Escape 1

「居らへん?」

可憐のクラスの入り口で、忍足は目を丸くしていた。

「何か〜、プチ家出なんだって〜。」
「へ?」
「アタシらもさ。居ないから、最初カゼでも引いたかと思ったんだけど。」
「跡部君の家出にお付き合い中らしいわよ?ええと・・・はい。」

伊丹が見せたスマホのLINE。

可憐、どうしたの?今日は風邪?という伊丹の問いに対して、可憐の返事は、今日は跡部君とプチ家出中です!とある。

「はあ・・・」
「知らなかったの?」
「ああ、朝練はちゃんと2人共居ってん。」
「家出はしても部活は行きます、か〜。可憐っぽ〜い。」
「ま、でも!それなら、放っておいてもブカツの時間には帰ってくるじゃん?」
「多分ね〜。」
「で、忍足君の用事は?」
「え?」
「携帯は繋がるみたいだし、急ぎなら言った方が良いと思うけど。」
「ああ、いや。大した用事やないねん。有難うな。」

ひらんと手を振って、忍足は自分のクラスに向かって歩き出した。

さっき言った事は嘘じゃない。
本当に、大した用事じゃなかった。ただ、貸してたスポーツ科学の本のコラムで気になった部分があったから、通りがかり序にサッと見せて貰おうと思っただけ。
そう、それだけ。
別に急ぎでも何でもない。

朝練の時も、変わった様子は無かった。
内川が最初疑ったという、実は体調が悪くて・・・の線も考えづらい。

恐らく、見立て通り跡部の気まぐれに付き合わされたのだろう。
逆に言うと、それなら跡部がずっと一緒に居るので、大抵の事は大丈夫だ。別に危ない目に遭ったり、GWのお使いの時の様に迷ったり怪我したりする事もあるまい。

榎本の言う事も恐らく正解。
きっと部活の時には帰ってくる。
プチ家出と言っていたけれど、何の事は無いただのエスケープだ。

ただの。
そう、何も心配する事なんて。

「・・・・・・・・」

心配する事なんて。

「・・・・・・・・」

心配する事なんて。

「・・・・一応な。」

忍足の指が携帯を滑り出す。

気をつけて帰って来るんやで、なんてお父さんの様な台詞が届くまで、後数秒。


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