海は私立でそこそこ以上の偏差値の学園である。
所謂お受験という奴を紀伊梨達は乗り越えて此処に居るのであって、それなのにこの勉強の出来なさはなんなんだろうと柳はふいに思ったのだった。
「だって、ゆっきーが立海行くって言うから。」
「幸村がなんの関係があるというんだ。」
「あるよ!ゆっきーが行くってなったら、千百合っちが行くっしょ?ゆっきーと千百合っちが行くなら、なっちんが行くっしょ?3人も行くんなら、紫希ぴょんも私も行くよ!」
受験の理由は人それぞれである。
進路を見据えて決める者も居れば、それこそ制服が可愛いからという理由で決める者も居る。
どんな理由だろうと合格は合格だし、籍は籍。要はその為に如何程必死になれるかである。
「ちょー頑張ったんだよ!全然分かんなかったけど!」
「分からなかったのか。」
「うん!でも落ちたら皆と一緒に居られないもん!皆私より断然頭良ーし!」
程度の差はあるが、紀伊梨以外の4人共、受験の段階で先ず落ちないと思われるだけの脳味噌の出来はあった。
つまり落ちる可能性が極端に高いのが紀伊梨だけで、引いては自分以外皆同じ中学校とかいうクソ寂しい事態が十分あり得たのだ。
そんなえげつない事あるだろうか、いや無い。だもんで紀伊梨は必死に、それこそ鬼気迫る勢いで勉学に励んだのだ。
受験前だけは。
「・・・ふむ。俺は思い違いをしていたようだ。」
「うにゅ?」
「どういう事だ柳?」
「五十嵐は性格から考えて、馬の鼻先に人参方式・・・つまり、終わった時に褒美を用意すればやる気の出るタイプかと思っていたが。」
「「が?」」
柳の目がス・・・と僅かに開かれた。
「どうやら逆だな。尻に火が付かないとやらないタイプのようだから、もし上手く行かなければその時にペナルティを課そう。」
「成程!良い案だな!」
「何処がですかーーーー!何がですかーーーーー!」
流石は柳だ、いや大した事では、とか晴れやかな顔で言ってる2人が憎らしい。
「しかし、ペナルティはどうするか。」
「差し当たっては、赤点を取ったら次の考査まで春日の菓子は抜き、辺りで良いのではないか?」
「重い!ヘビー級だよ!どーしてそんな目に遭わなきゃいけないの!」
「それが嫌ならキリキリ勉強する事だ。」
「ぐうううう!」
「座れ五十嵐、次だ!良いか、1つを除き全ての条件を同様にして行う実験を対照実験と・・・」
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