Solicitation:Epilogue 1
後部座席で眠る紀伊梨。
幸村の隣に居る千百合も、さっきから声が聞こえていないし、多分眠っているんだろうなと思う。
でも、紫希は寝ていない。
超眠いけれど、眠ってはいなかった。
(ソ・ド・レ・・・ソ・ファ・ミレ・ミ・ド・ドミ・・・・あ、間違いました・・・ド・ドレ・ミ・ド・・・)
睡魔に襲われながら必死に抗い、鞄を横に置いてこそこそとキーボードの練習をする紫希。
とてもとても眠いけれど、今なら紀伊梨も千百合も眠っているから、絶好の練習タイム。
エアキーボードをイメージし、指を動かして練習に励むが、どうしてもちょくちょく意識が飛ぶのは避けられない。
(眠いです・・・・あ、あれ?今何処まで弾きました?ええと、ド・レ・ミ・ファ・ソ・・・)
「なあ。」
紫希は心臓が止まるかと思った。
「ま、丸井君・・・・!」
「おう。」
良かった。
誰に見られたのかと思った。
「眠いなら寝たら?起こしてやるぜ?」
「あ、いえ・・・お気持ちは有難いですけれど、練習したいので。」
「練習?」
「はい、これの・・・」
ちょっと弾く真似をすると、丸井はああ、と呟いた。
「でも、今やらなくて良いんじゃねえ?眠いんだろい?」
「そうですけれど・・・私下手ですし、今なら皆うとうとしてますし・・・」
あくまで止める気の無い紫希に、丸井はちょっと溜息を吐いた。
呆れはしない。ちょっと慣れて来たから。
「ちょっと待ってな。」
「へ?」
丸井は席を立つと、紫希の隣に座った。
「え・・・?」
「この方が良いだろい。見えづらくて。」
さっきから紫希は、横から見えないように頑張って鞄の陰でこそこそやっていた。
それを思うと、隣に事情を知ってる人が居てくれるのは有難い。
「有難う、御座います。助かります・・・」
「おう。」
普段ならもう少し食い下がるけれど、これは甘えてしまう。
時間が惜しい。
練習しないといけないから。
(・・・あ、でも、これは・・・)
隣に居るから、ほんのちょっとだけ肩が触れていて。
その体温が、抗っていた眠気を酷く増長させる。
(・・・ラララ・ラララ・ラ・ソ・ミ・・・あ、違う、ラ・ソ・ファ・ミ・・・)
「・・・・・」
(・・・ファ・ミレ・・・・ミ・ファ・ソ・・・・)
「・・・・・ッ、」
丸井は笑うのを頑張って堪えていた。
さっきから指が同じ動きしかしてない。
瞼も閉じてきた。
多分もう限界なのだ。
「・・・・・・・」
(・・・ソ・・・・ソ・ソ・・・)
「・・・・・・・」
(・・・ソ・・・・ラ・・・)
「・・・・・」
「おっと。」
落ちた。
かく、と両手が下がったかと思うと、頭が自分の方に傾いだ。
「・・・お疲れ。」
右側に感じる体重に、紫希が如何にぐったり眠っているかを丸井は感じる。
もう少し、適当にやって良い所は手を抜いたら良いのにと思ったりもするけれど、最近はこうやって限界まで粘る所が紫希らしいな、
なんて思っていたり。
(でも、頑張ったらその後はちゃんと休めよ?)
ギリギリまで粘るのは良いけど、やり過ぎていきなりバタンキューなんて。
そんなつまんないの無しだからな、なんて聞こえやしないのに心の中で話しかけてみる。
紫希は返事をしないけど、こっちまで眠りたくなるような穏やかな顔ですやすやと眠っているから。
だから、それを勝手に了承の返事としておこう。
「ブン太、明日の朝練だけど・・・」
「しー。」
「え?・・・ああ。あああ・・・」
「何だよその、あああ、って・・・」
このあああはな。
お前又、他意無く他意しかないような事してんな、のあああだよ。
「で・・・朝練が?」
「ああ、ラリーの練習と、それからポーチでのプレイ練習なんだが。」
「・・・ん。」
「ちょっと、フォームを変えてみたいんだ。だから、」
「ん・・・」
「明日は俺、四ツ谷にペアを頼もうと・・・ブン太?」
「・・・・・zzz。」
丸井も落ちていた。
ああそうね、人肌の温度って眠くなるから、弟と眠るとぐっすり寝れるみたいな事言ってたものね。
でも、今寄りかかっているその人は弟じゃなくて同級生の女の子だけど、其処は良いのか。関係ないのか。
「寝てるんですかw」
「ああ黒崎か・・・」
「仲睦まじくてw何よりw」
寄りかかり合って眠る紫希と丸井は、成程確かに仲睦まじい。
「紫希も大概目は固いんだけどねー。珍しいねー。」
「そうなのか?」
「大抵は起きてるよwでも今日は、今迄生きてきて初めてって程運動したからなー。疲れたんでしょうな・・・」
「おい、その携帯は何だよ!撮るなよ!?」
「駄目?w」
「駄目!」
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