Solicitation:4th game 3

あそこのベッド。
紀伊梨がダイブして咳き込んだ、この天蓋付ベッドである。

「此処なのか?」
「多分な。」
「「安寧の隠れ家」がベッドという事ですか?」
「何か安直じゃない?」
「そうだね。確かに安直ではあるけれど、此処が答えなんだっていう根拠はあるよ。」

幸村は微笑みながら、さっき柳が換気の為に開けた窓をコン、コンと小突いて見せた。

「これが何?」
「月の目、でしょうか?此処の窓から月が見えるという事ですか?」
「そうだね。まあ月は見える位置がずっと同じと言うわけではないけれど、少なくとも今日。今晩は此処の窓の真正面に月が来る筈だよ。」
「ああ、方角から言うてもそうじゃろうな。」

コンパスなんて持ってなくても、この位の事は腕時計と知識があれば事足りる。

(此奴らコナ/ンみたい)

「千百合ちゃん?」
「なんでもない。で?だから隠れ家がベッドで?」
「「神への祈りを乞い願う」・・・何か宗教関連のものでもあるのか?」
「あ、ベッドヘッドに本などあるかもしれませんね。此処にお住まいだった人は、宗教に造詣が深いようでしたし。」

(宗教に?)
(造詣が深い?)

仁王と幸村はその言葉にピクリと眉を動かした。

「何故そう思うのだ?」
「あちらの本棚にある本が、全てキリスト教に関連する本でしたので。きっと興味がおありだったんだなあ、と。ロケットにもキリストの彫刻がありましたし。」
「随分変な奴ね。」
「あら、変でしょうか?」
「だって年頃の女の子なのに一番興味あるのが宗教って。」
「それこそ人の勝手だろう。」
「だから良くないって言ってないでしょ、変わってるって言ってるの。」
「ま、まあまあまあ・・・何に興味があるのかはそれぞれですけれど、私達からするとそれほど身近とは言い難いですよ。此処は日本ですし、立海は別にクリスチャンの学校でも無いですから・・・」

「どう思う?」
「変だね。」

幸村はバッサリ言った。

「其処まで熱心な割には、祭壇が無いし。信者ではなくて興味で勉強していたんだとすると、デスクが小さすぎる。」
「まあ、なにがしかのヒントじゃろうな。」
「だろうね。でもまあ、忽ち要るヒントかと言われるとそうでもなさそうだ。今はベッドの話に戻ろう。」

さっきから一同探しては居るのだが、宗教的な何かとやらは見つからない。

「乞い願う、ねえ・・・」

千百合はどうも其処に引っかかる。

祈る、で良いじゃんと思う。
それで十分事足りるのに、どうしてこんな余計な物くっつけるのか。

「ねえ紫希。」
「はい?」
「乞う、ってどういう意味?」
「乞うというのは、そうですね・・・基本的には丹念にお願いする、頼み込むと言うようなニュアンスが強いです。此方から相手に対して何かを望む時なんかに・・・」
「じゃ、「神に乞い願う」っていうのは、神様に何かをお願いしてんの?」
「基本的には許しではないのか?俺には神に許しを乞う気持ちなど分からんが。」
「そうですね、真田君の言う通りです。基本的にキリスト教に於いて何かを願うとしたら、多くは許し、ないし救済ではないかと。」
「ふうん・・・」
「何か気になるのかい?」
「いや、長々と書くなあと思って。」
「長々?」
「此処。祈るってだけ書いたら良くない?祈った先、で良いじゃんと思って。」
「それはなかなか良い着眼点ぜよ、黒崎。」

そう、千百合の言う通り「祈った先」でも十分通じる。
それを敢えて長々書いているとすれば。

「そうなの?兄貴の事だし、余計な事適当に書いてる気もするけど。」
「いや。こういうゲームには「余計な事」っちゅうのはご法度なんじゃ。」
「書いてある以上、何か意味がある。そういう事だな?」
「うん。ただ、このワードは確かに難しいね。」
「「乞い願う」・・・って、どういう事でしょうね。」
「よし、春日。取り敢えず祈ってみんしゃい。」
「え、えええ・・・?い、祈る、祈るってええと、ええ・・・」

おずおずと胸の前で手を組む紫希。
良くある祈りのポーズだが。

「こ、こうですか・・・?」
「おう、ポーズはそれで良い。後は何か祈るんじゃ。」
「そこまでしなくて良くない?」
「こういうのは、実際にやるのが大事じゃ。乞い願うと書いてある以上、熱心に祈るべきぜよ。」
「ね、熱心に・・・」
「大丈夫だよ、春日。そんな難しい事じゃないさ。」
「一先ず、何か願いたい事でも祈ってみればどうだ?」
「願いたい事・・・熱心に願いたい事・・・」

それなら簡単だ。
どうせ口には出さないのだし。

(キーボードが弾けるようになりますように、もっと上手くなりますように、せめて棗君が居なくても自主練できるレベルに、早く・・・・!)

