Solicitation:4th game 5
その丸井は今、結構真剣に自分と戦っていた。

此処はあまり機能してないとは言え、温室。
そこそこの気温はあるし、外と比べて湿度が凄い。

何が言いたいかと言うと、喉が渇くのだ。
何か飲みたい。
それが叶わないんだったら、何かみずみずしい物を食べたい。

例えば果物とか。

「・・・・・」

そっ・・・と手を出しては引込め。出しては引込めを繰り返す。

目の前にあるのは桑。
桑原とは何の関係も無い、純粋に植物としての桑である。

今6月。
桑が実を付け、熟し出す時期。

(いやでも流石に・・・人ん家のだし、でも1個くらい、いやでも・・・)

そう、丸井は今、偶々見つけた桑を食べるかどうか真剣に悩んでいるのであった。

でも自分の家の庭とかならまだしも、山ですらないし思い切り所有者の居る土地なのに、勝手に取って食べて良い訳?という葛藤が。

食い意地と良心の飽くなきせめぎ合い。

「ブンブーン!」
「ん?ああ、五十嵐。」
「何してるのー?うお!何か生ってるー!何これー!」
「桑だよ。」
「くわ?って、桑ちゃんの事?」
「ジャッカルとは関係ねえからな?じゃなくて、桑だよ、桑!桑っていう植物!で、これは桑の実だろい。」
「へー!美味しい?」
「ああ、美味いぜ。」

そう、美味い。
美味いから今こうやって困っているのだ。

「本当!?ねえねえ、食べて良い!?」
「お前、俺が必死に我慢してんのに・・・」
「えー!?駄目なの、なんでー!?」
「人の家のだろい、これは。」
「あ、そうだった!」

丸井は食い意地は張っているが別に馬鹿ではない。
これを食べるという事は超えちゃいけないラインのかなりギリギリを攻める事になるという事と、もし何かあった時は企画者にしわ寄せが行く事をちゃんと考えているのである。

そこまで分かってるんなら諦めろよと思われるかもしれないが、此処で引けないから丸井なのだ。

「えー、でも一個くらい良くなーい?バレないってー!ね?ね?」
「うーん・・・」
「こんなにいっぱいあるんだしさー、紀伊梨ちゃんとブンブンだけの秘密って事で!」
「絶対だな?誰にも言うなよ?」
「あいあいさー!」
「良し。」

何がどう「良し」なのか、というツッコミの入らぬまま、紀伊梨と丸井は結局誘惑に負けて各々右手を桑の実に伸ばした・・・

「何をやっとる丸井!五十嵐!」

ぴゃあっと飛び上がって振り返ると、怒り狂った真田が居た。
正に怒髪天を突く勢い。

「このたわけものどもが!」
「げ・・・」
「わーん、真田っち許してよー!」
「許すか!反省しろ!借り場所の物を勝手に取るな!」
「だってー!」
「いや、これは流石に真田が正しいだろい。」

だってもくそもない、良いとも何とも言われてないのに生ってる物を勝手に取る方が悪いのだ。弁解の余地なし。果物狩りに来てるわけでもあるまいに。

「しかも良く見れば、これは桑ではないか!お前らと来たら、あんな不用意に手を伸ばして・・・」
「おりょ?桑って何か駄目なの?」
「手入れされていない桑は虫害が酷い。良く毛虫の被害に遭う。見た目に居ないと思っても、実に毛虫の毛が付いているという場合も、ままあるのだぞ。」
「ぎゃああああ!」

背筋にゾッとしたものが走る紀伊梨。

虫に対して随一の嫌悪感を抱いているのは千百合だが、紀伊梨や紫希だって普通程度には苦手である。しかも蚊とか蟻とかではない。毛虫なんて、得意な女子の方が珍しかろう。

「ブンブン止めよう!これは食べるの止めよう!」
「いや、俺も流石に此処まで来て食わねえよ。」
「知らずに食おうとしていたのか、たるんどる!丸井は兎も角も、五十嵐!お前は幸村から、この手の食用植物については教えて貰っているのではないのか?」
「千百合っちと一緒にしないでよーう!習ったけど忘れましたっ!」
「威張るな!」

流石に公園には無いけれど、ちょっと山だとか林だとかに行けば、食べられる植物を見かける事はままある。コケモモとかグミとか、如何にも美味しそうな物の中にはちょっと危ないのとか取扱注意な物もある。

美味そうとなると取り敢えず取ってみてしまう紀伊梨の為に、幸村はちょくちょく「食べられる野生の果物講座」を開いているが、残念ながら一番危ない人間には成果が見られない。

「兎に角!食べられるからといって、手を付けるな!食える食えない以前に、そもそも此処は人の敷地だぞ!」
「へいへい。」
「はーい・・・でもお腹空いたよー!喉も乾いたよー!」
「なあ。」
「持って来た物を飲み食いすれば良いだろう!休憩は適宜認められているのだから、それで何の不満があるのだ!」
「「足らない!」」
「・・・・・・」

真田さえも絶句する燃費の悪さ。

「・・・我慢しろ。無い物は無い!」
「ううう〜〜〜!」
「はーあ、もうちょっと食い物持って来ておくべきだったよなあ。」

後悔先に立たず。
禁断の果実にどうにか手を出さないでいられた紀伊梨と丸井は、がっくりと肩を落とすのだった。


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