Pupil

「あっちは荒れてんなw」
「良いのか、放っておいて・・・」
「ほ、本気じゃないですよ、多分・・・」

紫希は桑原と棗に国語を教えている真っ最中である。

棗は小説が苦手だが、桑原はほぼ全部苦手だ。

「取り敢えず、忽ち点数を取れるところは取ってしまいましょう。漢字、部首、熟語、暗喩直喩擬人法比喩、その辺りから詰めれば、暗記なので確実に点数が取れますよ。」
「頼む。」
「では、部首から。此方がへんで此方がつくりです。へんは●へん、○べん、で終わる事が多いので・・・」
「ごめん紫希ー、これの部首はー?」
「これは「ふるとり」です。」

桑原には基本を、棗には応用を。
読書量を増やせばおいおい分かる所は長い目で見れば良いから、先ずは覚えてしまったら解ける問題を埋めて行く。

「・・・という話から、矛と盾の漢字で矛盾という熟語が出来上がるわけです。」
「はー・・・分かりやすいな。」
「そうっしょwもっと褒めてw」
「お前を褒めたわけじゃないからな?」
「いえ、そんな。大した事じゃないですから。」

(そういうけどな・・・)

桑原はついつい、真田と柳に教え込んでもらっている紀伊梨に目が行く。
推測でしかないが、受験の時はあのポジションは紫希のものだったのではなかろうか。

「お察しの通りよw」
「やっぱりか・・・」
「?何のお話ですか?」
「いや、受験の時春日は五十嵐にかかりきりだったんじゃないかと思ってな。」
「ああ・・・まあ、そう、でしたね。」

紫希は苦笑いした。

「で、幸村が俺と千百合の面倒纏めて見てくれてたw」
「お前らもか?」
「受験は相対評価ですから。千百合ちゃんも棗君も出来ていましたけど、やっぱり安心は出来ませんし。」

何点取ろうと、それを上回る人間が何人も居ると自分は落ちるのである。
だから模試でA判定が出ようと、周りより出来ていようと、合格通知が来るまでは強迫観念めいたものが多かれ少なかれ誰の胸の内にもある。

「あの時は紫希がバロメーターみたくなってたなw」
「バロメーター?」
「紫希が落ちるなら全員落ちるから、皆で同じ中学校行けるね的なw紫希が合格圏内に入ってからが、何人通るかの勝負よw」
「ああ、そういう事か。」
「棗君、受験の時も何度も言いましたけれど言い過ぎですから・・・」
「言い過ぎじゃねえやw実際俺達5人の中で成績は1番良いんだからwまあおかげで受験の時は世話になりまくって正直すまんかったけどw」
「それは構いませんけど。」
「・・・さっき聞こえたんだが、お前達2人とも幸村が立海に行くから此処に来たんだろ?」

紀伊梨の声は大きい。
ちょっと離れてるくらいなら普通に何と言ってるか聞こえる。例え勉強していてもだ。

「良くそれで来ようと思ったな。受験までして。」
「まあ、幸村以外俺達特に此処行きたい!って学校はなかったしねw親も良いって言ってくれたし。」
「それにやっぱり、皆と一緒に居たかったです。部活は違っても、大好きな友達が夢に向かって頑張るのなら、近くでそれを見ていたいですから。」

幸村が立海に進路を決めた時、最初に報告したのは親ではなくてビードロズ達だった。



皆。俺は立海大附属に行こうと思う。



スカウトが来ていた事は知っていた。
他の4人がどうあれ、行くと決めたのも幸村の目を見れば全員分かった。

きっときっと、立海でもテニスに明け暮れる日々を幸村は送るんだろう。
それが分かるから、紀伊梨はいの一番に叫んだ。



良し!じゃあ立海に行こう!そこでビードロズの名を轟かせよう!



それは幸村を含めて皆が目指したい目標で、全員の総意だった。
此れから始まる青春を5人一緒に過ごしたいと思った。

勿論、学校を決めるとあっては親の意見や経済状況を無視するわけにはいかないけれど、概ねあっさりOKが出た。

「一番親が難色示したのは紀伊梨の所だったかなw」
「そうなのか?すぐOK出しそうなイメージなんだが・・・」
「成績的に無理じゃないか、と言われたんです。紀伊梨ちゃん、勉強が大嫌いなのを御両親は知っていましたから。」
「まあ勉強するってなると成績良い紫希や幸村に負担係るのは避けられないしw後、よしんば入ったとしてもついていけないんじゃね、っていうねw」
「その通り過ぎて何も言えねえよ。」

実際今、ついて行けてなくてひいひい言ってる真っ最中。
亀の甲より年の功、親の言う事は当たってた。

「で、でも!紀伊梨ちゃんはそれはもう頑張ったんですよ!幾ら教える側にやる気があっても、教えられる側がその気じゃないと成績は伸びませんから、合格したのは間違いなく紀伊梨ちゃんの成果です。だからきっと、今度の中間考査も大丈夫ですよ。」
「大丈夫・・・?」
「大丈夫か?本当に大丈夫か?」

ちら、と少し離れた机で勉強中の紀伊梨を見やる。




「貴様、先に「サマー」と自分で読んだばかりだろう!何故綴りに「m」が入っていない事に違和感を覚えんのだ!」
「分かんないよー!じゃあ逆になんで「サマー」なのに「a」が入ってないのー!」
「ローマ字読みから離れんかあ!」




「「・・・大丈夫?」」
「・・・きっと。そ、それよりこっちはこっちの勉強をしましょう!桑原君、此処はこっちの選択肢が正解なんです。」
「そうなのか?どうしてそうなるんだ?」
「此処は、前の段落のこの辺りがポイントで・・・」


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