Encounter 1
「ちっすー。」
「紫希、ごめん。待たした。」

入口の扉から顔を覗かせたのは、千百合と棗だった。

「・・・えーと、お邪魔だった?」
「棗君、そういうのは失礼ではないでしょうか。」

間髪入れずに丸井を守る紫希に、棗は笑い千百合は兄に呆れた。

「本当真面目だねー、お前って奴はw」
「あんたが馬鹿過ぎなの。」
「妹が辛辣ぅ。」
「本当の事でしょ。馬鹿じゃないならCD忘れたりしないわよ。」

千百合は本来、紫希と一緒に音楽室に来るつもりだった。
ところが4限が終わる直前、
「録音に使うCDロッカーに忘れちゃった☆
錠の番号は1234だから悪いけどよろよろ☆」
とかいうクソふざけたメールが届いたので、仕方なく取りに行ってやっていたのだ。

「んで?お前が紀伊梨の言ってたブンブン君とやら?」
「おう!丸井ブン太、シクヨロ!」

((思ってたより細いな・・・))

ナチュラルに失礼な事を考えてしまう千百合と棗。
この辺は双子だ。

「私、黒崎千百合。」
「で、俺はその双子の兄貴の棗。」
「似てると思ったら双子かよい。あ、でも双子なら黒崎だとわけわかんなくなっちまうな。」
「なんて呼んでも良いけど、妹って呼ぶのは止めてね。セットにされたくないから。」

妹と呼ぶのは止めろと簡単に言うがだ。

「・・・丸井君、ああは仰いますけれど、千百合と呼ぶのも止めた方が・・・」
「え、なんで?」
「彼氏様がお怒りになるからだよ。彼奴怒ると怖いよ〜?」

「あんたら何話してるの?」

「んん?別に?」
「な、なんでも・・・」

千百合をはぐらかす紫希と棗の傍ら、丸井は「へー、彼奴彼氏居るんだ。」
などと呑気に考えていた。

「・・・お。この足音は来たんじゃない?」
「誰が?」
「今話した王子様だよ。」

規則的な、穏やかな足取り。
から、と落ち着いた動作で音楽室を訪ねてきたその人。

「・・・幸村君!?」
「やあ、丸井。」

丸井は大層驚いた。

よもや自分達立海テニス部のスーパールーキーにこんな所で会おうとは。

「え・・・お知り合いなんですか?」
「丸井もテニス部だよ。」
「マジかよw彼奴よくよくテニス部に縁があるなー。」

又別の話になるが、幼馴染5人の中で1番最初に友人になったのは幸村と紀伊梨であった。
中学に上がって紀伊梨は再度、「最初の友人はテニス部でした」という展開に相成ったわけだ。

「彼奴その内初恋の人にもテニス部選ぶんじゃね?」
「うーん・・・でも、立海のテニス部は有名で母数も多いですから。案外本当にそうなるかもしれませんね。」

「っていうか、丸井は紀伊梨から話聞いてるでしょ?分からなかったの?」
「いや、俺は全然。」
「あの、紀伊梨ちゃん、幸村君の事をお話しする時はゆっきーと呼ぶので、それかも・・・」
「あ、ゆっきーは良く聞くぜ!あれ幸村君か。女子かと思ってた。」

「・・・・・・」
「しょうがない、しょうがない。丸井に非は無いわよ。女子の話の中でゆっきーって子が出てきて、それを男子だと思えっていうのは無理があるから。」
「うん・・・それは分かってるし、どうでも良いと言えば良いんだけれどね。」

別に呼び方なんてと思い好きに呼ばせていたけれど、この年になるとちょっと考えた方が良いのかもしれない。

「・・・そういえば、その五十嵐は何処だい?」
「そうだ。俺、丸井と紀伊梨は一緒に来るんだと思ってたんだけど。」
「あ。」

そうだ。
言うのを忘れてた。

「五十嵐来れるかわかんねえぞ?」
「はあ!?」
「ええ!?」

おい、言いだしっぺ。
と全員が今思ったわけだが、丸井としては自分を見られても困る。

「数学の追加課題で捕まったんだよ。クラスの奴らに手伝ってもらうんじゃないぞー、とか言われてたしよ。」
「うわちゃあーw」
「あのバカが・・・」

笑う棗に、溜息を吐く千百合。
幸村でさえも、「1年の最初からか・・・」と呟いたのが耳に入って、紫希は苦笑しか出来ない。

「彼奴ギターとボーカルなんだろい?俺もどうかと思ったんだけど、ライブはやる、取り敢えず先に行っといて、って言うから。」
「・・・五十嵐の言わんとしてる事は、分かるんだけどね。」
「今回は彼奴居なくても良いからなー。」
「は?」

バンドに於いてギター兼ボーカルが抜けて良いなどという事があり得るだろうか。

「居た方が二度手間にならなくて済むけどねん。」
「っていうか、そういうの云々抜きにして、リーダーは居ろよ・・・!」
「ま、まあまあ千百合ちゃん!紀伊梨ちゃんだって、態となわけでは・・・タイミングが悪かったんですよ。」
「でも、いずれにしろ居た方が良いね。」

連絡だけはしておこう。
デザートが無くなるよ、とでも言っておけば、もしかしたら根性で終わらせてくるかもしれない。

そう思い、幸村が携帯を手に取った矢先の事だった。

着信。

「すまない、電話だ。もしもし、幸村・・・

・・・柳?」



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