Pupil


「あっちは並ぶと天国と地獄だな。」
「上手い事言うじゃん。」
「だろい?」

千百合は幸村に社会、丸井は仁王に数学を教わりながら、あっち、と言われた方に目を向ける。

天国は紫希が講師の国語ゾーン。
桑原も棗も大人しく話を聞くし、地頭が良いのでスムーズ且つ和やかに勉強は進む。

そして地獄は無論紀伊梨を教える真田と柳の机。
さっきからうおー!ぎゃー!なんでー!たわけがー!とひっきりなしに叫び声が聞こえてくる光景は、正に阿鼻叫喚の地獄絵図。

「ふふ。でも、五十嵐には刺激になると良いね。俺や春日が教えても、ああいう風には絶対出来ないから。」
「あのくらい容赦ない方が良いんじゃない。」

今思い出しても疲れる、受験当時の時の紀伊梨の惨状。
1つ入れては1つ頭から抜け、正に3歩進んで2歩下がるを地で行くような有様だった。
連日連日誰かが入れ代わり立ち代わり勉強を見て(半分は紫希だったが)伸びない点数に歯噛みしながら、皆で頭を寄せ合って勉強したものだ。

「よう受験通ったもんじゃな。丸井、其処は計算間違いじゃ。」
「うおっと。」
「それ、何度も言われたわ。」
「懐かしいね。学校の先生や親やクラスメイトや・・・本当に色んな人に言われたから。」

全員合格したよ!と言って回った時、皆おめでとう!より全員!?と確認する方が先だった。
居残り補習に付き合ってくれていた先生などは号泣していた。
まあ、泣かれれば泣かれるほど紀伊梨としては複雑だったが。

「自分の受験より、五十嵐の受験の方が心配だったよ。」
「私ら皆そうだったからね、それ。」
「まあな。さっき聞こえてきた春日の話じゃねえけど、五十嵐が通るんだったら全員通るだろうし。」

上のバロメーターが紫希なら、紀伊梨は言うなれば下のバロメーター。
誰か落ちる人間が居るならそれは紀伊梨以外居ないのであり、紀伊梨と他に後誰が落ちるかな、という判断になる。

「でももう私、あんなんに付き合いたくないわよ。」
「心臓には良くないじゃろうしな。」
「それもあるけど、面倒くさい。・・・ねえ、これ覚えなきゃダメ?」
「うん、余裕があればね。絶対出ると言うほど重要じゃないけど、応用の中では出る可能性が高いから。」

ありがと、と呟いてもくもくと書き込む千百合。
その千百合を幸村はじっと見つめる。

「・・・ねえ。」
「うん?」
「うん、じゃなくてこっち見るの止めてくれない。というかなんなの、その嬉しそうな顔は。」

そりゃあ嬉しそうな顔にもなるさ。

「幸せだなあと思ったんだ。千百合や、皆と同じ学校に通えて。」

真田を含めて、幸村は今、同じ学校で過ごしたいと思った人間全員と過ごせて、思い描いた通りの学校生活を送っている。
でもそれは、只で手に入れた物じゃない。自分は勿論、ビードロズも真田も、皆立海目指して頑張って此処に来た。

自分の為に有難う、などと思いあがった失礼な事を言う気は無い。
でも、こうして目の前で真田と紀伊梨がわあわあ騒いで居たり。
紫希と棗が軽い会話をしていたり。

それから目の前で、千百合が自分と同じテストに向けて勉強してたり。

そういう光景は、何か一つ間違えばなかったかもしれないんだと思うと、幸村は今が幸せでならない。

「テニスも思う存分出来るし、面白い友達も増えたしね。」
「それは誰の事じゃ?」
「え、分かんねえの仁王?」
「心当たりが多すぎてな。」
「ふふふ。」

(・・・幸せねえ。)

千百合は下を向いた。

幸せだ、なんて自分だって思ってる。
何事も面倒がりで何かに興味を惹かれる事に乏しい自分は恋人の幸村、親友の紫希と紀伊梨以外進路を決めるこれといった理由が無かった。

だから、落ちる可能性は5人の中で紀伊梨が一番高くても、落ちてバラバラになった時一番学校生活にやる気が無くなるのは自分である事を、千百合は重々承知していた。
部活とか面倒だし。気の合わない人と気が合ってるフリするの怠いし。
どんな事でもそこそこは出来るけど、それが意味を持って輝き出すのは恋人が、親友が自分の傍に居てくれるから。

だから自分だって皆と、幸村と、こうして居られる事を幸せだと思ってると幸村は分かってるんだろうか。
あんまりわかってない気がする。

「・・・・・・・」

サラサラ、とペンを滑らして。

「・・・ねえ、此処何か楽な覚え方無いの。」
「うん?何処の事・・・」

トン、とペン先で突いた所には、世界史に出てきた古代の哲学者達の名前。

の、隣にあるたった一言。


"私も"





(黒崎の隠し方はなかなかなんじゃがな)
(全部幸村君の顔に出るから隠せてねえんだよなー)

「丸井、其処は逆数ぜよ。」
「え?此処・・・おい、あってるじゃねえか!」
「プリッ。」



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