Pupil
「もう始めてからそこそこ経ってるし、そろそろ一度休憩にしないかい?」
この発言を聞いた時、紀伊梨には幸村に後光が差して見えた。
「神様仏様ゆっきー様ああああ!」
「よしよし。頑張ったね五十嵐。」
もうこんな所に一秒だって居られるかと言わんばかりに席を立って、幸村にひしとしがみつく紀伊梨。
幸村は極めてにこやかに頭など撫でているが。
「でも、明日は俺が五十嵐の担当だからちゃんと今日の復習をしておくんだよ。」
「え”?」
「しておくんだよ?」
紀伊梨はしがみつくのを止めてふら・・・と後ずさった。
こういう時の幸村の微笑みは、言い知れぬ圧力を感じる。
「神等居らんちゅう顔しとるの。」
「そもそも復習は言われずともするものだろう!」
「それが出来るなら、今こんなに困っちゃ居ないわよ。」
「真理だろい。」
紫希はちら、と時計を見た。
この分なら、休憩後もまだ勉強は続くだろう。
「・・・あの、今の内に良かったら何か買ってきましょうか?コンビニでお菓子でも・・・」
「コンビニでお菓子!」
先程の絶望の表情は何処へやら、急に顔の輝く紀伊梨。
「一緒に行きますか?」
「「行く!」」
良い返事をするのは紀伊梨と丸井。
「なんであんたまで反応すんのよ。」
「お菓子食いてえから。」
「というか紫希は待ってたらw俺行ってくるよw」
「春日はずっと1人で2人を見ていたから、疲れているだろう。任せたらどうだ。」
「いえ、それ程疲れてませんし。それに選ぶ楽しみがありますから。」
こういう買い出しの時に、店に行って自分で好きなものを選べるのは動く人間の特権である。
「でも、もう1人連れてったら?食い意地張ってんの2人連れて歩くのしんどくない?」
「食い意地は否定しねえけど、俺はあそこまで馬鹿でもねえよ。」
「あー!馬鹿って言ったー!」
「今しがたまで馬鹿を露呈してたくせに何を言うのw」
「紫希ぴょん、ろてーって何?」
「あ、後でお教えしますから・・・それに、3人で大丈夫ですよ。」
「良いの?」
「ええ。紀伊梨ちゃんも丸井君も頼りになりますもの。そんな困った事にはなりませんよ。」
「春日の見ている五十嵐は、俺の見ている五十嵐とは違うのか・・・?」
「奇遇だな、俺の見ている五十嵐とも違うようだ。」
「その辺にしておいてあげておくれよ。」
幸村としては、もう苦笑しか出来ない。真田と柳の言う事も否定しづらいから余計に。
「それで、何を買ってきたら良いでしょうか?」
「コーヒーを頼むぜよ。」
「はい、分かりました。種類は?カップですか?缶ですか?」
「無糖ならどれでも構わん。」
「ふふ。分かりました、微糖には気を付けます。」
「ああ、助かるナリ。」
「えー、ブラックって美味しいのー?」
「お子様味覚には分からんじゃろうな。」
「何おー!」
「俺は取り敢えず、紙パックのお茶があれば良いかな。」
「私飴欲しい。」
「分かるわw糖分欲しいわw」
「饅頭を頼むか。」
「待て、コンビニに饅頭が売っているのか?」
「ああ。最近は和菓子の類も売っているぞ。」
「なんでもあるな・・・」
「ジャッカルは一口チョコレートで良いだろい?」
「それはお前が食べたい物だろ!」
「まあまあ♪後、俺の分払ってくんねえ?」
「自分で買え!」
「・・・ふふ。」
紫希は思わず笑みが零れた。
楽しい。
人見知りの自分が、こんな賑やかな学校生活を送れているなんて、夢みたいだ。
このままずっとこんな日々が続けば良いと、紫希はそう思った。
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