Aroma
やられた。
「行こうか、千百合。」
理科室前の廊下。
満面の笑みで幸村にそう言われると、正に千百合の手にはyesかはいのカードしか残されていない。
「・・・私、弁当教室に、」
「春日が持ってきてくれたから、此処にあるよ。」
(紫希・・・・!)
分かってる、これは友人の親切なのだ。
自分だって嬉しくないわけではない。
わけではないのだが。
「さ、もう終わったんだろう?皆待ってるよ。」
「うん・・・」
こうなるともう逃げられない。
大人しく一緒に行くことにしよう。
「あの人誰かな?」
「もしかして、黒崎さんの彼氏?」
「えー、入学してから5日だよー?」
「馬鹿、もっと前からの付き合いなんでしょ。」
(そういう事は本人の居ない所で言えよ!)
幸村も幸村である。
察しの良い子達だね、とか言ってニコニコしてる場合か。
(精市って、恥の概念あんのかしら・・・)
ある。
千百合が見ていないだけの話だ。
「新しいクラスはどうだい?」
「うん?んー・・・まあまあ。」
「そう。・・・実は今度、春日に聞いてみようかと思ってるんだけど。」
「ん?」
「弦一郎と喧嘩したりしてないかい?スクールで会った時も、千百合と弦一郎は度々衝突していたからね。同じクラスになって、どうかと思ったんだけど。」
読まれている。
流石と言うべきかなんというべきか。
つい、と気まずげに目を逸らす千百合が可愛くて、幸村は笑みを零した。
「あんまり、春日を困らせないでおあげよ。あの子は優しいから、例え君達の諍いが表面上の物であっても、ね?」
「・・・分かってるよ。」
分かってるけど、やってしまう。
千百合だって真田が嫌いなわけではないし、何も好き好んであんなやり取りしたいわけじゃないのだ。
今日こそは普通に、と思えば思うほど。
「まあ、千百合だけの所為ではないんだろうけどね。弦一郎は、少し考え方を曲げなさすぎる所があるから。」
「ん・・・いや。でもやっぱり、これは私が悪いのよ。」
「そんな事・・・」
「あるわよ。何か変えたい事があるなら、人より先に自分が変わらなくちゃ。」
幸村はそれを聞いてついつい笑みが深くなってしまう。
本当にストイックな子だ。
其処が綺麗だと幸村は常々思っている。
「ふふふっ。」
「・・・何よ、笑っちゃって。」
「いや。やっぱり千百合は、素敵な女の子だと思ってね。」
「は・・・!?」
そういうお前はやっぱり恥の概念が無いんじゃないのか。
弁当をひったくって駆け出したい衝動を抑えながら、千百合はそう思った。
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