Solicitation:Epilogue 1
「柳。」
「ん?何だ?」
「代わるか?」
「ああ、すまないな。その内頼む。」
柳は、後ろで遠慮なく横になる紀伊梨の頭側に座っていた。
さっきからちょくちょく寝返りを打とうとして、座席から落ちそうになる度に紀伊梨の肩を抑えて戻してやる柳は、面倒見が良いなあと真田は感心する。
「熟睡しているな。」
「ああ。さっきから、しばしば寝言も言っている。」
「手を上げてくらさーい。」
突如割って入る紀伊梨の声。
「・・・今のがそうか?」
「そうだ。意味が分からないが、まあ寝言に元々意味などない。」
思っていたよりはっきりした声音に、もしかして起きてるんじゃないかと真田は思ったが、紀伊梨の寝顔は非常に安らか。
さっき自分が挙手を促した事など、知ろう事もない。
「なんというか此奴は、神経が太いな。良い事ではあるが。」
「・・・?ああ、黒崎と春日の事か。」
「そうだ。あの2人と違って、此奴にはそもそも起きていようと尽力する姿勢が見当たらん。」
「まあ、眠りたい時にそれを我慢するような性格なら、あれほどしょっちゅう居眠りはしていないだろうな。」
寝たい時に、寝る。
食べたい時に、食べる。
歌いたい時に歌い、弾きたい時に弾く紀伊梨は、自分の欲求にとても誠実である。
「幸村が以前、五十嵐をして「裏表がなくて正直」と言っていたが。物は言い様だな。」
「ふむ。しかし、間違ってはいないな。五十嵐はしばしば、主に勉強に関する事などで嘘や誤魔化しを言う事はあるが・・・」
「正直ではないではないか!」
「もやし!」
「・・・・・」
「・・・も、」
「真田。寝言に返事をすると。」
「おっと。」
もやしがどうした、とうっかり律義に聞きたくなった真田。危ない危ない。
「話を戻すが。正直ではない、とお前は言うが、幸村の言う正直とは、嘘を吐かないという意味ではないのではないかと俺は思う。」
「ではどういう意味だ?」
「確かめたわけではないが、推測するに。五十嵐は、自分の事を決して偽らない、と言いたいのだろう。」
自分を偽らない。
自分の本意でない事を、自分に言い聞かせない。
正しいか正しくないかとは別に、自分はどう思っていて、どうしたくて、どうしたくないかをとてもハッキリと自分の中に持ち、そして忘れず。
そういう意味では、真田も凄くそれに近いなと柳は思う。
まあこの友人は性格故に、正しい事とやりたい事が沿い過ぎなくらい沿ってしまってるけれど。
「?それは、当然ではないか?」
「ふふっ。そうだな、お前ならそう返す確率100%だ。」
序に、紀伊梨も同じ事を言う確率は100%。
「何のお話してんのーwって・・・」
「何だ?」
「いや、お前らが何?」
サッと、鮮やか且つ素早い動作で、ラケットバッグで紀伊梨の顔を隠す柳と真田。
「決まっているだろう。お前の撮影防止だ。」
「や、やだなあ、そんな事はしないよー。」
「そういう台詞は携帯を置いてから言わんか!」
「良いじゃん!これも思い出だよ、何時の日かこれも俺達の懐かしきメモリーになる!」
「懐かしむ以外の用途に使いかねんから止めているのだろうが!其処に直れ!」
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