Solicitation:4th game 8
『Aチーム、の、打球ではありません。解答は、無効。』
「おかしい。」
「え?」
千百合は汗ばんだ額をリストバンドで拭いながら言った。
機能不全とは言え、こう長時間温室に居続けると流石に暑い。
「何がよ。」
「俺達のしようとしてる事を、Bチームがしている。」
「え、まずいんじゃないの。」
「いや、まずくは無いよ。まずくは無い筈なんだけど・・・」
缶が落とされていく、という状況は、やった方のチームが有利になるわけではない。
幸村が有利になるのだ。
だからBチームが缶を落とす意味なんてない。真似した所で、Bチームの得になる事なんて、本来無いのだが。
(いや、あっちには柳と柳生が居る。無意味にこんな事をしてるわけじゃ無い筈だ。)
何かは分からないけど、何かが絶対ある。
「まあ、立ち止まって考え込んでも詮無い事だね。俺達もまだ缶のある方へ行こう、千百合ーーー」
「見付けたーーー!」
そんな大声出さなくたって。
貴方の声なら、ここに居る皆すぐ分かると言うのに。
「やあ、五十嵐。」
「あんた、その短パンのオレンジの汚れ何よ。」
「あ、これ?これは柿だお!」
「なんで柿が・・・まあ良いけど。」
紀伊梨に向かって、「何で」とか聞くだけ無駄。
それは付き合いが長くなるとなんとなく分かる事である。
「それより、何の用事よ。」
「あ!そーそー!これから紀伊梨ちゃん達正解のカンカンを狙うんだから、ゆっきーと千百合っちには大人しくしといて貰いますよっ!」
「へえ。」
まあ、それより他に方法は無いわな、と敵対している千百合でも思う。
しかし、大人しくしといて欲しいなと思った所で、現実はそうは問屋が卸さない。
「面白いね。どういう方法を使う気だい?」
「・・・これです!」
ああ出したくなかった。
こんな喧嘩の売り方、一生しないと思っていたのに。
内心で嘆きつつ、ええいもうどうにでもな〜れ!モードに移行しつつもある紀伊梨は、右手に持っているそれを掲げて見せた。
赤く小さく光る、ナナホシテントウムシである。
「・・・・・!」
ボト、と力の抜けた千百合の手からラケットが滑り落ちた。
「ゆっきーが大人しくしててくれないんだったら、このテントちゃんを千百合っちに投げてやるぞー!それでも良いのかー!」
そう、此処で取り出しましたる秘策は、なんと吃驚正面からの脅しである。
後に遺恨が残る可能性も考えて、出来る限り避けたかった最終手段。
「・・・成程、流石に頭脳派が2人もそっちに行ってるだけの事はあるね。」
幸村を止められない。
なら、幸村に自分で止まって貰えば良いじゃない、の発想。
確かに自分は何が相手でも負けないけれど、千百合はそうはいかない。
「千百合、」
「ちょっと、動かないで!投げられるかもしれないじゃん!」
「・・・ふう。参ったな、流石に上手いね。」
こうなると見越しているのだ、あの参謀と紳士は。
「ううう〜・・・ごめんね千百合っちー!ゆっきー、私本当はやりたくないんだよ、こんな事ー!」
「それは分かってるよ。五十嵐は、例え思いついたってこんな事はしないだろうさ。」
説得に当たる事も出来る。
頑張ってしようと思えば。
けど。
「分かった。」
「お、およっ?」
「お望みどおり、大人しくしているよ。ラケットも此処に置こう。こうしていれば、千百合は安全なんだろう?」
「お、おう?うん、そなんだけどさ。」
いやにあっさり引くな、と思った紀伊梨は、こういう所が幸村の幼馴染なのである。
幸村が引く時。
それは転じて、引いても問題の無い時なのだ。
「ほら、五十嵐もああ言ってるし。」
「・・・・・・」
「俺の後ろに居れば良いから、もう少し安心して千百合。」
「・・・分かった。」
悪いと思う気持ちはたっぷりある。
でも、もしあの赤い悪魔が自分めがけて飛んできたらと思うと、怖気が走って叫びだしたくなるのだ。
無理。生理的に無理。
本当に無理。無理無理無理。
紫希がそうしたからって、苦手に立ち向かえと言われて立ち向かえるか。
「ふふっ。」
「・・・何よ。」
「気にしなくて良いよ。」
「無理だっての、あの赤い色、」
「そうじゃなくて、足止めに嵌ってる事さ。」
「・・・・・」
「悪いなんて思わなくて良い。これは単純に、あっちの方が上手だったって言うだけの話で、千百合が悪いわけじゃないんだから。」
でも。
此処までは褒めてやるけど、ここからはどうだか。
自分だけ封じ込めて満足してるようでは、まだ甘い。
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