Camp school:Light of fire
「・・・賄賂。」
野菜に包丁を入れながらあっけ・・・という顔で紫希が呟くと、後方で同じように野菜を切っている幸村は、いつものようにおかしそうに笑った。
「吃驚したかい?」
「ううん吃驚というか、発想がなかったというか・・・です。」
「まあそうだね。春日は考えもしないだろう。」
思いつきさえすれば紫希は別に驚かない。
幸村なら渡すだろうし、棗も通すだろう。
「千百合ちゃんはご存じ・・・じゃ、ないですよね。」
「俺は言っていないよ。とは言っても、そろそろ漏れてもおかしくはないけれど。口止め料は払っていないからね。」
「い、良いんですか、それは・・・」
「別に構わないさ。賄賂そのものは返って来なかったから、頼みは叶えられてるんだろうしね。」
(幸村君って、こういう所凄くはっきりしてますよね・・・)
やるとなったら振り切れる所と言うか、アクセルの踏み所で躊躇いなくベタ踏みする辺りが幸村の幸村らしい所である。と同時に、黒崎兄弟ととても馬の合う所でもある。
「でも、どうしてですか?」
「うん?」
「いえ、今までもこういったグループ分けみたいなものはあったと思うんですけれど。でもその時は賄賂なんて・・・」
「そうだね。渡していなかったよ、賄賂なんて。」
「今回は何かあるんですか?」
「ううん・・・今回は、というよりこれからと言うべきかな。」
「これから?」
「まだ本決まりというわけじゃなくて、部長と副部長以外は俺と弦一郎と柳しか知らない事なんだけれどね。夏休みは、以前話してたスケジュールより忙しくなりそうなんだ。」
「えっ、」
「春日?大丈夫かい、今何か手元が危なかったけれど。」
「あ、ああ、はい、ええ、はい・・・」
うっかり指を切りそうになった。
忙しくなるって。
そんな貴方、前言ってたスケジュールでも十分練習三昧だったじゃない。
これ以上忙しくなってどうしようって言うのよ。
賄賂の話より数十倍衝撃である。
「本当に大丈夫?具合が悪かったり、」
「大丈夫、大丈夫です!それよりその、忙しくなるって・・・」
「うん。だから、休みにそんなに一緒に居られなくなると思うと惜しくてね。只でさえ時間がなかったから。だからせめてこういう時は、と思って。」
「そうなんですか・・・あの、皆お体の方は大丈夫なんですか?」
「健康の事なら大丈夫だよ。柳が計算してくれてるから、部活中の休憩でちゃんと休んでいれば倒れたりはしないさ。体の方はね。」
「・・・心の方は?」
「うん?・・・ふふふっ。」
(み、皆大丈夫でしょうか、本当に・・・!)
夏休み明けて、何人か部活辞めてたりしたらどうしよう、なんて冷や汗をかく紫希。
口に出さなかった事が幸いであった。
もしそのまま幸村に聞こえるように言っていたら、それで辞めるならそれまでの話だよと追い打ちをかけられたであろう。
「そうそう。余計なお世話は承知で言うけれど、春日は大丈夫かい?」
「大丈夫?」
「ふふ。テニス部の中で、もっと遊んでおきたい人は居ませんか?って事だよ。五十嵐が何かしら考えるだろうけど、それでも今よりずっと顔を合わせなくなってしまうのはもう決まっているようなものだから。」
「そう・・・そうか、そうですよね。そう・・・」
今はなんだかんだ言って、友達とは過ごせている。
例えクラスが離れていてもこうした行事ごとは一緒だし、廊下で擦れ違ったりお昼を一緒に食べたり、教科書の貸し借りやあれやこれや、学校という同じフィールドで活動している上で結構顔を合わせるのだ。
でも夏休みになるとそうはいかない。
そもそもお互い暇じゃないし、今だってビードロズ4人、口には出さないけど幸村が居ない生活ってこんな風なんだーと思う事が各々度々ある。それに磨きがかかるわけだが問題ないですかと幸村は聞いているのだ。
夏休みはいずれ終わる。
でも、夏休みは長い。
「・・・そうですね。皆の顔が見られなくなるのは、思っているよりずっと寂しいんでしょうね。」
「ううん、そっちか。」
「え?」
「いや、何でもないよ。」
幸村としては、紫希がそれで良いのなら良いのだが。
それで良いなら。
「まあ、春日は大丈夫かな。」
「?何がですか?」
「ふふっ、こっちの話だよ。」
「?」
2/6
[*prev] [next#]
[page select]
[しおり一覧]
1年1学期編Topへ
1年夏休み編Topへ
-