Solicitation:Epilogue 1
「・・・・・・」
「千百合、眠いかい?」
「ちょっと。」
幸村はくす、と笑った。
千百合がこう返してくる時は、転じて結構眠い時。ただ、今の状況で寝たくないという時にこう言う。
棗はこういう時、概ね異様に目が固い。
そして今日は、他にも目が固いと思われる者が数人いる。
そんな状況で先に寝たら、又知らん間に寝顔を見られたり撮られたりしかねない。
それが気になって、寝るに寝られないのだ。
「良いよ、眠っても。」
「・・・でももうあんな目に遭いたくないし。」
あんな目。
第一ゲームの寝顔写真の事である。
もう既に1枚敵の手に渡っていると言うのに、2枚目3枚目と追加を渡して堪るか。
「大丈夫だよ。俺が隣に座ってるから、誰かが撮ろうとすれば分かるしね。もし棗や仁王辺りが何かしようとしても、止めるから。」
「いや・・・其処までして貰うのは、」
「ふふ。良いから、寝なさい。」
「ちょ、」
悪戯っぽい声が耳を擽ったかと思うと、いきなりタオルを頭から被せられて、肩を抱き寄せられた。
「ちょっと、」
「しー・・・騒ぐと、余計に目立つから。」
その通りだけれど、目立たなくても。
仮にこのバスに、運転手と後自分達以外乗ってなかったとしても、これは恥ずかしい。
頭を幸村の肩に預ける形になるから、これ、外から見たらもう完全にカップルじゃないかとか。いや、そうなんだけれど。
(・・・煩い。)
伝わってくる幸村の体温。
近くなる匂い。
ああ、煩い。心臓が煩い。
寝なさいったって、こんなんじゃ眠れない。
「大丈夫。」
幸村の落ち着いた声が千百合の耳を滑り落ちる。
大丈夫じゃない。私が大丈夫じゃない。
やっぱり良いや、と言おうとした所で、千百合は口の動かない自分に気が付いた。
ドキドキしていても、体はやっぱり疲労している。
頭は起きていても、体はもう力が入らない。
体重が段々本格的にかかっていって、瞼が落ちていく。
「おやすみ、千百合。」
眠る直前、最後に聞いたのはその言葉だった。
(・・・眠ったみたいだね。)
すやすやと静かな寝息が聞こえる。
寄りかかってくる体温は何時もよりちょっと高くて、ああやっぱり涼しい顔して疲れてはいたんだろうなと思う。
でも、偶々とは言えこんな風に無防備な寝顔を見られるなら。
それも結構幸運かな、とか思ったり。
本音を言うともっともっと甘えて欲しいし、頼りにされたいし、当てにして欲しい。
でもそうしろと言った所で、千百合は性格上絶対それはやらないから、こういう時に千百合が心を許してくれているのが分かると幸村は本当に嬉しい。
「・・・ところで棗、反省したんじゃなかったのかい?」
真後ろの座席で、棗がビク!と肩を揺らしたのが気配で分かった。
「・・・やっぱ駄目?」
「駄目だよ、約束もしたし。それ以前にどうして其処までして千百合を苛めたがるんだい?」
幸村は不思議でならない。
嫌だと言ってるのに、どうしてそういう事をするのか。妹が可愛くないわけでは無い筈なのに。
「・・・だーってさー。お兄ちゃんとしては心配なんですよ、此奴の態度が。」
「心配するような態度じゃないと思うけれど。」
「こんなに突っ張ってて、恥の一つもお前の為にかけないような態度なのに?」
此奴、応援のゼリーすらも手渡しできないような奴なんだぜ。
なんて、棗は言うが。
「・・・ねえ、棗。」
「ん?」
「俺は別に、ゼリーを手渡しして欲しくて千百合と付き合っているんじゃないんだ。」
「いや分かってるけど、」
「いいや、分かってない。棗は分かってないよ、全然。」
あくまで穏やかに幸村は言った。
怒ってるわけじゃない。
棗は自分の事を思ってやってる面があるのも分かるし、それはそれとして有難いとも思う。
でも、棗は知らない。
全然知らない。
千百合の事じゃなくて、幸村の事を知らない。
「兎に角、駄目だよ。」
「ちぇー。」
「棗?」
「はいはい。お前は本当にお優しいんだからもー。」
引っ込む棗に、幸村はちょっと苦笑した。
優しいって?自分が?
全然優しくなんかないぞ。
本当に優しい人間なら、きっともっといろんな人に平等に出来る。
千百合に向ける優しさを、他の人に向けることが出来る筈。
でも出来ない。
やりたくない。
出来なくなってしまった。
千百合に、恋を、したから。
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