「おう、熱心じゃの。」
「いや、お前がしろって言ったんじゃん。」
「しかし、熱心には出来ているが・・・」
「次のヒントの在処に結びつきそうかと言われると、どうもね。」
「乞い方が足りないんじゃなか。」
「お前まだ要求するか。」
「願ってはいるが、乞うては居らん気がするき。」
「た、確かに・・・」

しかし乞うと言ったって。

(乞う・・・乞う・・・相手ありきの言葉ですよね。神様お願いします的な感じで・・・・)

頭の中で一生懸命、キリスト様をイメージ。
その上でキリスト様に頼み込む。
熱心に頼み込む。

お願い、お願い、お願い・・・・

「「「「あ。」」」」
「え?な、何?何かおかしいですか?」
「上向いた。」
「え?」

千百合から指摘されて気が付くと、成程。
いつの間にか顔が上がっている。

「ご、ごめんなさい!神様って上に居るイメージがありまして、つい・・・」
「いや。それで良いんじゃないかな。」
「どういう事だ?」
「つまり、乞い願う相手は上に居るんじゃなか、っちゅう話ぜよ。」

仁王が天幕を開き、全員が天蓋を覗き込む。

「しかし、あそこにあるのはシャンデリアばかりだぞ。」
「あのシャンデリアの隙間にあるんじゃないの?星の中にあるんでしょ、きらきらしてるし。」
「いや、なかった。何処にあるかわかったものではないからな、関係ないと思っても一度は注視してみたが。」
「あんたが見落としてるだけじゃね。」
「俺は見落としなどせん!」
「まあまあまあ・・・確かに、紀伊梨ちゃんが気に入って注目していたので、皆一度はシャンデリアを見たんですよ。」
「う・・・」
「ただ、暗かったですしあまり近くで見なかったのも確かです。確認しましょう?」
「む・・・」
「確かに暗いのう。」
「電気は・・・もう通っていないみたいだね。」

おそらくスイッチだったのであろうボタンを幸村が押しても、うんともスンとも言わない。

今はまだ日中だが、それでも部屋に電気が点いていないのでなんとなく薄暗い。
それが天蓋付のベッドの上となると尚更。

「もっと近くで見ないと分からないでしょうか・・・」
「断定出来ん事は確かだな。」
「しかしベッドの上に立ってもこれだけ暗いとよう分からんの。」
「私、嫌だからね。」

今後の展開が目に見えている千百合はバッサリも良い所である。

「肩車とかおんぶとか、するのもされるのも嫌。紫希にもさせないから。」
「千百合ちゃん・・・」
「そこは心配しなくて良いよ。俺達も2人に危ない事をさせる気はないさ。そうだろう、2人共?」
「無論だ。」
「ああ。」

本当はちょっと面白そう、と思いはすれど内緒の仁王。

「ごめんなさい、お任せしてしまって・・・」
「良いんだって、任せておけば。」
「でも、私役に立たないですし・・・私がもっと力持ちなら良かったんですけど・・・」
「私、力持ちで男子を負ぶっても平気な紫希とか見たくない。」

これは完全に自分の願望なのだが、千百合的にはこの親友にはなんというか、おしとやかな女の子で居て欲しい。
体格逞しく、重いものでも軽々持ち上げる紫希とか、自分の知ってる紫希じゃ無さすぎる。

「おい春日、何もせんでええから笑わせんでもらえるか。」
「えっ!あ、ご、ごめんなさい!」
「あんたらがちゃっちゃとしないからよ。ほら、早く早く。ハリーハリー。」
「喧しい!」
「あはは。ううん・・・でも、どうやら只のシャンデリアだね。何も変わったものは無いし。」

真田に乗ってシャンデリアを調べた幸村だったが、特に何も無かった。

「無かったですか・・・」
「って事は?」
「場所が間違っとる気はせんダニ、もう少しこの辺りを調べたい所じゃな。」
「上でないとすれば、下か?」
「でも、乞い願う「先」っていう言葉としては、上の方がしっくりくるのは確かなんだけどな。」
「でもねえ。これより上って言うと・・・」

天井。
いや。

「も・・・もしかしてですけど・・・」
「天蓋の上か、有り得る話じゃな。」

天蓋付ベッドは大きく分けて2つ。
天井に備え付けてあって直接天幕が垂れ下がっているか、若しくは天蓋付のベッドが丸っと部屋に入れられているかだ。
しかし。

「・・・見えんな。」
「天蓋が丸いからのう。」
「真ん中に次のヒントが置いてあるんなら、わかんないわね。」

そう、角度が付いているから天蓋のてっぺんは良く見えないのだ。

「大丈夫だよ、任せてくれ。」

にっこり笑う幸村の右手には、テニスボール。
棗から配布されている物である。

「見えないのに落とせるんですか・・・?」
「あるとすれば中心だろうから、其処まで分かっていればどうという事はないさ。」
「じゃ、お願い。」
「うん。」

(どうという事は無いときたか、この状況で良く言えるの)
(流石幸村だ・・・いや!俺は負けんぞ!今は及ばないかもしれないが、いつかは必ず!)

天井と天蓋の間の僅かな隙間にテニスボールをピンポイントで通す。
やってみる、ではなくてどうという事も無いからと爽やかに言う幸村だが、勿論フカシなどでは一切ない。
この男はその位平気でやる。出来る。

「ハッ。」

とても簡単そうに幸村はボールを打って見せた。

どうという事は無い、その言葉通りにボールは天蓋の上へと向かった。

そしてそのまま天蓋と天井の間を通り抜け、向こう側へと落ちた。
何かを伴って。

「今何か落ちたわね。」
「これはカードか?」
「みたいじゃな。書いてあることは・・・」

裏を向いていたそれを、仁王がピラッと表向きにした。
掌に納まる様なサイズのそれには、アルファベットが。

「「「「「BIL?」」」」」

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